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シアノとメンタント公爵(第三者視点)

 シアノは、メンタント公爵と正妻のメリンダの間にできた娘。

 両親の特徴を色濃く継いだ顔、髪をしている。


 対して妾の子であるレトロは、父であるメンタント公爵が父親であると言われても疑われる程、似ていなかった。

 髪の色然り、顔然り、加えて性格も、だ。


 シアノの物心がついた頃、毎日(・・)のように会いに来てくれる父であるメンタント公爵から、驚愕の事実を告げられた。

 シアノには、母親は違うが、姉が存在するという事を……。


 まだ幼かったシアノは単純に姉がいる事を喜んだが、その姿をみたメンタント公爵の表情は若干歪んだ。


 幼い時代には親の顔色と言うものは無条件に良く分かる為、若干の変化も何となく理解できたシアノ。

 つまり、姉と言う存在はいるが、あまり好ましい存在ではない……とこの時点で認識してしまったのだ。


 とどめを刺すようにメンタント公爵は告げる。


「辛うじて姉と言う存在ではあるが、お前の母のように貴族出身ではない母親から生まれた、いわば使用人的な存在だ。生まれも育ちも何もかもお前とは違う。そこのところは間違えてはいけないよ」


 疑う事すら知らない時代、そして無条件で信頼する父からこのような事を言われては、言われた事を信じ込んでしまうのも無理はない。

 この部分だけ見れば、ある意味シアノも被害者であると言えるだろう。


 こうして月日は経ち、活動範囲が広がったシアノは、時折立場上は一応姉である存在のレトロを見かけるようになる。

 着ている服は自分と違って使用人達が着ているような服。更にはボロボロ。


 未だおぼつかない動きで、使用人達から怒られつつ仕事をしているレトロ。


 この時に、シアノは父親であるメンタント公爵の言葉を思い出す。

 そう、自分とは違う存在である事を……


 こうして、歪な性格が周囲の手助けもあり形成され、肥大化して行く。


 更に時が経つと、いよいよレトロを追い出す日がやってきた。


 シアノの誕生日パーティーとスキル鑑定を行った日の夜、メンタント公爵の私室には公爵本人、正妻であるメリンダ、娘のシアノ、そして執事がいる。


「お父様、いよいよ明日あの目障りなレトロがいなくなるのね?」

「そうだ。お前が素晴らしいスキル統治術がある事もわかったし、あんな能無しをいつまでも我が公爵家で養う事もないだろう」

「今まで長かったですね。レトロの姿が視界に入るたび、思わず手が出そうになりましたから」


 執事以外の三人は、レトロ追放の話で盛り上がっている。

 執事は、己の心を完全に殺してその場に立っているのみ。


 執事として求められる技能は、ただひたすらに主の命に従う事と教育されてきたからだ。


 やがて話は核心に向かう。


「それで、あの二人の様子はどうだ?」


 初めて執事に声を掛けるメンタント公爵。


「既に荷造りを終えているようです。恐らく明朝にはこの屋敷を出る事でしょう」


「そう。お姉さま、いえ、元お姉さまは、私達に挨拶もなしに出て行くおつもりかしら?フフ、今まで散々お世話して差し上げたのに、なんて不敬でしょう。そうだ、お父様。もし挨拶なしに出て行くようであれば、少し罰を与えてあげた方が宜しいのではないでしょうか?」


 今まで散々嫌がらせをしてきたシアノにとって、あれは姉であるレトロをかまってあげていた事になっている。


「そうだな。だが、どうする?」

「以前お母様がお持ちになっていた魔笛、あれを使いましょう」


 魔笛。シアノの母であるメリンダがメンタント公爵に嫁ぐ前、実家の鍛冶士が修行の過程で作ってしまった魔道具。

 人には一切聞こえないが魔獣には良く聞こえる上、魔獣の興味をひいてしまう音がするのだ。


 人族としての使用方法をひたすら考えた結果、魔獣の暴走が起こった時点で、誰かが犠牲になってその群れの進路を魔笛で変更させる位しか思いつかなかったので、お蔵入りしていたものだ。


 比較的魔獣の存在が多く見られるメンタント公爵領に嫁ぐ事になったメリンダに対して、万が一の時には、自らの身を守るために誰かにこの笛を使用させるように……と渡されていたのだ。


 他人を平気で犠牲にするような事を言ってのける両親を持つメリンダも、歪んだ思想を持っており、その思想は漏れなくシアノに引き継がれている。


 だが、今までその笛を実際に使う事は無かった。

 嫁いだ当初は確かに魔獣の危険性を感じたのだが、王都に所属している騎士隊長のムロトが現れてから、危険な魔獣は即討伐されていたのだ。


 そして、今回初めてシアノによってこの魔笛を使うと提案がなされた。

 たったこれだけの言葉で、全てを理解したメンタントとメリンダ。


 そう、明朝に出て行く二人を、魔獣の群れに襲わせると言う事を……


「流石は統治術を持つシアノだ。メリンダもそれで良いか?」

「ええ、問題ありません。最早無用の長物ですから」


 こうして、早朝執事がレトロ達の後をつけ、方向的に王都に向かう馬車に乗ると判断した上で、御者に金を掴ませて数日後にこの笛を吹く様に依頼したのだ。


 御者に依頼した内容は、事実とは全く異なっていた。

 だが、執事の心得とは、自らの心を完全に殺して主の命に従うと刷り込まれている執事は、そのまま命令を実行する。


「私はメンタント公爵からの使いです。この話を外部に漏らす事は認められません」


 流石に領主の名前を出されては、否とは言えない御者。


「貴方にして頂く事は、大した事ではありません。当家で作成した魔獣除けの魔道具ですが、これを使用した感想を伺いたいのです。この馬車は王都に向かうのですよね?とすれば、数日後には魔獣が多数いる、あの場所を通過するはずです。そこでこの笛を吹いていただき、魔獣が襲ってこない事を確認してください。後日こちらに戻ってきた時にその笛を返却して頂きますが、その時に感想を教えて下さい」


 話の内容としては御者としてもありがたかった事、更には金銭まで貰えたので、二つ返事でその話を受ける事にした。


 やがて日が昇り、主であるメンタント公爵達が朝食を摂っている時に、御者に魔笛を使用する事を依頼してきたと報告する執事。


「おお、良くやった。シアノの予想通り我らに何の挨拶も無く出て行った不敬な輩だ。その程度の罰は必要だろうな」


 不敬も何も、さんざん雑に扱った挙句に突然追い出したのだから当然の行動なのだが、この三人の家族には理解する事は出来ない。

 更に、この行動によって何の罪もない旅人、御者、そして護衛の冒険者達が犠牲になるのは確実だが、気にも留める事はない。


 単純に長年の邪魔者がいなくなった事、そして数日後にはこの世から完全に消えている事に対して意味の分からない達成感を感じながら朝食は進んで行った。

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