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メンタント領主の城下町……

 シアノは、目の前にいる元姉であるレトロから驚くべきスキルの力を聞かされていた。


「私のスキル、スケジューラーはゴミスキルではないの。未来すら見通せるスキルなのよ。貴方達がここに来る事も知っていた。そして、既にここに来たので現在の項目に移動した。その後に見える、新しい未来……フフフ、バージル様が仰っていた通り、あなた達の町は酷い事になっているわね。これから精々頑張ってちょうだい」


 そう、未来が見通せると言う話……

 シアノの統治術も、ある意味未来が見えなくもない。


 だが、統治する領地に益がある行動を示すだけで、どのような事が起こるのかを明確に記してくれる訳ではないのだ。


 レトロの話を聞くならば、かなりのレアスキルである自分の統治術よりも遥かに有用である事は間違いない。

 しかし、当然そのような事は認めるわけには行かない。


「適当な事を言うのは止めて頂戴。本当に見苦しい。私が王族になるのがそんなに羨ましいのかしら?浅ましいわね」


 見当違いな事を言っているシアノ。


「どうとでも言えば良いわ。戻れば現実が分かるのだから。それに、私は過去も見る事が出来るのよ。そのおかげで、お母様を罠にはめて殺した犯人も知っているわ。何が挨拶もしない罰なのかしら?何が今まで面倒を見てきたのに……かしら?あなた達が少しでも長く苦しむように、私はこれから全力で努力するわね」


 家族三人と心を完全に閉ざしている執事しか知らない内容すら言ってのけたレトロを見て、この場に留まるべきではないと判断したシアノは、屈辱で震えている父のメンタントと共に、再びこの名も無き村を後にする。


 シアノは、元姉であるレトロの最後の言葉を噛みしめていた。

 長く自分達が苦しむように……


 確かに自分達が行った事が明らかになっているのであれば、あれほど恨まれるのは間違いない。


 だが、シアノは頭を振る。

 自分は王族。絶対の権力を有する上に、統治術がある。


 対してレトロは、キューガスラ王国の一領主に過ぎないバージル伯爵の庇護下にある。

 万が一にもレトロが未来を見通せるスキルを持っていたとしても、小さな存在が必死で喚いているに過ぎない。


 そう思い、半ば強引に不安を打ち消して領地に戻る。

 しかし完全に不安は打ち消す事が出来ないので、統治術を発動して領地に対する行動の指針にしようとするが……


 既に冒険者はいなくなり、既に騎士も存在していないメンタント領の城下町。


 本来城下町は、各領主が治める領地の中で最も安全で、最も栄えていなくてはならない場所であるはずなのだが、最も不安定な場所に早変わりしていた。


 最早シアノのスキルのレベルでは改善できる手立てはないため、統治術をいくら起動しても、起動できている感覚はあるものの、何の指示も得る事が出来ていなかった。


 こうなると、レトロが言っていた言葉に真実味が増してくる。


「お父様、城下町に異常があったようです。帰還を急ぎましょう」

「何?わかった。おい、お前ら急げ!」


 メンタントは娘のシアノの焦り具合から、統治術によって城下町の状態を把握していると理解している。

 そのため、護衛の騎士達に急ぐよう指示を出したのだ。


 かなりの速度で動かしたのだが、どれ程急いでも既に事態は変わらない。

 疲弊した騎士達と共に城下町に戻ると、そこには破壊された家屋が散見されている状態だ。


 メンタントは、すかさず町の治安を任せている貴族を呼び出し、シアノと共に詳細の報告を受ける。


「メンタント様、既に我らの領地には手練れの騎士や冒険者が一人もいない状態になっております。罰を与えていた騎士や冒険者もその中に含まれます。ですから、防衛力としては最早無いと言っても良い状態にまでなっているのです。事実、普通の冒険者や騎士であれば難なく倒せる魔獣襲来によってこの有様。何卒、戦力増強を至急お願い致します」


 その言葉を聞いて、再び必死で統治術を行使する。

 そこにかすかに見えた指示は、シアノにとっては屈辱的なものだった。


 領民に謝罪の上補償を行う。

 そして、ギルドに通達し、こちらも謝罪の上冒険者の待遇を改善する事を確約・実行する。


 普通に考えれば、今までの行いから考えると当然の対処方法になるのだが、シアノには受け入れる事は出来ない。


 魔力の残りかすまで使う勢いで、統治術に力を込める。

 すると、もう一つの指示が見えてきたのだ。


 キューガスラ王国のケイオス王子との婚姻を早め、騎士隊の一隊をメンタント公爵領に常駐させると言う指示だった。

 こちらは難なく受け入れる事が出来るので、即実行する事にしたシアノ。


 だが、本来はこの指示には別の指示も含まれていたのだが、シアノの実力ではこれ以上の情報をスキルから得る事が出来なかったのだ。


 その内容は、メンタント公爵領に配置される事になる騎士隊については、公爵直下の部隊として手綱を握るようにとの指示があったのだ。

 これは、配属されるであろう騎士隊の制御ができない場合、城下町の民に対して直接的か間接的かは不明だが、被害が出る事を示唆している。


「お父様、統治術によって解決策が出ました。私の婚姻を早めて、王都より騎士隊の一隊をメンタント領に常駐させるとあります!」


 メンタントとしても、王族と所縁になれるのは早い方が良いに決まっている。

 その結果、既に名も無き村への無駄な遠征によって散財しているにもかかわらず、更に散財して急ぎ王都に向かい、シアノを王子へ嫁がせる事にした。


 見た目だけは美しいシアノ。

 ケイオス王子もまんざらではないようで、結果的にシアノは王族の仲間入りを果たす事になった。


 その結果……シアノの統治術の範囲はメンタント公爵領ではなく、キューガスラ王国全域に拡大される。

 国王や王子からは、統治術によって王国が発展できると過度な期待をシアノにしていたのだが、その期待は叶えられる事はない。


 スキル範囲が増えたという事は、起動するために必要な魔力が桁違いになっているという事であり、当然この世界にはムロを除いてそれほどの魔力を有している者は存在しない。


 以前のレトロと同じようにスキルの名前は立派だが、何も使えないゴミスキルになり果てていたのだ。


 しかし、スキルの指示をほとんど無視していたシアノにとって、あまり関係はない。

 スキルの指示であるのか、シアノの個人の指示であるのかなどは、第三者は知りようがないので、別段スキルが使えなくとも適当な事を言っておけばよいと思っているからだ。


 だが、生家のあるメンタント領への対策だけは最後に使用した統治術の指示に従う。

 結果的には中途半端な指示になるのだが、シアノの実力ではここが限界だ。


 国王としても、王都の被害を未然に防いだメンタントに対して恩があるので、既に移籍させた騎士の他に、第三隊と言う上位の隊を常駐させる事を即座に決定した。


 当然第三隊としては、色々な感情が噴き出している。

 上を目指そうとしている者達は、何故閑職のような一領地の護衛をしなくてはならないのか……と言う思い。

 今までの行軍に疲れ果てている者達は、これでのんびりできる上、立場に物を言わせて豪遊できる……と言う思い。


 何れにしても、メンタント公爵領にとっては良い思いではない事だけは明らかだ。


 しかし、隊員の感情はどうであれ、王命である以上は指示に従う必要があるので、第三隊は色々な感情を持っているままにメンタント公爵領に赴任する事になった。

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