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シアノとレトロ

「ようやく着いたぞ。全く、王家に連なる我らが来るべき様な場所ではないが、今回だけはやむを得ないな」


 自分から来たくせに、ブツクサ文句を言うメンタント公爵。

 バージル伯爵に譲渡した領地との境目、杭が打ち込まれていただけの場所には、既に防壁ができている。


「この短い間に、何を必死で作っているんだ?バージルめ。余程この私の視察が恐ろしいのか?」


 等言いつつも、門番のいる場所に近づくメンタント公爵。


「そこの獣人、恐らくバージル伯爵がこの村にいるだろう。メンタント公爵が挨拶に来たと伝えろ!」


 相変わらず偉そうだが、獣人はこうなる事を理解していたので、何も言わずに門を開ける。

 メンタントはそのまま中に入ろうとするのだが、中からバージルが現れた。


 まるで門が開くのを今か今かと待っていたかのように……


 そして、その横には短い赤髪のどっしりとした体躯の男ムロ、その肩には幼体の魔獣であるリージュ、更に横には美しい金髪の少女であるレトロが立っていた。

 その後方には、いつもの騎士四人が武器を携えている。


 既にメンタントが来る事を知っていたバージル。

 レトロからスキルで知り得た内容を伝えても良いと言われているので、制限なく話す。


「本当にお暇ですな?メンタント殿。余程その()が王子に嫁ぐのが嬉しいのですかな?その程度の事を伝えるためだけにわざわざ来るとは、本当に羨ましい。そんな事だから領地が、いや、城下町すら荒れているのですよ?」


 前半のシアノの婚姻についてはレトロのスキル、後半のメンタント公爵領に関しては間者からの情報だ。


「なぜそれを?シアノの婚姻はあの場にいた者しか知らないはず……」

「そんな事を教えるわけがないでしょう?全くあてにならない娘の統治術にでも頼っては如何かな?」


 自信満々に伝えようとしていた事実が既に知られている上、焦る様子が一切ないバージルを見て歯噛みするメンタント。

 メンタントの横にいるシアノも驚きながら口を開く。

 そう、いるはずのないレトロが変わらず目の前にいるからだ。


「あなたはレトロではありませんか?何故生きて……なぜこのような場所にいるのですか?」


 思わず生きている事に驚くような事を口走ってしまうが、慌てて取り繕う。

 しかし、レトロは反撃にでる。


「あなた達の非道な行いで私のお母様は亡くなりました。私はあなた達を決して許しません」


 そう言いながら、魔笛をシアノの前に放り投げるレトロ。


 当然その魔笛に見覚えのあるメンタント、シアノは眉を顰めつつ、当然惚ける。


「この笛がどうかしましたか?」

「今更白を切るのは見苦しいですよ、シアノ。そもそも出所は少し調べればわかるのです。貴方達は御者にこの笛を吹く様に指示しましたね。他の犠牲が出る事を一切厭わずに」


 レトロが事実を知っている事には驚いたものの、確実な証拠が有る訳ではない。

 そもそもこの魔笛、母親が持っていた物であったとしても、既に何の証拠も残っていないのだ。

 当然メンタントは強気で娘のレトロに矛を収めるように要求する。


「レトロ、お前は黙れ。父であるこの私を疑うのか?あらぬ疑いを私だけではなく、未来の王妃であるシアノにまでかけるのは止めろ。あまりに不敬な態度であれば、この場で始末するぞ!」

「何を言っているのですかな、メンタント殿。レトロの父親はそこにいるムロ(・・)ただ一人。勘違いしないでいただきたい」


 一触即発の雰囲気になってきたメンタント公爵とバージル伯爵ではあるが、バージルから紹介されたレトロの父と呼ばれている男……良く見れば、ムロトである事は明らかだ。


「やはりここにいたか、犯罪者のムロト!お前ら、こいつを捕縛しろ、いや、殺しても構わん」


 メンタントの一言に同行してきた騎士は武器を手に掛けるが、その瞬間、対面にいる四人の騎士、そしてその後ろから姿を見せた獣人の鬼気迫る勢いに押されて、それ以上の行動には移せなかった。


 当然彼らにはムロが魔力を貸与している。


「おいおい、メンタントのジジィ!お前、俺の前で何の罪もない領民を殺すだ?舐めてんのか?あん?」


 まるでどこぞのチンピラの様な口調になるバージル。

 普段通りと言えば普段通りなのだが、貴族としての猫を被るのを止めて、徐にメンタントに近づくと、その頭を手でペシペシと叩きつつこの言葉を投げつけたのだ。


「な、何をする。無礼な!」

「無礼はテメーだよ、このジジィ。良いか、一度しか言わないから、そのスカスカの脳みそで必死で聞き取れ。ここにいるムロは、我がバージル伯爵家の騎士隊長だ。そしてその娘のレトロ。それ以上でもそれ以下でもねーよ。これ以上俺達に粉かけやがるなら、この場でやってやるぞ!」


 鋭い眼光、そして今でさえ現役ともいえるがっしりとした体躯のバージル。

 対して、地位やプライドに固執して何もしてこなかったブヨブヨのメンタントでは勝負にすらならない。


「おう、お前らもだ。そっから一歩でもこっちに向かってきたら、戦闘の意志ありとみなす。来るなら、気合を入れてかかって来い」


 メンタントの後ろに控えている騎士にも、睨みを利かせながら告げるバージル。

 この気迫を、騎士になりたてで王都でぬくぬくしていた連中が真面に受けられるわけがない。

 誰一人として、一応の主であるメンタントを守る行動はとれなかった。


「良いのかバージル!誰がどう見てもその男は犯罪者であるムロトだ。その男を庇うのであれば、お前も犯罪者だ!」

「だから言ってんだろうが!この男はムロだ。ムロトじゃねーよ。ギャーギャー喚くな」


 バージルは、ハエを追い払うかのようにメンタントに向けて手のひらを振る。


「くっ、お前がその態度ならこちらにも考えがある。後悔するなよ!」

「おう、するわけねーから安心しておけ。目障りだから消えろ。それと、そのふざけた魔笛も持って行け」


 貴族同志の争いは、この場ではメンタントが引く事で収まりそうだ。


 一方のシアノとレトロ。


「シアノ、繰り返します。私のお母様の命を奪ったあなた達を、私は決して許しません」

「証拠もないのに何を言っているのかしら。それに、あなた程度では何もできはしないでしょう?私はこれから王族になるのよ。どこかの田舎貴族に庇われて強気になっている人とは存在が違うのよ?」


 王族というステータスを手に入れる予定のシアノは、どこまでも強気だ。


「それに、あなた自身が何かをするにしても、なんでしたっけ?特殊スキルではあるけれど、何の力も無い……そうそう、スケジューラーでしたっけ?何もできないゴミスキルなのではないかしら?それとも、そこの田舎者の力でも借りるのかしら?王族の私に対して田舎貴族……勝負にもならないでしょうね」

「あなたは相変わらずね。それに私のスキルは何の力も無いわけじゃないわ。貴方の統治術よりも遥かに有用よ。その証拠に、あなた達がこの場に来る事を事前に知っていたので、準備をしていたのよ。なるべく、あなた達の様なくだらない来訪者に時間を取られたくないですから」


 シアノとしては、まるで自分達が来る事が分かっていたかのような対応を、門が開いた時からされていたと感じていた。


 そして、レトロから改めて信じられないようなスキルの話をされたのだ。

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