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メンタント領と王都

 シアノは独自の判断で騎士を行動させた結果、甚大な被害が出てしまったために、父であるメンタント公爵に言い訳をする。


「おそらく、あのコレスタが私の指示を無視して活動したのでしょう。これ程の被害が出てしまったのは、それ以外に考えられません」


 そう、完全に人に罪を擦り付けたのだ。

 正に死人に口なし。


「む……そうか、そうだな。お前の統治術に間違いがあろうはずもない。やはりコレスタか。最後に温情を掛けてやったのだが、ここまで我がメンタント領に被害をもたらすとは……」

「ですが、結果的に王都は救われています。コレスタの愚行によって被害はありましたが、得る物もあったのではありませんか?」


 実際に、王都がメンタント公爵の派遣した騎士の犠牲によって無事であった事実は変わらない。

 そのため、シアノは王都から何かしらの褒賞が出ていると判断したのだ。


 メンタント公爵は、シアノに言われて思い出したかのように机から手紙を出して読み始める。

 これは、国王であるドロニアスが騎士に渡していた手紙だ。


 魔道具で通信してもよさそうなものだが、メンタント公爵が派遣した騎士達の被害が甚大であった報告も含まれているので、動揺してその後の連絡を聞ける状態ではなくなるかもしれない。

 そう考えた国王が、落ち着いて繰り返し読める手紙によって連絡が取られる事になったのだ。


「シアノの言う通りだ。国王からは報奨金と共に一部の騎士隊のメンタント公爵領への譲渡、そして第一王子との婚約が書かれている。おい!やったぞシアノ!お前は王族だ!!」

「まぁ。フフフ、そうなると、このキューガスラ王国が統治術の範囲に入ってくるのですね?素晴らしいではありませんか!」


 既に被害の事は吹っ飛んでおり、今後の地位向上に全ての意識が向いていた。


 だがシアノは知らない。

 いくらシアノがある程度の魔力を持っていたとしても、キューガスラ王国全てを統治できるほどの統治術を使えるわけではないという事を。


 未だ、自らの領地すら真面に統治できていないにも拘らず、話は進んで行く。


「こうしちゃいられない。国王の気が変わらない内に婚約しておくべきだ。早速王都に向かうぞ!」

「はい、お父様!」


 本来は亡き騎士達の弔い、そして残された家族への手当を国王から貰った報奨金で行うべきなのだ。

 もちろんこの時点で統治術を使えば、そう指示が来るだろう。


 だがこの二人、いや、母であるメリンダを含めた三人の頭は、王族に連なる者になれる事で一杯になっており、それ以外の事には頭が回らない。


 こうして、至急準備は整えられ、王都に向かうメンタント公爵、メリンダ夫人、シアノの三人。

 馬車を全速力で飛ばし、第一王子であるケイオスとの婚約を確定させるべく奔走する。


 まずは国王に対して謁見を求める。

 国王としても我が身を削って王都を守護したメンタント公爵を無下には出来ずに、即謁見、そして流れるようにケイオス王子との婚約までこぎつけて見せたメンタント。


 伊達に長きに渡り公爵と言う地位にいるわけではない。

 処世術には長けていたのだ。


「では、結婚の儀は準備が整い次第という事で……今日はこれで失礼いたします」


 ホクホク顔で退出していくメンタント一行。

 この後は領地に戻り、正式な結婚への準備を行う事になる。


 当然この婚約の為だけに、犠牲になった騎士に対する弔い等を一切せずに、喜び勇んで王都に向かっていった行為を目の前で見ていた生き残りの騎士は、この三人が帰還した頃には領地から出て行っており、既に騎士として活動できるものは、王都側から移籍してきた同行している騎士だけになっていた。


「そうだ、あのバージルに、我らが王族に連なる者になったと伝えなくてはならないな。二度と無礼な態度を取られないようにしなくては……」


 自分の地位を知らしめる事に意識が向きまくっているメンタントは、領地の事など二の次で、かつて屈辱的な態度を取られたバージル伯爵領に向かう事を決意する。


……その頃の名も無き村。


「バージル様、お父様、王都の魔獣は、騎士達の犠牲はありましたが、討伐されました。既に過去の項目になっておりますので、間違いありません。そして未来ですが……メンタント公爵が再びこちらに参ります。なんでも、今回の魔獣討伐の褒賞は、シアノが王子と婚約する事が含まれていたようです。つまり、あのメンタント公爵は王家に連なる者という事です」

「あのメンタントのジジィが?ま、どうでも良いぞ。あの腐れ国王と仲良くやってりゃいいんじゃねーか?」


 衝撃的な報告なのだが、バージルは一切動じない

 逆に四人の騎士は、普段のふざけた言葉ではなく、真剣に話している。


「バージル様、流石に王族所縁の者としてくるのであれば、何かしらの対策をしなければまずいのでは?」

「一旦城に戻りますか?」

「ムロ殿とレトロ殿はどのようにすれば?」

「これを機に、一旦バージル領を隈なく視察するという事で、長旅に出ますか?」


 慌て始める騎士をよそに、レトロはスケジューラーによる未来を読み上げる。


「今回は、私達がとるべき行動も書かれているのですが……これは……バージル様の負担が大きくなってしまいます……」


 声が小さくなるレトロをよそに、バージルの表情は変わらない。


「おいおい、レトロ!お前さん、俺を舐めて貰っちゃ困るぜ。お前らは俺の領民だ。領民のために動くのが領主ってもんだろ?お前の年齢で余計な事は考えなくて良いんだよ。悩むのは俺みたいなジジィと、お前の父親であるムロが悩めば問題ない」


 豪快な性格のバージルに促され、レトロは続きを話す。


「あの、私とお父様、但しお父様はムロと言う名前で、バージル様の領民になっている事を公表するとあります。あくまでムロであると突っぱねる事が必要だそうですが、今は王都もメンタント公爵も戦力が大きく削減されている状況ですので、この状況下で公表すれば特に問題にならないとあります。それと、シアノ達に私の存在が明るみになるのですが、向こうは王族になる事で頭がいっぱいだそうで……」

「そうだろうな。王都の出兵依頼時、レトロのスキルでは俺が出兵した場合、被害なく任務は完了し、その後俺やレトロが人質になるような形でムロが騎士隊に戻されると出ていた。だが今、向こうの戦力は激減している。しかも、あのシアノのガキと王子との婚姻。こちらに構っている暇はないだろう」


 バージルの予想通りメンタント公爵領の戦力は激減し、王都側も騎士隊が中々王都に戻れる状態にはなっていないので同様だ。


 実はレトロ、以前王都への出兵時の未来を見た時に、二つの未来を提示した。

 そのままスケジューラーによる内容を読み上げただけなのだが、メンタント公爵単体での出撃を強く推されていたのだ。

 何故か文字が太く書かれており、主張されていた。


 その事を説明する前に、バージル伯爵が同じ判断をしたので何も言わなかった。

 結果、全てが良い方向に向かってきているのだ。


 シアノの統治術下にあるメンタント公爵領とは大きな違いが出てきた。


 そんな中、喜び勇んでメンタント公爵とシアノ一行は、名も無き村に王都から移籍してきた騎士を引き連れて行軍していた。

 統治術では、暫く領地に留まるように指示が出ていたのだが、一刻も早く自分達を見下したバージルに王家との婚姻を結ぶ話をしたくてたまらないシアノは、その指示をいつもの通り無視していた。


 その結果、騎士や冒険者がいない町に魔獣が侵入し、城下町に大打撃を受けるのだ。

 騎士が一人片手間で片付けられるほどの魔獣でも、ただの領民ではそうは行かない。


 すでにメンタント公爵領は、大きなほころびが顕在化してきていた。

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