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両貴族の判断

 既にメンタント公爵側は、ある程度士気の上がっている騎士を王都に派遣する手はずを整えている。

 冒険者については、領地の安全を守るための防衛手段として、騎士が派遣されている間については領地に留まるようにギルドを通して通達されている。


 罰を受けていた騎士と冒険者については、士気が著しく低下しているので、領内にとどめている。


 一方のバージル伯爵領では……こんな会話がなされていた。


「私のスケジューラーで確認しました。現在の項目になりますが、国王陛下はバージル様以外にも、メンタント公爵にも同じ依頼を出しております。そして未来は……複数見えます。一つは、メンタント公爵が単独(・・)派遣した騎士隊は壊滅状態になるものの、残りの魔獣は王都の騎士と共に討伐できるという事。もう一つは、バージル様も騎士を派遣した場合、お父様が居なければ壊滅的な状況になり、お父様がいらっしゃれば無傷で凱旋できるようです」

「レトロ……スキルの扱いに慣れてきたのか?今まで複数の未来は見えなかっただろう?」


 その内容よりも、スキルの状態が気になったムロ。


「お父様が毎朝私に魔力を貸してくださるので、頑張りました!!」


 バージルは、その二人を温かい目で見つめている。


「それで、お父様が同行された場合は……その功績からお父様の罪、冤罪なのですが、その罪を恩赦としてなかった事とし、再び王都の第()隊の隊長に強制的に戻される……とあります」

「え?俺は何があっても王都の騎士隊に戻らないぞ?」

「えっと、申し上げにくいのですが、私を含む、バージル様達への安全の対価として止む無く隊に復帰されるようです」


 どうやら、国王がバージル伯爵やシアノを脅しの材料に使って、強引にムロを騎士隊に復帰させるように企んでいると言う事だ。


 ここで、二人を見守っていたバージルが口を開く。


「レトロ、お前のスキルはやはり優秀だな。乾杯するか?」

「え、いいえ、あの」


 相変わらずのバージル伯爵に、しどろもどろのレトロ。


「ハハハ、冗談だ。お前が教えてくれた未来であれば、我らがとる道は一つだ。お前を冤罪に陥れた王都、勝手に追放した挙句亡き者にしようとした公爵。どちらも我らが犠牲を払ってでも助けるような価値がある連中ではない。違うか?」


 こうして、スケジューラで見えた一つ目の未来、メンタント公爵の騎士隊単独での出撃が確定した。

 そう、バージル伯爵は国王命令を真っ向から否定し、拒否したのだ。


「流石はバージル様。酒が入る時だけ正しい判断ができる」

「違いない。アハハハ」

「よし、それじゃあ、バージル様の判断に乾杯!」

「良いぞ!乾杯!」

「おう、この俺の正しい判断に乾杯だ!」


 その判断を黙って聞いていた騎士達は相変わらずだ。


 しかも、その乾杯にバージル本人も交じっているのだから、国王命令について真剣に考えていたムロとレトロは心の中が一気に軽くなった。


 両貴族での対応は完全に異なっており、バージルは騎士派遣依頼について赤ら顔で国王にこう伝えていた。


「我が新領土である元メンタント公爵領の周囲に魔獣が現れているので、そちらに騎士を回す余裕はありません。実際、この私自らが陣頭指揮を取って現場に赴いている程です。この作戦が終了すれば即駆け付けます故、しばしお時間を頂きたい」


 こう言われてしまってはどうしようもない国王。


 魔道具から見えるバージル伯爵の顔は赤く、息も少々荒い。

 余程疲弊しつつ作戦を実行していると判断せざるを得なかったのだ。


 更には、既にメンタント公爵からは出兵したとの連絡を受けているので、バージル伯爵側の騎士がいなくとも、戦力的には問題ないと判断した。


 バージル伯爵の顔は赤く息も少々荒いのは、ただの飲みすぎ、騒ぎすぎているだけなのだが……

 魔道具に映り込まない場所では、空の酒瓶、摘みの皿が乱雑に置かれている。

 その横で騎士四人が笑いを必死で堪えており、ムロとレトロは呆れ顔だ。


「そんじゃレトロ、王都の状況が現在の項目に移ったら、新たな未来を教えてくれ」


 既に魔道具での通信は切れており、再び宴会を始めるバージル伯爵一行。


 こんな緩やかな時間が経過しているバージル伯爵領とは打って変わり、メンタント公爵領は人知れずに大きな動きが発生していた。


 既に領地内から王都への遠征で騎士の大半が消えている。

 そんな中で、戦力・知力の高い騎士と冒険者が領地から消えたのだ。


 警備も手薄になっており、大量の騎士出兵による混乱の最中であったため、誰もその現実に気が付く事は無い。


 メンタント公爵領から出撃した騎士隊は、二週間程度をかけて王都に到着する。

 もちろん王都の守りは堅牢になっているために王都の内部に被害は出ていないのだが、数匹の魔獣が防壁に攻撃をしているのが見える位置までやってきた。


 実はこの騎士隊を率いているのはコレスタ。

 シアノ個人(・・)の意見によって討伐隊の隊長に抜擢されている。


 もちろん統治術による指名と理解しているコレスタは、地方領主の娘から認められたと思い、喜び勇んで出撃している。

 スキルによる指示で出陣するのだから、負けるわけがないと確信しているのだ。


 あわよくば国王から活躍を認められ、再び国王直属の隊長に復帰の目さえあると思っている。


 そう言った思いから、大した作戦も考えずに目の前に見える魔獣に対して総攻撃をかける事にしたコレスタ。


 よく確認すると三匹の魔獣がいるので、三隊に分けて移動する。

 この分隊を編成する際、遠距離、短距離、回復を一切考慮しておらず、手前から順番に適当に振り分けただけなのだが、騎士一行も、統治術による指示によるものであると思っているので、誰からも不平や不満は出てこない。


 こうして、騎士隊壊滅に向けて一気に活動を始めるコレスタを始めとしたメンタント公爵領の騎士達。


 当初は奇襲もあって優勢であったのだが、攻撃力に特化した一隊を除き、あっという間に劣勢になる。


 攻撃力の高い一隊が魔獣を一つ倒したところで、残りの二匹に攻撃を仕掛けていた騎士隊はほぼ全滅していた。

 ここでようやく王都からの援軍も出て来るが、焼け石に水。

 攻撃力が高い一隊も、回復する余裕がないうちに連戦を強いられて消えていく。


 王城の周囲は地獄絵図となり、コレスタを含むメンタント公爵領の騎士隊はほぼ全滅してしまった。

 しかし、幸か不幸か魔獣は何とか討伐する事が出来ているので、王都側の被害はあまり大きくないもので済んでいる。


 数少ない生き残りのメンタント公爵領の騎士達は、王都にて過剰なほどの回復術を行使された後、メンタント公爵領に帰還した。


「シアノ、これほどの被害を受けるとはどういうことだ!」


 結果を数少ない生き残りの騎士から聞いたメンタント公爵は、いくら何でも想定以上の被害であったため、シアノに対してきつい口調になる。

 シアノも、統治術によらない独自の行為による結果であるので、何とか言い訳をする。


 この行為は、決して非を認めず、自らが正しいと言う歪んだ性格によるものだ。

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