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バージル伯爵

 メンタント公爵襲来の知らせを受けたバージル伯爵だが、その日も、いつもの通り宴会が執り行われて潰れると言った、最早日常と言っても良い光景となっていた。


 だがその翌日、レトロやムロが目を覚ました頃には、本当に珍しくバージル伯爵、そして四人の騎士も起きて真剣に何かを話しているのだ。


「お、起きたかムロ、レトロ」


 既に真剣な顔をしており、流石は領主と思わせる雰囲気も出している。

 昨日までのふざけた雰囲気も一変しており、同一人物とは思えないほどだ。


「とりあえず、あのジジィが来るまでにはあと9日ある。その間、お前達二人とリージュには一旦俺の家に行ってもらおうかと思っている。今をもって、スケジューラーには最適な対策は出ていないのだろう?」


 バージル伯爵に問いかけられたレトロは、ムロに魔力を貸与してもらった上で改めてスケジューラーによって未来を確認する。


「はい、バージル様のご指摘の通りです」


 少しシュンとするレトロに対し、バージル伯爵は豪快に話す。


「いやいや、問題ないぞ。だが、ムロのその膨大な魔力を使ってようやく能力が発揮できるスキルか。これは凄まじいな。そもそも未来が見えるなど有り得ない力だから納得せざるを得ないところではあるのだが。そうなると、統治術とは勝負にすらならんな。だが、油断はするなよ?」

「はい。頑張ります!」


 自分のスキルを手放しで褒めてくれたので、気持ちが上向くレトロ。

 最愛の娘のスキルを褒められたので、自然と笑みがこぼれるムロ。


 そしてその姿を見て、暖かい気持ちになるバージル伯爵と騎士。

 残念ながら村人達は未だダウンしているので、この会話には加わっていない。


「ですがバージル様、俺達が不在の間のこの村はどうなりますか?」

「そこはホレ、当然俺達が残る訳だ。だが、こいつら四人のうち一人はお前達を案内しなくてはならないだろう?誰が一旦帰るかで揉めていたんだ」


 真剣に話しをしていたように見えていたのは、この村に残りたい騎士四人が、誰が領主の城に戻るかで揉めていたらしい。


 バージル伯爵一行の根っこの部分は、この状況に陥ってもあまり変わらないようだ。


「だって、ここの村、最高だからな」

「特に飯が上手い。酒は飲み放題。誰だってこの村に残りたいに決まっている」

「あっちに帰ると、執事に怒られるしな……」

「そうそう、なぜかバージル様の分まで仕事をさせられるし……あの執事、おっかないんだよ」


 どうやら、この村に残りたいのも事実だが、戻って仕事をさせられるのも嫌らしいのだ。


「えっと、道中のお食事は私が作らせて頂きますが……」


 おずおずと話すレトロ。

 ここまで自分の料理を気に入ったと公言してくれているので、嬉しくて仕方がないのだ。


 その声を聞いた騎士だけではなく、バージル伯爵まで騒ぎ出した。


「お前ら、ここに残れ。俺が一旦帰る事にする」

「突然何を言いだすんですか、バージル様。頭大丈夫ですか?」

「そうだそうだ。貴方が残らなければ、メンタントのジジィに対抗できないではありませんか!」

「まったくだ。だから俺が一旦帰る事にする」

「いや、俺だ。お前ら全員諦めろ!!」


 既に真面目な雰囲気は一変し、いつも通りの様相になってきた。

 ともすれば不敬罪ともとられかねない発言が平気で飛び交うのも、この一行ならではだ。


 だが、騎士の言う事には一理あるので、バージル伯爵は泣く泣くこの場に残る事を決断せざるを得なかった。

 そして、レトロと共に、いや、ムロとリージュもだが、共に帰還する権利を勝ち取った騎士の浮かれ具合が凄かった。


「ハハハハ、行きはつまらなかったが、帰りは毎食あの飯だ。どうだ、羨ましいか??やはり正義は勝つのだ!!!」


「グ……おい、あいつの布団、雑巾と変えてやれ!」

「バージル様、何を子供みたいなことを言っているのですか?」

「いや、俺は賛成だ」

「俺もだ!!」


 まるで子供の喧嘩の様相だが、バージル伯爵や残りの騎士三人は本当に悔しそうな表情をしている。


 そもそも主たるバージル伯爵を煽る騎士……

 そして本気で悔しがる主たるバージル伯爵……


「えっと、数日分であれば作り置きができますから、それでよろしいでしょうか?」

「おお!恩に着る!」


 すかさずバージル伯爵が声を上げる。


 この情けない騒ぎで村人も覚醒し始めたので、ムロによって頭痛を取り除いた後に、今後の動きについてバージル伯爵から説明がされた。


 またもや真面目な顔をして領主らしい雰囲気を曝け出しながら伝えているので、今までの情けないやり取りを知らない村人たちは、真剣にその言葉を聞いている。


「知っての通り、メンタントのジジィと元副隊長、以前ここに来たらしいコレスタとか言うガキが9日後にここに来る。ムロとレトロの怨敵でもあるが、こちらの体制が整っていない状況で二人の姿を目撃されるのはまずい。やむを得ず俺の城に一旦避難させる事にした。ここには俺と、三人の騎士が残って対応する。あいつらが来ても、ムロ、レトロ、リージュについては知らぬ存ぜぬで押し通せ!」


 気合の入る発言で、村人は決意を新たにした。

 やはり流石は領主であり伯爵だ。


「俺達がいない間、全員には無理だが、一部には魔力を貸与していく。かなり力が上昇するから大丈夫だとは思うが、油断はしないでくれ」


 ムロとしても、残される村人が心配である為に出来る事をする。


「私も、お料理沢山作っておきますので、留守の間よろしくお願いします」


 レトロもふんわりと微笑み、奇麗にお辞儀をする。


 その内容を聞いた伯爵一行は、村人に見えない位置でお互いを牽制していた。

 そう、レトロの作る食事の奪い合いが既に始まっていたのだ。


 と、一部緊張感のない朝ではあったが方針は決定した。


「ムロ、ここから城までは普通に行けば馬車で3日程度だ。ジジィが来るまではまだ余裕があるから、その間、少し仕事をしてくれないか?」

「わかりました、バージル様。何をすれば良いですか?」


 バージル伯爵の依頼を受けて、出立までの数日間はリージュと共に作業に没頭していたムロ。

 そして日は経ち、メンタント公爵一行が到着する3日前となった日の朝。


「それではバージル様、一旦城に戻ります。動きがあれば魔道具で連絡をお願いします。フフフ、こんなに移動が楽しみなのは初めてですよ。じゃあ、頑張ってください!」

「やかましいわ。さっさと行け!道中滑って水溜りにでも落ちろ!」


 相変わらず子供の様なやり取りをしている騎士とバージル伯爵をよそに、村人達と一時的ではあるが別れを告げるムロとレトロ。


「じゃあ行ってくる。すぐに戻って来るけど、皆も気を付けて」

「行ってきますね~」

「気を付けて行って来いよ!」


 こうして、メンタント公爵側にその存在を確認されないようにするために、二人とリージュは名も無き村を後にした。

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