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コレスタの行方(1)

 既に王都から追放され、腹いせに暴れてやろうと思っていたメルナの町も、入る前に追い出されたコレスタ。


 目的などあろうはずもなく、何となく彷徨っていた。


「何故こんな事になっているのだ。今頃は隊長昇格、そしてシアノ嬢と共に過ごしていたはずだ」


 王都追放の告知を受けた時に、シアノの父であるメンタント公爵も目の前にいたため、シアノの元に行く事は出来ずにいたのだ。


 何らかの手柄があれば別だが、魔獣を前に敗走……ではなく、作戦上その場を後にした事にしているその姿を見られている上に、結果第二隊は壊滅。更には王都追放では、会わせる顔がないのだ。


 だが、諦めきれない思いからかメンタント領から出る事は無いのだが、逆に少しでも安全を確保するために、メルナの町からそう遠く離れるような事はしたくない。


 つまり、メンタント領とバージル領の辛うじてメンタント領地側の街道を周回していたのだ。


 日々イライラが募るのだが、何かが変わる訳でもない。

 いや、景色だけは辛うじて少しだけ変わっているが、生活環境は変わらない。


「いつまでもこのままではダメだな。一先ずどこかの町か村に向かって落ち着いてから、今後の事を考えるか」


 以前コレスタ自身が言っていた通り、手切れ金なのかは分からないが、お金だけは持っているのだ。

 町だか村だかに辿り着いて、豪遊さえしなければかなりの期間生活する事ができる。


 今のままでは、いくら魔獣除けの魔道具があっても危険である事には変わりはない。

 意を決して街道を周回するのをやめたコレスタは、一方向に向かって進み始めた。

 

 コレスタ本人としては街道を直進していたのだろうが、少しでも街道に接する森から怪しい音がすれば、遠ざかるように進路を変えていたので、中々町や村に到着する事は無かった。


 かなりの日数が経過した後、ようやくコレスタの目の前の森が開け、防壁のある町だか村だかが見えたのだ。


「これで一先ずゆっくりできるな。魔獣に気を配る必要もない。流石の俺も少々疲れたから、ゆっくり休みたいものだ」


 語り合う相手はいないので、返事が来るわけもない馬に話しかけて防壁に向かう。


 そこは、既にスケジューラーの力でバージル伯爵と四人の騎士が来る事を把握していたレトロによって、歓迎の準備が行われている村だったのだ。


 レトロのスケジューラーでは、未だ未来については一つの事象と、それに付随する事象しか見る事が出来ていないので、バージル伯爵の来訪があり、その事象が現在起きている事が記載される項目に移動しない限り、次の未来は見る事が出来ていなかった。


 そのために、コレスタの襲来を把握する事が出来なかったのだ。


「おい、誰か!」


 既に門の前まで移動したコレスタが叫ぶ。


 村人全員、あの気の良い騎士と、その主であるバージル伯爵が来る事を心待ちにしており、歓迎の準備に大忙しだったので、門の警戒を行っていなかった。


 リージュは当然警戒していたのだが、よれよれの男一人が馬と共に来ているのは脅威でも何でもないので、特に何かを伝えるような事はしなかったのだ。


 コレスタの大声に気が付いた村長が、急ぎ門に向かい対応をする。


「お待たせしました。どうされましたか?」


 一瞬あの騎士が到着したのかと期待した村長だが、そもそも声が違っていたので慌てて門の外に出て、コレスタに向かってこう問いかけたのだ。


 門で出迎えを受けたコレスタは、突然獣人が目の前に現れて普通に話しかけるので、以前の通りに暴言が出てしまう。


「なっ、獣人如きがこの俺を待たせるとは躾がなっていないようだな。それに、その口調、不敬である事すら理解できていないらしい。これは厳しい躾が必要だな」


 そう言って、攻撃用の魔道具を探して懐をまさぐるが、メルナの町で奪われた事を思い出し、慌てて腰に下げている剣に手を伸ばす。


 村長のサリナとしては、突然騒ぎ、挙句には不思議な行動をしているコレスタに対して呆気にとられてしまう。


 だが、剣に手をかけているので、身の危険を感じてコレスタからは距離を取る。

 もちろんこの時点でリージュの警戒網に完全に引っかかり、リージュは大声で鳴きながら門を目指す。


「ピュ~!ピュ~!!」


 そんな姿を見れば、誰もが異常事態が発生したと分かるので、全員が我先にと手に武器を持ち門に集結する。

 しかし、誰よりも早く門に到着できるのは、やはりリージュに魔力を貸与し、そこから身体強化を受けているムロだ。


 今のムロの姿は、今までの長髪ではなくかなり短く刈り込まれた頭をしており、更には今正に作業中であったために顔も髪の毛もかなり薄汚れている。


 そのため、この時点でコレスタは、目の前にいる男がムロトだとは思ってもいなかった。


 だが、ムロは違う。

 目の前の腰の剣に手をかけている男は、元部下であり副隊長のコレスタである事は一目瞭然だったのだ。


「何をしている?」


 その顔面を粉砕したくなる気持ちをこらえて、サリナを庇う位置に移動しつつコレスタに問うムロ。


「そこの獣人が、この俺に対して不敬な態度を取ったのでな。少々躾てやろうと思ったに過ぎない」


 平然と言ってのけるコレスタ。


「俺達の村の長に対して、何を躾けるって?」


 当然ムロの怒りのボルテージは上がっていく。

 だが、そんな事は気にならないコレスタも大声で返す。


「ハン、獣人が長だと?少々立派な防壁だと期待した俺がバカだった。だが俺も少々疲れているのも事実。そこの女が俺を接待するのであれば、この町、いやこのレベルならば村か?この村に金を落としてやろう」


 コレスタの目は、この場に到着してムロの横にいるレトロに向けられている。

 周囲に集結した村人、獣人達には目もくれなかった。


 まるで素晴らしい提案をしてやった……と言わんばかりに、大層満足そうな顔をするコレスタだが、当然満足いく回答が得られるわけもない。


 しかし、この村を最悪の相手に発見されてしまったと思っているムロは、この難局をどう乗り切ろうか必死で考えていた。

 普段ならばスケジューラーの力を借りる一択なのだが、既に未来はバージル一行についての記述で埋まってしまっている。


 バージル関連以外の未来は見えない状態になっているのだ。


 いつもと様子の違うムロを見て、目の前の男がどのような男か凡そ理解したレトロは、確信を得るためにコレスタに話かける事にした。


 自分の思っている通りならば、目の前のこの男は、最愛の父親であるムロの敵になる可能性が高いのだから……

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