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バージルの策略

 コレスタに対して王都追放が行われた謁見の間。


 理由も分からずに国王より呼びつけられたメンタント公爵は、この場所、王都に来る前に娘のシアノと相談し、統治術による模範回答を準備していたのだ。


 何のために呼び出されるのか不明であったのだが、質問内容や回答如何によってはメンタント領に多大な被害があるため、統治術の範囲内に入ったのか、シアノからは淀みなく質問と回答が出てきたのだ。


 実は、コレスタの追放が行われた後に、バージル伯爵とメンタント公爵の間で激しいやり取りがあったのだが、これも統治術によりメンタントは事前回答を得ていたので、流れるように話は進んで行く。


 当然、メンタント領に有利な方向に話が進むのだ。


 その結果、最後に何の益にもならない、むしろ魔獣の発生源になり得る上に、土地の分だけ税を払わなくてはいけなくなっている森の一部、正にメンタント領のお荷物と言っても良い場所で長年放置してきた土地を、バージル伯爵領に名目上今回の騒動に対するお詫びの気持ちとして引き渡す事までできた。


 その土地を受けたバージル伯爵は鉾を収めたのだが、メンタントしては、お荷物を引き受けたにも拘らず喜ぶ無能と内心あざ笑っていたのだ。


 だがその場所、実はムロト改めムロが住む村がある場所だった。


 今回の襲撃の余波を食らった形になったバージル伯爵は、今後も同様の事象が起こり得ると考え、対策の一環として魔獣の情報収集を始めていたのだ。


 当然、自らの領地だけではなく、他の貴族が統治している隣接する全ての場所が調査対象になっている。


 信用の出来ない周囲の貴族や国王ドロニアスを含む王族にすら頼らずに、独自で情報を得るために騎士を派遣していた。

 その騎士の一部からの報告で、バージル領に隣接しているメンタント領の一部に村ができており、その村人は、ほぼ獣人。そして驚く事に、失踪しているとされるムロト元隊長がいたと言うのだ。


 既に噂として、いや、国王からの正式な通達として、ムロトは隊員の手柄を長きに渡り横領してきた犯罪者と断じられている。


 しかしその話を聞いても、バージル伯爵は一切信じる事が出来なかったのだ。


 バージルは伯爵の義務として、嫌々ではあるが執務で王城に行く機会が多いのだが、その際にムロトを何度か目にしている。

 燃えるような赤い髪をして、立派な体躯を持った男。


 この時点では、第一隊の付き人のような扱いである為か、あまりその姿を見る事は無かった。だが、実はこの時既に、バージル伯爵は第一隊に対して懐疑的な見方をしていたのだ。


 確かに第一隊の実戦での戦果は群を抜いている。

 しかし、城内での訓練では他の下位の隊に手も足も出ないのだ。


 こうなると、他の隊の隊員が噂している通り、何かしらの魔道具や術を使って強さを実践時にのみ水増ししている可能性がある。


 その行為自体は特段問題ないが、王城での態度も尊大になっていたので、何とかその秘密を暴いてやろうと、他の隊員が躍起になっていたのだ。


 そうこうしているうちに、第一隊が壊滅したとの情報が入った。

 その後に隊長になったムロトを見かける機会があったのだが、誰に対しても実直で、人の目のない所でも訓練をしている姿も見ていた。


 更には、その第一隊に配属された隊員……誰の目から見ても貴族の穀潰しの成れの果て。

 正に家から厄介払いされたような連中の寄せ集めだったのだ。


 こうなると、あのムロトが横領するなど考えられない事もあるが、そもそも配属された隊員のレベルが魔獣を討伐する実力に達していない事は誰の目からも見て明らかだ。


 横領される程の手柄を立てられる訳がないのだ。

 そう、つまりは完全な冤罪だ。


 だが、公式に発表されたのには裏がある。


 第一隊に所属する子息の身分を確固たるものにするため、更には上位の存在にするために、その親である貴族が、息子からの連絡を疑う事なくムロト本人からの報告よりも前に国王に報告し、あらぬ噂まで流したのだ。


 その報告と噂を疑う事なく信じた国王ドロニアス。


 実際に城内で最弱であった元一番隊が実戦で最強を誇っていた実績があるのだから、第一隊の隊員の見た目だけではその強さを判断できなかったのも一因ではある。


 その結果が、第一隊の隊長ムロトの投獄、失踪に繋がっている。


 当然のように、ムロトがいなくなった一番隊は、バージル伯爵の予想通り穀潰しの集まりで、一切任務に就く事は無かった。

 その結果、キューガスラ王国には魔獣が溢れ始めたのだ。


 国王も全くのバカではないので、第二隊を第一隊と入れ替えて、火急を要する依頼に向かわせた。


 だが、ムロトとの差は歴然で、何とか魔獣を抑え込めてはいる物の、安全な生活ができるレベルとは言い難かったのだ。


 そんな理不尽な扱いを受けたムロトが、バージル領と隣接しているメンタント領の森に居たと言う報告を受けたのだから、バージル伯爵が何とかしたいと思うのは当然の流れと言える。


 必死で考えている所に、国王からの招集があったのだ。

 バージル伯爵は慎重な男であり、今回の魔獣の調査からもわかるように、情報の大切さも知っている。


 そのため、王城内部にも密偵がいる。


 そこから得た情報によれば、同時にメンタント公爵も呼ばれているとの事で、今回の魔獣騒ぎのとばっちりを受けたバージル伯爵としては、この部分を突いて領地を譲り受ける作戦に出たのだ。


 その作戦は思った以上に上手く行き、ムロトの存在を疑われる事が無いまま領地を譲り受けられることになった。


 ドロニアス国王の目前、そして多数の貴族がいる中で行われた事なので、全ての人が証人になっていると言える。


 これ以上ない成果を上げたと思っているバージル伯爵。

 一方のメンタント公爵としても、お荷物の領地を押し付ける事が出来た上、そんな領地を得てほくそ笑んでいるバージル伯爵を見てバカにしていたのだ。


 正に狸と狐のバカ試合、いや、狸と狐の化かし合いだが、事情を良く知る第三者的に見れば、バージル伯爵の圧勝と言って良いだろう。


 バージル伯爵は殊の外上機嫌で、自らの領地に帰還する。


 当然他の貴族達も同様に帰還するのだが、バージル伯爵とは異なり、常に情報を仕入れ、戦力を磨いているわけではないので、最近の魔獣襲来の多さ、王都の騎士の対応の遅れを非常に危惧しながら領地に戻って行った。


 自らの領地に戻ったバージル伯爵は、ムロトを発見した四人の騎士を呼び出すと、楽しそうに王城での話を始める。


「おい、やったぞ。あのメンタントのジジィからムロトのいる領地を奪ってやったぞ。国王や他の貴族の前での出来事である上、証文があるからな。ハハハハ、メンタントのジジィのこちらを見下したような顔。お前らにも見せたかったぞ」

「それは素晴らしいですな」

「作戦通りではありませんか」

「やはりバージル様は策士ですな」

「これで公にムロト殿の元を訪問できます。早速向かいましょう」


 気の早い騎士がいるが、実は気が早いのはバージル伯爵も同じ。

 既に王都から帰還した時点で、今まで不在にしていた書類の山が机に積み上げられているので、一刻も早くこの場から離れたがっていたのだ。


 最後の騎士の声を聞いた執事の顔が渋くなったのはここだけの話……

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