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謁見の間にて

 俺は、ここまで送ってくれた商人と別れると、見慣れた道を歩いて早速王城に向かう事にした。


 王城の入り口に到着すると、俺の姿を見た王城の職員は驚いた顔をしている。

 それはそうだろう。恐らく第二隊がほぼ全滅したであろう情報は既に伝わっているはずだ。

 その副隊長である俺が生存していたのだから、これ程嬉しい事は無いはずだ。


 そのまま国王陛下への謁見を申請すると、やはり早く俺の生存をその目で確認したいのだろう。普通ではありえないほどの速さで許可が出た。


 不甲斐ない隊員を配備した事へのお詫びがされた後に、副隊長から隊長への昇格が伝えられるに違いない。


 相変わらず重厚な扉が開かれて、謁見の間に入る。

 そこには……ドロニアス国王だけではなく、なぜか今回の緊急依頼を出したメンタント公爵と、第二隊隊員の目的地に指定した場所を治めているバージル伯爵が揃っていた。


「コレスタ、聞く所によると第二隊はメンタント領の周囲の魔獣に攻撃を仕掛けた直後に反撃され、無様に逃げ帰ったようだな。しかも追う魔獣を引き連れたまま隣の領地、バージル領に向かった……間違いは無いか?」


 おや?想定している話と中身が全く異なっているぞ?

 だが、俺も貴族の端くれ。そして近いうちに第二隊隊長になってメンタント公爵の入り婿になるのだ。


 この程度の追求を躱せなくては、そのような未来は訪れようもない。


「確かに我ら第二隊は全力を持って依頼を達成すべく、総攻撃を仕掛けました。しかし、配属されている第二隊の隊員(・・)の力量不足により勝利が難しいと考え、魔獣の戦力分断を図ったのです。逃走するように見せかけて、後を追う魔獣を各個撃破して、更には安全を考えて、進行方向の先にあるバージル様にも状況を伝えるように隊員に指示を出しました」


 中々良い返しだと思っていたが、この場にいる貴族の回答は俺の想像するものでは無かった。

 いや、俺の期待以上の回答だったのだ。


「確かにお前の所に所属する隊員が、私の領地、メルナの町にやってきた。だが、そのような動きがあった時には、依頼元であるメンタント公爵側から当方に連絡があってしかるべきではないのか?」

「ですから何度も申し上げたではないですか、名だたる第二隊が来ていたのです。当然何かの作戦で一時撤退したと判断したのですよ。そもそも、当領地が魔獣に襲撃されている事は既に周知の事実であったはず。警戒をして然るべきで、その責を我らに被せようとするのは人としてどうかと思いますぞ?」

 

 なんだか知らないが、勝手に互いに険悪になっている。

 しかも、だ。俺の発言を肯定するかのような物言いだ。

 これならば、国王陛下からの俺への詫び、そして隊長昇格も間違いないだろうな。


「二人とも黙れ。今はお前達の話をしているのではない。そこのコレスタの話だ。確かに何か第二隊として作戦があったのかもしれないのは認めよう。だが、結果的に第二隊はお前とバージルの所に辿り着いた一人だけが残っている状態。壊滅状態だ。どのような状況であれ、一つの隊を壊滅状態に追い込んだ指揮者には責がある」


 まてまて、何故そうなる?国王はバカなのか?俺は伝えたぞ!隊員達が不甲斐ないからだ。


「恐れながら陛下、いくら私が優れているとは言え、あの隊員の力量では如何ともしがたかったのです」

「黙れ、お前らは龍すら討伐した実績があるだろうが。あれほど自信満々に報告していたのを忘れたとは言わせんぞ。龍を倒せて、遥かにレベルの劣る魔獣は倒せんのか!」


 クッ、痛い所を……


「お前には失望した。結果的にはバージルの所に辿り着いた隊員の情報から対策をしたので、メルナの町に被害は無かった事を考慮し、最大限の恩赦を与え、王都追放とする」


 馬鹿な!俺は隊長になる男、栄誉ある騎士隊の隊長、そしてやがてはメンタント公爵になる男だぞ!


 何かを言おうとするのだが、うまく声にならないうちに、気が付けば王城の外に放り投げられていた。


 あの場、謁見の間の端の方には父上の姿が見えた。

 一切俺を庇おうとしなかった所から、再び俺は切り捨てられたのだろう。つまり、家にも帰れないと言う事だ。 


 こうなったら、いちいち細かい事を言ってきたバージル領を破壊してやる。

 手始めに、あのぼろい町、メルナの町に向かうとするか。


 幸か不幸か、手切れ金よろしく金だけはある。

 まずは適当に馬を購入して、食料、魔獣除けの魔道具、攻撃用の魔道具も入手すれば良いだろう。


 行ったり来たりになるが、仕方がない。

 明るい未来を想像していたが、全く真逆の未来が訪れてしまった。


 俺は疲れた体を癒す事すらせずに、王都を後にしたのだ。


 既に同じ道を通過した事があり、それも直近であったために、どこに何があるか程度は把握している。

 前回の第二隊を引き連れていた時よりも遥かに楽に進み、魔獣除けの魔道具のおかげか一切魔獣の襲撃を受けずに目的地が見えてきた。


 そう、バージル領のメルナの町だ。


 前回ここに来た時には、この町の連中は俺達第二隊に対する態度がなっていなかったので、躾の意味もあり厳しく対応した。

 本来は躾て貰えたお礼として何かを差し出して然るべきだが、そのような事は無かったな。


 そう言えば前隊長だったムロトは、こう言った町に入る時にはやけに低姿勢だったのを覚えている。

 依頼を受けてやっている立場なのだから……と何回か教えてやった事があるのだが、あの低能は態度を変える事は無かった。


 それどころか、わざわざ低能に本来取るべき態度を教えてやった俺に対して文句を言ってくる始末だった。


 あの男は失踪してその行方が知られていないらしいが、今どこで何をしているのだろうか?

 犯罪者としてその名を轟かせているので、碌な生活をしていない事は間違いないだろうな。ざまあみろだ。


 ドロニアス国王も未だに血眼になって探しているのだが、一切その痕跡すら見つける事ができないと言うのだから、案外既に魔獣の腹に収まっているのではないだろうか?


 国王としても、犯罪者が王都から脱走したままだと示しがつかないのか、かなりの人数を動かしている事だけは知っている。

 下位の隊、第八隊以下の隊員も動員されているらしいからな。


 よし、それじゃあ一丁あの町で暴れてやりますかね?

 気合を入れなおした俺は、町に近づく。

 ところが、門の遥か前の位置でいつの間にか騎士に囲われた。


「やはり来たか、コレスタ」

「こいつ、攻撃用の魔道具を持っていますよ」


 突然俺の荷物を漁り、攻撃用の魔道具を引っこ抜きやがった。


「本当に来るとは思わなかったが……バージル様の予想通りになったな」

「何?まさかバージルが……王城からここに連絡をしたのか?」


 一瞬意識が飛ぶ。

 何が?いや、目の前の男が俺を殴ったのだ。

 この場にいる他の騎士も、やけに攻撃的な目をしている。


「まさか本当にこの町で暴れる気だったとは。流石は張りぼて第二隊元副隊長だ」

「すぐにここから立ち去れ。この場に留まるようであれば容赦のない攻撃をする」


 この場にいては命の危険がありそうだと感じた俺は、即座に馬に乗りこの場を後にした。

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