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第二隊副隊長コレスタの帰還

 どの位時間が経過しただろうか?

 岩の隙間の中で水分を取りながら横になっていたのだが、いつの間にか眠りこけていたようだ。


 恐る恐る隙間から外をのぞくと、真っ暗。月明りで周囲は確認できるが、その先の森は真っ暗で、何も見えない。

 この状況で外に出るのは魔獣に食ってくれと言っているようなものである事位は、俺でもわかる。


 再び隙間の中に身を隠し、日が昇るのを待つ。

 魔獣の叫び声や動く音、有り得ないと思うが、第二隊の声すら聞こえない。


 つまり、あの魔獣の波はこの辺りからは遠ざかったと見て良いだろう。

 第二隊の隊員はおそらく……全滅だろうな。


 だが、一応国王からの依頼であるメンタント領への出撃依頼は果たしたのだから、第十隊への降格は無いだろう。

 隊員も……あれほど使えない者達の集まりだったのだから、任務失敗は俺のせいではない。


 そう、そうだ。俺が悪いのではなく、あのように一切使えない連中を第二隊に配備した連中が悪いのだ。


 この事実を伝えれば、ひょっとしたら第二隊隊長に昇格もあり得るな。

 何と言ってもこの俺コレスタ様には龍殺しの実績があるのだからな。


 その後は……そうだな、メンタントの美しい娘、名は何と言ったか……シアノだな、シアノを迎えに行ってやろう。


 だが、次はもう少し戦闘の出来る隊員を配置してもらう事にしよう。

 場合によっては、最近力をつけてきている男爵である父の力を使って、人を集めるのも良いかもしれないな。


 上位騎士隊、第二隊の隊員になれるのだから、喜んで応募があるに違いない。


 その中から俺好みの者と、戦闘専属要員を隊員にすれば良いだろう。

 我ながら素晴らしいアイデアだ。


 今までのような使えない者達が隊員だとこの俺の負担が大きくなりすぎるので、正確な指示が出せなくなる可能性が高い。

 そうなると、隊としての損失、更にはキューガスラ王国の損失に繋がるのだからな。


 よし、そうと決まれば、何時までもここにいるわけにはいかない。食料も大して身に着けていないからな。

 明朝天気が良ければここを出立し、一刻も早く王都に戻る事にするか。


 だが万が一を考えて、メルナの町は避けておく方が無難だな。


 あいつらは、第二隊が敗走……いや、情報伝達に行動を移した事を知っている可能性がある。実際俺がそのように指示したからな。


 恐らく第二隊の誰もメルナの町にはたどり着いていないだろうが……

 その結果、あの町も大きな被害を受けている可能性が高く、生き残りがいた場合は、逆恨みで俺に攻撃をしてくる可能性が高い。


 俺のように責任ある立場の行動は、時として下々の者には理解されずに、恨みを買う時がある。万人に対して好まれる行動はとれるはずがないのだ。

 正に今回の作戦がそうだと言えるだろう。


 そんな連中を相手にはできないから、メルナの町には立ち寄らない事にしよう。


 とすると……何とか道中馬を手配する必要があるか。

 この第二隊の隊員の証である紋章を見せれば、問題は無いとは思うがな。


 王都所属の騎士隊、それも上位の第二隊の隊員の証である紋章。

 更には、副隊長ともなると他の紋章とは少々造りが異なっている。


 誰もがひれ伏す紋章なのだ。


 よし、流石は俺だ。明日の行動は完全に決まったから、今日は明日に備えて早く休む事にしよう。


「よし、これならば問題ないな」


 おっと、少々声が大きかった。

 メンタント領での戦闘では奇襲が成功した所に大声を出したものだから、想定よりも早く魔獣に気が付かれた可能性があるのだったな。


 二度も同じ過ちは繰り返してはならない。

 それに今は、囮に出来る連中はいないのだから、より慎重になるべきだ。


 岩の隙間から顔を出すと、うっそうとした森の中にすら光が差し込むほどの天気となっており、周囲に魔獣を感じさせる音や匂いもない状態で、正に出立するには良い条件になったと言える。


 昨日早く休んだ事もあり、体調も万全だ。


 早速慎重に岩の隙間から出て、王都方向に歩を進める。

 念のため早めに街道に出て、そこを歩くのが良いだろう。


 だが、なるべく危険を避けるためにメルナの町へ向かう方向の街道は避ける事にしよう。


 当初は恐る恐る……いや、慎重に行動をしたが、何時まで経っても魔獣の気配はなく、そこまで危険ではないと判断した俺は、移動速度を少々上げて、程なくして街道に辿り着いた。


 メルナの町に直結している街道を避けて、王都に向かう街道を進むと、時折商人や旅人を発見する事が出来た。


 だが、残念な事に全て王都から来る方向であり、王都に向かう者とは今の所遭遇できていない。

 あまりにも王都方面に向かう者がいない場合には、強制的に馬を借用する事も考えていたのだが、俺の背後から馬車の音が聞こえてきた。


「とまれ!」


 反射的にその馬車の進路を塞ぐように移動して、馬車を止める。

 反抗的な態度を取られないように、既に紋章を手にして御者に見える位置に掲げている。


「これは……騎士隊のお方ですか。どうしましたか?」

「うむ、俺は栄誉ある王都騎士隊、第二隊副隊長のコレスタだ。訳あって、大至急王都に向かわなくてはならない。貴殿の目的地がどこだかは分からないが、方向的には王都方面で間違いないだろう?同乗させて貰おうか」


 この男、商人か?そのわりには、護衛を一切付けていない。

 確かに商人の中には護衛の費用を出し渋る者、そもそも自分の力があるので護衛を必要としない者に分かれている


 もし前者だとしたら、この俺、第二隊副隊長の力を無条件で利用しようとする可能性が捨てきれないな。


「わかりました。私も王都に向かっていた所ですので問題ありません。騎士様、それも副隊長様なら大丈夫だとは思いますが、ご覧の通り私は護衛を雇っておりません。万が一の時には、ご自分の身はご自分で対応をお願いします」

「フム、ああ、問題ないぞ。てっきり貴殿が俺の力を頼るのかと思っていたが、どうやら違う様で安心した。正直に言うと、俺は想定以上の任務遂行でかなり疲れているのでな、他人まで守る程回復してはいないのだ」


 どうやらこの男は後者の様だ。

 そう思って改めてこの男を見ると、確かに良い体をしている。その辺りの魔獣であれば瞬殺できそうだ。


「それでは、スマンが任せたぞ」


 俺は荷馬車の中に潜り込み、地方から仕入れたであろう荷物の中に身を沈めて体を休める事にした。


 数日この男と行動を共にしたが、特に俺に対して何かを要求する事も無く、淡々と行程を消化しており、本当に何もなく王都まで到着した。


「この数日助かった。商売が上手く行く事を願っている」

「ご丁寧にありがとうございます」


 一応騎士として、立場が大きく違えど、お礼を伝えておいた。

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