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村での生活(バージルとの縁)

 お父様は、私を見て微笑むと、一人立ち上がりました。


「皆聞いて欲しい」


 目の前の四人の騎士の方、村長さん、そして皆さんがお父様に注目します。


 先程のお料理を食べて頂く時以上に、なぜか私も緊張します。

 リージュちゃんも緊張しているようで、私の肩でモソモソ落ち着きなく動いています。


 でもお父様、きっと大丈夫です。


 突然声を上げたお父様に、皆さんが注目しています。

 いつも以上に真剣なお顔をされているので、皆さんも真剣な表情になっています。


 こんな事を今この場で思ってはいけないのかもしれませんが、真剣な顔のお父様も素敵です。

 流石は私のお父様!


 うっとりとお父様の顔を見ていると、お父様が意を決したように口を開きました。

 きっと大丈夫ですよ、お父様。


「村の皆、そしてバージル伯爵の騎士の方々に伝えなくてはならない事がある」


 四人の騎士の方々の視線が、心持ち鋭くなった気がします。


「いま話題にでたキューガスラ王国の騎士隊長ムロトだが……俺の事だ。だが信じて欲しいのは、俺は誓って後ろめたい事は一切していない。確かに幽閉された後に逃げたしたのも事実だが、依頼を受けた討伐実績を隊員に偽装され、手柄を横領した事にされたのだ」

「我らが知り得ている情報ですと、特に龍を討伐した際、一切隊員の手助けをせずに討伐後に最も高価な龍の角である討伐証明部位をさっさと奪い、自らのみの手柄として虚偽報告をした……と、普通に考えれば到底信じる事の出来ないデマが流れております。繰り返しますが、我らはそのような噂、デマは信じておりませんよ」


 騎士の方の言葉が暖かく感じます。


「ありがとうございます。こんな事を言うのは憚られるのですが、真実は真逆です。俺が第一隊を率いていた時は、隊員は一切戦闘に参加しませんでした。全ての戦闘においてです。ですが、いつの間にか王都で報告をする時には、俺が何もしなかったと言う情報が既に回っているのです」

「あの第一隊は、貴族の愚息連中の集まりでしたな。あの連中が普通の魔獣すら討伐する実力がない事位、子供でも理解できる。だが、王都は違う。その親である貴族が隠蔽し、虚偽の報告をしているのです。恐らくその愚息連中から魔道具で親の貴族に先行して連絡が行っていたのでしょう」


 騎士の一人が、少し内情を教えて下さいました。


 お話しを聞いていると、本当にお父様は報われません。少しは事情を知っていたつもりでしたが、ここまでとは思ってもいませんでした。


 国の為、私も住んでおりましたメンタント領も含むキューガスラ王国の為に、必死でお仕事をされてきたのに、手柄を奪われるばかりか、冤罪を掛けられて……


 許せません。


「ムロト殿が王都を離れた後、第一隊を率いていたのはコレスタと言う男爵家の四男です。男爵は、第一隊副隊長になったコレスタの威を借りて勢力を伸ばしていました。時折わが主、バージル伯爵にまで尊大な態度を取る始末。一方のコレスタですが、実力がない事を自分で理解していたのでしょう。第一隊はムロト殿が第一隊を離れた後は一切の依頼を受ける事が無かったのです」

「えっ?本当に一つも依頼を受けなかったのですか?騎士隊なのに?」


 お父様の驚きもわかります。


「ええ、あの王都はそう言った連中ばかりですよ。そしてその後はあまりに動かない第一隊に業を煮やした国王が第二隊と入れ替えを行い、更には今回のメンタントに遠征を命じたのです。その結果は先ほど申し上げた通り、敗走した挙句に魔獣の群れを我らが領地に押し付けたのです」


 呆れてものが言えません。本当に大丈夫でしょうか?キューガスラ王国。

 ですが、バージル伯爵のように一本筋の通った方もいらっしゃる事に安堵しました。


「ですから、ムロト殿が冤罪なのは誰が見ても明らかです。しかし、王都の連中や他の地方貴族連中はそうは見ていない。いえ、見えていない。目が私欲で濁っていますから真実はどうでも良いのです」


 その後は少しの静寂が訪れました。


「以前はどうだか知らないが、今は俺達の村の英雄、そして仲間だ。なぁ皆?ムロ(・・)の過去がどうだろうが関係ない。俺達はムロ(・・)に恩がある。前がどうだろうと、今も、これからも俺達の仲間である事に違いは無い!」


 村の方々が同意をして下さっています。

 嬉しくって涙が出てきます。

 フフ、嬉しい時にも涙が出るのですね。知りませんでした。


 四人の騎士の方も立ち上がってお父様と握手をされています。

 本当に素晴らしい光景です。


「どうだろうかムロ(・・)殿、一度我が主とお目通り願えないだろうか?」


 突然の申し出に困惑されているお父様。


「え、いや、申し出はありがたいですが、俺にはこの村があるのです。一応ここの存在は明らかになっていないとは言え、いつメンタント側に情報が洩れるかもわからないので、離れる訳にはいきません」

「それはそうですな。これは失礼しました。では、近日中にこちらから再び訪問させて頂きたいと思います。如何でしょうか?」


 えっ?領主様が自らここまで来られる?

 私が知る領主は、元お父様だけ。

 あの方は、自ら率先して行動するなどしていなかった……はず。


「それは助かりますが……良いのですか?」

「アハハハハ良いのですよ。あの方は城で書類仕事をする事を心底嫌がりますので、逆にこう言った遠征話を持ち出すと、二つ返事で受けてくれるのですよ」

「逆に執事が良い顔をしませんがな……」


 本当に面白いお方の様です。心に刻んでおきましょう。バージル様のお名前を……


 お父様の決死の覚悟での発言も受け入れられ、その後はとても和やかな雰囲気で過ごされた騎士の方々は、名残惜しそうに村を後にされました。


 私はお父様からの依頼もあって、騎士の方々が道中簡単に食べる事の出来る軽いお食事を四人分急いで作り、皆様がお帰りになる時にお渡ししました。


 皆様は、私の作ったお料理をとても美味しそうに食べて頂いたので、とっても嬉しかったのです。今度のお食事も、喜んでいただけると嬉しいな……


 騎士の皆様は、本当に嬉しそうに私のお渡しした軽いお食事を受け取って下さいました。


「や、本当にかたじけない。ここの食事は別格の味だったので本当にありがたい」

「まったくです。や~嬉しい」

「楽しみですな。ハハハ、よし、決めたぞ。次に領主がこの村に来る時は俺も同行しよう」

「何?抜け駆けは許さんぞ。同行するのは俺だ。いや、バージル様には勝手に来てもらって、俺は単独でここに来る!」


 なんだかハチャメチャでしたが、最後の最後まで面白い方達でした。

 またお会いできる事を楽しみにしています。


「お父様、本当に素敵な方達でしたね。あのような方達がいらっしゃる領地、素晴らしいのでしょうね」

「そうだな。俺は王都での生活が長かったが、あのような雰囲気の方には会った事がない。今までの人とは根本的に何かが違うのだろうな。次が楽しみだ。またスケジューラーで何かわかったら教えてくれな?」

「お任せください、お父様!!」


 暖かい方々の訪問のおかげか、暫くは四人の騎士達の話で村は盛り上がっていました。


 まさか次にこの村に来るのが望まない来訪であるとは、スケジューラーにも出てきていない為、知る由もありませんでした。


 気の良い方々の来訪で気が緩んでいましたが、あの騎士の方々のような人は、キューガスラ王国では少ない存在であると認識しておくべきでした。

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