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村での生活(ムロの秘密)

 突然お仲間の騎士の頭を軽くはたいた方が、お話しています。


「お前!馬鹿か。いや、申し訳ない。ここまで言ってしまったら勘の良い方はお気付きでしょう。我らはバージル伯爵に使えている騎士です」


 あっ、そうですか。バージル伯爵領のメルナの町に来た魔獣を討伐した話の時に、事前に情報を入手したと仰っていたので、明らかにバージル伯爵に使えている人だという事が分かる……と言う事だったのですね。

 なるほど。勉強になります。


 既に私達はその情報をスケジューラーで得ているので、知っていました!とは言えません。


「そうでしたか。ご丁寧にありがとうございます。ところで、立ち話もなんですから、どうぞお入りになってください」


 村長さんが流れるように四人の方々を案内します。

 この後は、私がお父様にお願いされたお料理の出番です。


 う~、ドキドキします。

 村の人以外に、それも他の領地の騎士と言う立場の方に食べて頂いた事等ないのですから……


 きっと普段、とっても美味しいお食事を食べられているでしょう。

 厳しい感想が来る事も覚悟しなくてはいけませんね。


「あの、こちら、宜しければどうぞ」


 ドキドキしながら、四人の方に軽食をお渡しします。

 そんな中でも、お話しは進んでいます。


「これは申し訳ない。突然訪問させて頂いたにもかかわらず……本当に暖かい村だ。その、申し訳ないが、この村について主であるバージル伯爵に伝える事だけは了解して頂けないだろうか。もちろん秘密は必ず守るお方だ」

「ええ、信頼しておりますので、よろしくお願いします」


 村長さんが笑顔で答えてくださいました。

 そのお返事を聞いた四人の方は、ほっと一息つかれています。

 本当に実直な方なのですね。


 緊張から解放されたのか、いよいよ私のお料理に手が伸びます。

 今度は私が緊張する番です。


「お、これは素晴らしい。今まで食べた事のない味だ」

「本当だ。いくらでも入るぞ」


 残りのお二方は……ひたすらに軽食をお口に詰め込んでいらっしゃいます。


 横にいるお父様が、ポンポンと頭を優しく撫でつけて下さいました。

 本当に嬉しいです。


 お父様の依頼を達成するために、全力で作ったのですから!


「いや、素晴らしい。本当に素晴らしい。実に素晴らしい」


……パカン……


 また一人の方が、頭を叩かれています。


「お前、もう少し違った言い方できないのかよ。でも確かに素晴らしい」


 ウフフフ、おもしろい方です。村の皆さんも笑顔に包まれます。

 かなり場が和やかになったところで、四人の方は各々本題を話し始めました。


「先程申し上げた通り、我らは魔獣の調査に来ております。最近は魔獣の出現率、魔獣のレベル共に上がってきているので、対策を打つ必要があるのです。その為の事前調査になります」

「移民の方という事でご存じないかもしれませんが、少し前まではキューガスラ王国内部ではこれほどの魔獣が現れる事は無かったのです。全て王都所属の騎士隊、特に第一隊が対応していたので」

「ですが、第一隊の隊長であるムロト殿()が幽閉され、噂によればその後失踪したのです。その後からこのような状態になっているので、明らかに騎士隊の力不足が原因でしょう」

「そもそも、ムロト殿()の幽閉された原因も、冤罪の可能性が高いと我らが主であるバージル伯爵は言っていましたな。我らも同意するところです……いや、申し訳ない、移民の方に話す内容ではありませんでしたな」


 私は嬉しくなって、お父様の手を握ってしまいました。

 お父様を信じて下さる方がいらっしゃる。そして、お父様の功績を認めて下さる方がいらっしゃる。

 こんなに嬉しい事はありません。


 心なしか、お父様の目も潤んでいるように見えます。


「申し訳ありません、私達には少々疎い部分のようです」


 そう答えている村長さん。もちろんお父様の本当の正体は知らないので、そう答えるしかないでしょうね。


「いや、申し訳ない。それで、これは独り言です。良いですね?」


 私達を見回して、一人の方が前置きをされています。


「王都の騎士隊ですが、やはり隊位にこだわる連中が多く、例外は私の知る限りムロト殿()だけでした。その為、騎士隊としてうまく機能していないのです。その最たるものが、第二隊。彼らは力がないくせに横柄で、メンタント公爵領の魔獣を討伐しに行きましたが、返り討ちに会った挙句、その魔獣を隣の領地である我らバージル伯爵領地に引き連れてきたのです」


 被せるように、もう一人の方が続けます。


「更に、その魔獣達が群れを成して我らが領地に向かっている事に気が付いていたにも拘らず、メンタント公爵側から一切の連絡がなかったのです」


 そう言う事だったのですね。

 元お父様なら、そしてシアノであれば、自分達の領地の魔獣がいなくなりさえすれば、その被害が他に向かおうが一切気にしなさそうですからね。


 再び一人目の方がお話しを続けます。


「我がバージル伯爵領は、既に国家として機能していない王都、王族、そして周囲の貴族を信頼していない。その為独自で身を守る方針としたのです。これはあなた方の秘密を守る意思表示として独り言をつぶやかせて頂きました」


 今のお話しが王都に漏れれば、恐らくバージル伯爵領は他の貴族から一斉攻撃に会うでしょう。

 そのリスクをしょってまで、私達を信頼してくださる証としてお話ししてくださったのです。


 ここまで出来るお方は中々いらっしゃいません。

 少なくとも、メンタント公爵領の中には絶対に存在しません。


 そう思っていたところ、お父様の手の力が少し強くなりました。

 同じ事を感じていたのでしょう。


 ここで私は違和感を覚えました。

 初めての感覚、そう、なぜだか、スキルに呼ばれている気がするのです。


 お父様にこっそりと状況を伝えて、この場で魔力を少々貸与して頂きました。

 そしてスケジューラーを起動すると、未来の項目にこの場でお父様の正体を明かすと吉とだけ記載があったのです。


 この場でと書かれている事から、本当に近未来が書かれているのでしょう。

 心の準備をする時間が欲しかったので、もう少し前にこの未来が見えれば良かったのですが、今更言っても始まりません。


 お父様に、スキルで出た事実だけを伝えました。

 すると、意を決したお顔になります。


 そうですよね、ここまでこちらを信頼して頂けているお方。そして、楽しくも暖かい村の方。

 いつまでも秘密にし続けるわけにはいきませんよね。

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