村での生活(バージル伯爵の騎士)
「お父様、これを見て下さい。中々良い出来だと思いませんか?」
私の自信作であるお料理を、お父様に見て頂きます。
リージュちゃんも、私のお料理を見て嬉しそうに飛び回っています。
「お、旨そうだな。ちょっと味見しても良いか?」
「はい!是非!!」
お父様に食べて頂くために作ったお料理ですから、是非とも感想をお伺いしたいです!
「お、美味いぞ!流石はレトロだ」
ウフフ、とっても嬉しいです。
こんな日常を村の皆さんと過ごしているのです。
村はこの短い時間ですっかり変わりました。
お父様の力、魔力貸与を皆さんに使って作業をしたので、家、防壁、道、全てが見違えるようになっています。
まるで王都の町……は言いすぎですね。でも、とっても立派な村になりました。
そんな楽しい毎日を過ごしているのですが、今の私には日課があります。
そう、毎日夜になると、お父様から魔力をお借りして特殊スキルであるスケジューラーを使うのです。
ここ暫くは特段注意する未来の記載はなかったのですが、今日は違いました。
「お父様、リージュちゃん、明日、お昼頃にバージル伯爵の騎士がこの村を発見するそうです」
「何?バージル伯爵……メンタントの隣を統治している方だな。お会いした事は無いが、聡明な方だとは聞いているが……噂だからな。それで、他に情報は?」
「ピュ~」
何故かリージュちゃんも慌てたように飛び回っているのが可愛いです。
ですが、悪い方向に行くのであれば何とか回避しなくてはなりません。
最悪は、皆さんとこの夜の内にこの村を捨てる覚悟も必要です。
私はスケジューラーを再び起動して、続きを確認します。
「えっと、魔獣の調査を極秘にしに来るみたいで、好意的に話が終わるとありました。但し、メンタント公爵に対して良い感情を持っているような態度を取ると、結果は最悪になるとあります。う~ん、どう言う事でしょうか?」
「いや、それなら問題ないか。申し訳ないが、レトロをあんな目に遭わせた連中に良い感情など有る訳は無いからな。だが、そうなる理由は分からないな。とりあえず、村長には連絡しておこう」
お父様はこれだけ言うと、村長さんに連絡をしにこの家を出て行かれました。
とは言っても、村長さんの家は数秒も歩けば着く距離なので、程なくして戻られました。
「一応伝えてきた。村長の方から皆には伝えてくれるそうだ」
これで一安心なのでしょうか?
私の近未来が見えるスキルについては、私自身も把握できているわけではないのでうまく説明はできませんでしたが、何となく村の皆さんには理解して頂いています。
そのため、突然未来の話をしても誰も驚くような事はありません。
むしろ、危険を事前に察知してくれる可能性がある……と喜んでいただけたのです。
危険は無いにこしたことはありませんし、避けられる危険は避けたいですからね。
頑張りますよ!いえ、スキルさん、頑張って下さい!!
こうして一日は終わります。
そして翌日、スケジューラーを念のため朝に起動して、予定に変更がないかを確認します。
やはりお昼過ぎに、バージル伯爵の騎士一行が来るのは間違いないですね。
「お父様、今日のスケジュールに変更はありません」
「そうか、伯爵の件も……という事だよな?」
「はい!」
お父様は、微笑みながら私の頭をなでて下さいます。
リージュちゃんもお父様に撫でられるのが好きなのは知っていました。今はその良さを私も感じる事が出来ているのです。
朝からとても嬉しい気持ちになりました。今日も沢山頑張れそうです!
「来るのは昼過ぎか。特段悪い方向にならないのだから、いつも通りで良いだろうな。ただ、多少の“もてなし”の準備位はしておこう。レトロ、人数分の軽い料理を作っておいてくれるか?」
「任せてください!!」
お父様からのお願い、全力で成し遂げて見せます。
何故かお父様は、私の気合十分の顔を見て微笑んでいらっしゃいますが、何故でしょうか?
「フフ、無理はするなよ?じゃあ俺は仕事に行ってくる。リージュ、頼んだ」
お父様はリージュちゃんに魔力を貸与し、逆に身体強化を受けています。
今日のお父様の予定は、防壁外部の点検・補修、そして食料調達です。
「気を付けて作業してくださいね」
「ああ、大丈夫だ。昼前には戻るからな」
こうして、日常が始まります。
既に村民の皆さん全員に情報が伝わっているので、昼前には門の周辺に勢揃いしています。
やがて、リージュちゃんが一鳴きしました。
その視線の先には、馬に乗った四人の方が驚いたような表情をしつつもこちらに近づいてきます。
村長が門の外に出て四名の方を出迎えると、その方達は若干警戒した様子を見せつつも、馬から下りて丁寧に挨拶してくださったのです。
スケジューラーの内容は伝えているので、こちらには基本好意的だという事が分かっている為、村長さんも普通にお話しをしています。
但し、余計な警戒心を与えないように、スケジューラーによって知り得た情報、この方達が魔獣の調査をしに来られたバージル伯爵の騎士である事等は言わないようにしています。
「こんなところに村があるとは知りませんでした」
「ええ、実は私達は難民で……この場所を勝手ではありますが開拓させて頂いたのです。ですので、この場所は秘密にして頂けるとありがたいのですが。特にメンタント公爵に明らかになってしまうと、後々大きな問題になる可能性がりますので」
暗にメンタント公爵に属しているわけではないと伝えている所は、流石村長さんです!
その話を聞いた騎士達は、明らかに警戒するのをやめたように見えます。
そもそもこの場にいるのは私、お父様、リージュちゃんを除くと迫害されがちな獣人の方達ですが、この場にいる四人の方は対等に接してくださっているので、とても好感が持てます。
「そうでしたか。わかりました。決してこの場所の事、メンタントには漏らさない事、ここに誓いましょう」
全てを知っている私達は、やはりバージル伯爵には話すのだ……と判断しました。
でも当然ですね。主たる伯爵には情報を伝達する必要がありますから。
ですが、恐らくそれ以上情報を拡散するつもりはないのではないかと思いました。
スケジューラーにも危機的な情報の記載は見当たりませんしね。
「実は我らは、最近現れた魔獣の調査をしているのです。特に、直近でメンタントを襲った魔獣達がバージル伯爵領のメルナの町にまで流れて行きましたので、安全のために周囲の調査を行っております」
メンタントが魔獣の群れに襲われたのは、初めて知りました。
スケジューラーの過去の記述にもなかったはずです。
「被害は大丈夫だったのですか?」
「ええ、魔獣の弱点を事前に入手する事が出来ましたので、全て討伐済みです」
村長の問いかけに騎士が答えていましたが、他の騎士に頭を叩かれていました。
何かあったのでしょうか?