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メンタント公爵領と第二隊(2)

 コレスタ副隊長との魔道具の通信が切れた後に、あまりの無礼さ、そして未熟さに怒りを隠せなかったメンタント公爵だ。


 危機的状況の対応に来ているのにもかかわらず、目の前で自らの娘を食事に誘って見せたのだから、怒りが爆発するのも仕方がない。


「この非常時に、私の娘を、私の目の前で平気で食事に誘うとは……無礼極まりない」

「お父様、落ち着いてください。私があの方と食事に行くと言う未来は有り得ませんから」


 だが、その誘いを受けたように会話をしていたシアノは冷静だ。

 あまりに冷静であった事から、メンタント公爵も冷静さを取り戻す。


「シアノ、それは……それも統治術の力を使って導き出した結論か?」

「はい、もちろんです。今回、我らがメンタント領は危機的状況に陥っています。この状況を回避する唯一の指針に従ったのです」


 唯一の指針と聞いて、公爵や、空気のように立っていたメリンダ夫人も緊張した面持ちになる。


「それは、あの副隊長を魔獣の群れに突っ込ませます。その後、あの一隊は壊滅的な状況に陥るのです。部隊は瓦解し、逃走を始めますが、この逃走行為が重要です」

「何故逃走行為が重要になるのだ?それでは、我が領地の危機は変わらないだろう?」


「いいえ、統治術によれば、逃走している者達は、最後に宿泊していた町の方向に逃げる可能性が非常に高いそうです。恐らく町の防壁の中に入る為でしょう。あっ、もちろんメンタントの門は何があっても開けてはいけません。そしてその結果、魔獣達は第二隊を追うようにこの場から消えるのです」

「素晴らしいではないか。流石は統治術!」


 他の町に被害が行く事に一切心を痛めないメンタント公爵一家。

 むしろ、素晴らしい作戦だと称賛する始末だ。


 当然、隣の領主であるバージル伯爵やメルナの町に連絡を入れるような事はしない。


 対策を取られて、再びメンタント領に魔獣が舞い戻っては困るからだ。


「それで、その魔獣はその後どうなる?」

「このメンタント領に関わらない部分ですのであまり明確には分かりません。おそらくですが……メルナの町で姿を消すようです」


 この結果を聞いて安心したメンタント公爵。

 メルナの町がどうなるのかは気にもならないので、シアノに聞かない。

 もちろん、シアノも気にならないので調べる事もない。

 そして、あまり話す事の無いメリンダと、当たり前のように空気になっている執事。


 この親にしてこの子ありの典型だ。


 何とも言えない話をしているうちに、再び魔道具が発光する。

 受信の処置をすると、予定通りにコレスタ副隊長からの連絡だった。


「こちらの準備は整った。防壁上部からデカイ魔術を放ってくれ。その後は全て我が第二隊に任せて頂こう」


 自分がどう思われているか、今後どのような未来を辿るのかを知る訳もないコレスタからの通信だ。


 映像では、なぜか自信満々の表情をしている。


「ええ、承知いたしました。この後、楽しみにしておりますね。ご武運を!」


 心にもない一言を付け加えたシアノ。

 今回の会話は、完全にスキル統治術の指示によっているので、自分の意思は一つもない。

 本来はここまで言いたくはなかったのだが、唯一の選択肢なのだから仕方がない。


 コレスタとしては、まさしく自分を想っての言葉だと受け止めたので、俄然やる気が出る。

 通信を切ると、即座に第二隊の隊員を鼓舞する。


「良いか、俺達にとってみればあの程度は雑魚。だが、油断はするな。今回の任務は完全・完璧に遂行する必要があるからな。メンタント領からの魔術行使が行われたら即出撃だ。気合を入れていけ」


 その言葉を合図に、第二隊は臨戦態勢に入る。

 長きに渡って実戦から遠ざかっていた、いや、初めから実戦は経験していないが、戦場に来る事すらなかったので、本来の魔獣の恐ろしさを忘れてしまっていたのだ。


 少しの間があった後、メンタント領の防壁上部から大きな魔術が行使された。

 周辺は魔獣で埋め尽くされているので、どこに着弾してもかなりの間引きが行わる。


 着弾後は、魔獣の怒りはピークに達して防壁に殺到する。

 当然背後にいる第二隊には、一切意識は向かない。


「行くぞ!」


 勇ましい掛け声と共に出撃する。

 魔獣側は怒りと騒音によって、背後から来ている第二隊一行に気が付かずに、奇襲は成功する。


 あの第二隊の攻撃が無防備な魔獣の背中に的中し、致命傷になったのだ。

 他の魔獣の数体は異常に気が付くが、ほとんどすべての魔獣はひたすら防壁に意識が向いている。


 異常に気が付いた数体の魔獣も、第二隊の無駄に良い装備のおかげか、難なく始末される。


「やはり俺達の敵ではないぞ!」


 大声で鼓舞するコレスタ。そのせいで、第二隊に気が付く魔獣が増加した。

 通常であれば、この有利な状態を維持しつつ背後から攻撃を続けるのが正解だが、第二隊にそのような経験もなければ知恵も無い。


 自分達の優位を信じて疑わない一行は、隊列も何もあったものでは無いまま、我武者羅に武器を振り回しながら魔獣の群れに突撃していく。


 当初は突然後方から大声を出しながら突撃してくる第二隊に驚いた魔獣は、少なからず被害を受けた。


 我武者羅に振り回した武器でも、密集している状態であれば嫌でも当たるからだ。


 だが、落ち着きを取り戻した魔獣にとって、第二隊の攻撃など当たる訳もない。

 一人、また一人と第二隊の隊員は容赦なく攻撃されて吹き飛ばされる。


 数人が攻撃されたところで、第二隊は思い出してしまった。


 攻撃される事の恐怖を……そして、今まで攻撃すらまともにしてきたことがなかった事を……


 ようやく実戦の場に来て本当の自分の実力を思い出した第二隊は、副隊長であるコレスタを始めとして一目散に撤退を始めた。

 武器を投げつけた直後に魔獣に背を向けて走り出すのだ。


 こうなると、敵も味方もあったものでは無く、見苦しくも同じ隊員すら押しのけて、我先にと逃走を始めた。

 もちろん、ある程度攻撃を受けてしまった魔獣は怒り心頭で、第二隊を追いかける。


 その流れを他の魔獣が認知し、更に第二隊を追いかけると言う状況になり、いつの間にかメンタント公爵領の防壁外部には、生存している魔獣は一切いなくなっていた。


 代わりに聞こえるのは、遠ざかっている叫び声と激しい足音。


 最新の情報を執事より聞いた公爵は、シアノの作戦が完全に上手く行ったことを理解した。


「シアノ、お前の言う通りの結果になった。良くやったぞ。これで邪魔な魔獣や不敬な第二隊のナントカと言う男もいなくなったぞ」

「それは良かったです。それでは今のうちに魔獣の素材を収集しておきましょう」


 シアノの後半は、決して統治術からの指示ではない。

 シアノ本人の欲望によるものだ。


 統治術の本来の指示は、騎士と冒険者に魔獣の素材を寄付するように……とあったのだが、金目の物を渡す事を快く思わないシアノ。

 冒険者や騎士が不甲斐ないせいでこの事態が起こったと思っている事もあり、相変わらず独自の判断を付け加えていたのだ。

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