表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/55

公爵令嬢レトロ(2)

 いつもの日常、そう、相変わらずに毎日毎日同じような事を言いに来るシアノ。


 今日は、朝の掃除の時に庭に来なかったので、珍しい事もあると思っていたのですが、その後の朝食の準備の時に現れたのです。


 当然厨房で作業するのに相応しい恰好などしているわけもなく、煌びやかなドレスをなびかせながら……


 いつもの話で聞き流せば良いかと思っていたのですが、今日はお母様の事にまで言及してきました。


「あらお姉さま、いつも大変ね。公爵令嬢なのに使用人すらいないのですから当然ですわね。ですがそれは仕方がない事。立場上私のお姉さまと言う事になっていますが、所詮は妾の子。お父様が暇を持て余していた時に偶然傍にいたあの女性……それがあなたのお母様だったようなのですよ。ですから、既に流れている血が私とは全く違いますの。もうすぐスキル鑑定の時。フフフ、その時が貴方との縁が切れる時かもしれませんね」

「それはそうでしょう。シアノ様とレトロ(・・・)では比べる事も失礼です。いまレトロが母娘でここにいられるのも、万が一に有用な(・・・)特殊スキルが無いかの確認と、メンタント様の温情によるもの。どうせ大したスキルを持っていないのですから、もうすぐ追い出されるのは間違いないでしょう」


 料理長が嬉々としてシアノに話かけているの。

 こんな事は日常茶飯事。お母様の事まで言われたのは驚いたけれど、気にしていたらきりがないわ。


 それに、最近はお母様の調子もかなり良くなってきているので、私がしっかり働ければここでの生活よりも心の疲れがないはずよ。

 そんな事を思っていたら、何の反応も示さない私の表情や態度が気に入らなかったのか、シアノが睨みつけるように私を見てから厨房を去って行ったわ。


 その後に残ったのは、私の近くにいる料理長。


「おいレトロ、お前は見かけだけは貴族としても通じるところがある。シアノ様のスキル鑑定の時にお前も鑑定するのだろう?どうせ大したスキルを持っているわけがないのは間違いないだろう。そうなると、この屋敷から追い出される事になるだろうな。どうだ?俺の妾になるのであれば、お前の母親と共に衣食住を保証してやるぞ?」


 本当に心底気持ちの悪い目で見てくる料理長。

 許されるのであれば、そこにあるお玉でその頭を強く叩きたい所ですが、そんな事をすれば即座に追い出される事は間違いないですから、グッと堪えます。


「申し訳ありません。そのようなお申し出をされましてもお受けする事は出来ません」

「チッ、融通の利かない女だ。せいぜい野垂れ死ね!」


 これが公爵お抱えの料理長。

 本当に心の底から悲しくなります。


 でも嬉しい事もあります。繰り返しになりますが、最近のお母様の状態です。

 あの薬草のパンを必ず朝食時にお出しするのですが、そのおかげかは分かりませんが、すっかり良くなってきているのです。

 本当に嬉しい。


 シアノの言う通りに私が産まれたとしても、今まで本当に私の事を考えてきて下さっていたお母様。


 私の容姿はお母様に似て、髪の色も金色。

 お母様はおっとりした、それでいて娘である私から見ても、とても奇麗なお方です。


 昔、唯一私達の事を思って下さっていた使用人の方は、私とお母様はそっくりと仰っていたので、お世辞も入っているのでしょうけれど、少しは私も見られる容姿をしているのかもしれません。


 シアノはどちらかというとお父様にそっくりで、髪の毛の色もお父様と同じ銀色。

 その辺りが、私への風当たりが厳しくなる要因の一つかもしれませんね。


 最近は体調の良くなったお母様と話し込むことが多くなってきました。

 そんな中で、今日の出来事もうっかり話してしまったのです。

 そう、料理長の話を……


 お母様の表情が曇ったので、私は自分が話すべきではない内容すら話してしまった事、伝えてしまった事を後悔しました。


「レトロ、私が不甲斐ないばかりにごめんなさい。でも、あなたはとても奇麗で優しい心を持っているから、そう言った場合の対処も考えておかなくてはいけないわね」

「……はい。心配かけてごめんなさいお母様」


 その後は、何もないように話題を変えて過ごしていました。


……コンコン……


 そこに扉をノックする音。

 こんな場所に来る人は今まで誰一人としていませんでした。


 お母様と顔を見合わせてしまいましたが、無視するわけにもいきません。


「どうぞ」


 恐る恐る声を掛けると、執事の方が入室なさってきました。


「失礼いたします。既にご存じかもしれませんが、間もなくシアノ様のお誕生日、そしてスキル鑑定の日です。当日お二方もホールに来るようにと、シアノ様からの要望でございます。ですが、誕生パーティーの参加者としてではなく、いつもの通り給仕をするようにと仰せです」


 お母様は悲しい顔をしていらっしゃいます。


 同じお父様の血を継いでいるのに、明らかに今までの扱いの違い、そしてとどめを刺すかのように、パーティーをして祝って頂いている妹の姿を目にしつつ、来客の給仕をしろと自分の子供が言われているのですから。


 ですが、先ほど私は不用意にお母様に余計な事を伝えて、落胆させてしまった後ろめたさがあります。

 ここで挽回しましょう。


「承知いたしました。当日は全力で対応させて頂きます。わざわざお越しいただきありがとうございました」


 私の対応に少しだけ表情を変えた執事の方は、美しい礼をされると退室されて行きました。


「お母様、私お母様と一緒に動ける事が本当に楽しみで仕方がありません。どのような場所でも、いえ、それは言いすぎですね。身の危険がない場所で一緒に動けるのです。これ程嬉しい事はありません!」


 これは私の本心です。

 私の話を聞くと、お母様は少しだけ悲しそうな、そして嬉しそうな表情をされて、私を優しく抱きしめてくださいました。


「そうね、私の宝レトロ。ありがとう。貴方が優しい心を持つ子に育ってくれてとっても嬉しいわ」


 こうして私達母娘は、シアノのパーティーに使用人として参加する事になったのです。


 実は私、この時点で覚悟はしていました。


 このままの流れで行けば私にどのようなスキルが出ようとも、魔力量の関係で有用なスキルとは言えないでしょう。


 つまり、お母様と共に追放される可能性が高いと思っているのです。

 恐らくお母様も同様の考えに至っているのでしょう。


 二人同時にパーティーに参加すると言う事は、そのような事を使用人全員の前で伝える良い機会なのです。


 ですが、間に合いました。

 そう、お母様の体調が良くなったので、何とか生活できる可能性が高いのです。


 恐らく、いいえ、きっと早々にこのお屋敷を追い出されるでしょうが、お母様と二人であればどんな事も乗り越えられる自信があります。


 二人で力をあわせて、楽しく過ごしていきましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ