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メンタント公爵領と第二隊(1)

「ようやく田舎が見えたな。想定以上の魔獣の数だ。だが、これだけいれば攻撃は適当にしても必ず当たるだろう。その部分だけは助かるな」


 この期に及んで尚、自分の、自分達の力を勘違いしているコレスタ率いる第二隊。


「前後で挟み撃ちをする方が効率が良い。魔道具で領主につなげ」


 コレスタの指示により、魔道具が起動される。


 第二隊はメンタント公爵領の到着が遅れており、メンタント公爵側から王都に問い合わせがあった時点で、王都からこの魔道具に連絡が入っていた。

 しかし、魔道具を一切起動していなかったので、通信が繋がる事は無かったのだ。


 ここで初めて魔道具を起動し、防壁内部にいるメンタント公爵と直接話をするコレスタ第二隊副隊長。


 彼は男爵の四男であり、本来は公爵とは立場が大きくかけ離れている。


 しかし、第二隊副隊長ともなれば、時と場合によっては公爵と同等に扱われる時もあるのだ。

 正に今の状況がそれだ。

 今の第二隊の立場としては、公爵からの強い要望で遠路はるばる助力に来ている立場なのだ。


 この場でコレスタの機嫌を損ねて帰還されては、メンタント公爵領が壊滅的な被害が出る。

 そうなってしまった場合には、コレスタ側にも任務放棄の処罰はあるのだろうが、領地が壊滅的になるのとでは、ダメージは比較にすらならない。


 特にプライドが高いコレスタは、今の状況をよく理解している。

 会話の最初で主導権を握り、自分が上の立場である事を認識させる事から始める事にしたのだ。


「お初にお目にかかる。今回貴殿からの要望(・・・・・・・)で出撃した王都所属騎士第二隊副隊長のコレスタだ」


 相手を敬うような話し方ではないのだが、メンタント公爵側もこの場でコレスタの機嫌を損ねるのは得策ではないと理解しているので、大人の対応をする。


 市井の者達への扱いは最悪だが、貴族達のドロドロした環境で育ってきた経験があるので、この辺りの動きは心得ているのだ。


「我らの依頼を受けて頂き感謝する。貴公の到着を待ち望んでいた。既に我ら領地の防壁が見える位置にまで来ているのだろうか?」


 暗に到着が遅いと告げているメンタント公爵だが、そんな裏の意味が分かる程コレスタの頭は宜しくない。


「当然だ。かなりの数の魔獣に囲われているのが見えている。我ら第二隊が到着するまでに間引きすらできなかったようだな」


 一瞬メンタント公爵の頬が痙攣する。


 今までの城壁からの報告では、かなりの数の魔獣を討伐しているにもかかわらず、一向に数が減らないと聞いていたからだ。

 その事実を無視して今目に見えている状態だけで判断した上に、自分達の到着の遅れを棚に上げて、正に無能呼ばわりしてきたのだ。


 多少の怒りの感情に覆われるのは仕方がない。

 だが、流石は上級貴族。冷静さを取り戻し、普通に対応する。


「大変申し訳ない。未だ経験した事のない数で攻め込まれたため、対応ができなかった。それで、今後の動きは?」

「当然、我ら第二隊と貴殿達の挟み撃ちで全て始末する」


 またしても頬が痙攣するメンタント公爵。

 本来到着するべき日程よりもはるかに遅れて到着した詫びすらなく、更には良く見ればかなり疲弊している騎士・冒険者が見えるはず。


 見えずとも、緊急依頼を出しているのだから戦力が残っていない事位は分かるはずなのだ。


 流石に堪え切れない怒りがわいてしまったメンタント公爵は、一旦映像が映らない場所まで移動する。


 すると、今まで映像に映り込まない位置でやり取りを黙って聞いていたシアノが、公爵の代わりに話を始めた。


 彼女は、少し前から本気で統治術を起動していたのだが、この領地の存続に残された選択肢が一つしかなくなっている事に気が付いたのだ。

 そう、危機的状況になっているのだ。


 残り一つしかなくなってしまった行動以外をしてしまうと、領地がなくなる。

 それだけは許容できないシアノが、交渉をする事にしたのだ。


「お初にお目にかかります、第二隊副隊長、コレスタ様。私、シアノと申します。父のメンタントは、少々魔獣の対応で疲れておりますので、私が変わってお話しさせて頂きます」


 映像に映らない場所でメンタント公爵は驚いているが、同じく映像に映らない範囲で手の動きで任せるように伝えたシアノ。


 メンタント公爵としても、統治術を持つシアノに絶対の信頼を置いているので、この場は任せる事にして黙って引き下がる。


「おお、あなたがシアノ嬢。お美しい。どうでしょう?この魔獣騒動が終われば、私と食事でも」

「ウフフ、お上手ですね。ええ、この騒動が終わりましたら喜んでご一緒させて頂きます」


 流れるように話は進んで行く。

 今回のシアノは発言に自らの意思を一切加えておらず、初めて全てをスキル統治術の指示通りに実行しているのだ。


「楽しみにしています。それでは作戦ですが、既にお伝えした通り魔獣共を挟み撃ちにしたいと思います。メンタント公爵領側からも出撃して頂きたいが、如何かな?」

「申し訳ありません、長きに渡り防衛を行っておりましたので、大した戦力が残っていないのです。コレスタ副隊長程の力がある者がいないので……ですが、第二隊は非常に優秀と伺っておりますので、こちらから出撃してしまうと、逆に我らが皆様の動きを阻害してしまう恐れがあるのではないでしょうか?」


「ふ・・・む、なるほど、一理ありますな」


 自分と第二隊を持ち上げられたコレスタは、何の疑問も持たずにシアノの意見を受け入れる。


「我らの残り少ない戦力は、防壁上部からの援護をさせて頂きます。第二隊の皆様に援護は必要ないかもしれませんが、遠くを見渡せる防壁上部からであれば、皆様の動きを阻害する事もありませんので」

「承知した。では、一撃目は防壁上部から攻撃を放っていただきたい。魔獣は一層防壁に意識が向くでしょう。その隙に、我らが背後から魔獣を始末します」


 こうして作戦は決定した。

 シアノがコレスタの食事の誘いを断らなかったのは、逃亡するのを防ぐため。


 もちろん統治術の指示によるものだ。


 統治術は、自らが統治している場所に対して作用するスキルなので、メンタント領の危機に対しての対応も、事細かに教えてくれていたのだ。


 但し、今まではシアノが勝手に自分の意見を付け加えてきたので、既に選択肢は一つしかないが……


「こちらの攻撃準備が整えば連絡する。その後は、防壁上部からの攻撃が作戦開始の合図だ。では、食事を楽しみにしていますよ、シアノ嬢」

「ええ、第二隊の副隊長とのお食事、光栄です。私も楽しみにしております」


 こうして魔道具の通信は切れる。


「あのクソ副隊長。何を悠長にしている。既に攻撃準備位は整っているのが普通ではないのか?」


 予想通り、怒りの収まらないメンタント公爵が騒ぎ出したのだった。

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