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キューガスラ王国

 ここは、ムロト、いや、冤罪を掛けられ、真面な扱いを受ける事が無かったムロ(・・)が逃げ出した国家であるキューガスラ王国。


 実際ムロトは未だキューガスラ王国内部に留まってはいるのだが、誰にもその居場所を知られていない。


 その王都の王城では、第二隊と第一隊の立場が入れ替わる告知が行われていた。


 第二隊隊長ラスプの予想通り、第一隊はムロト一人の力で成果を出し続けていた。


 その手柄を横領するばかりか、ムロトが一切役に立たないと言い続けていた第一隊の隊員である貴族の子息達。

 そして、その話を聞いて疑う事なく国王に進言していたその親である貴族。


 当然ムロトがいなくなれば第二隊どころか、そもそも騎士にすらなれない戦力しかないのだが、ムロトから奪った龍の討伐実績、そして貴族の後ろ盾があるために、第二隊に降格で済んでいる。


 ムロトが監禁直後に失踪した後の第一隊は、それは惨い事になっていた。

 第一隊である為に、地方領主からかなり高難度の依頼があるのだが、なんだかんだと言い訳をして、中々遠征に出ない。


 遠征の準備をする以前に第一隊隊員である事を鼻にかけて、王城内部、城下町でやりたい放題だったのだ。


 場内の使用人に対する暴言、暴挙、挙句には過去ムロトが依頼を達成した事のある地方領主への恫喝、恐喝。


 当然ここまでの悪行を行っている上に、隊長であるムロトがいなくなった直後から、遠征どころか何の任務もしていない第一隊に対する批判の声は膨らんでいた。


 だが、その批判の声が国王に届かなかったのは、第一隊隊員の親、貴族の力があったからだ。


 この貴族達とまともにやり合う事は避けて、自滅する方向で待ち続けていたのが第二隊隊長、いや、既に第一隊隊長に返り咲いた男ラスプ。


 ラスプの思惑通り、第一隊は結局ただの一度も遠征を含めた任務に向かう事が無かったので、国王としても降格させざるを得なかったのだ。

 噂は制御できても、依頼の実績までは制御できなかった第一隊隊員の親である貴族。

 流石にこればかりは受け入れるしかなかった。


 依頼達成率の調整は何とかなるのだが、依頼にすら向かわないのでは、調整のしようがない。

 そもそも第一隊の隊員はプライドだけが極限まで高いので、いつの間にか龍を含む全ての依頼を、本当に自分達だけで成し遂げたと思っていた。


 今までそのような高レベルの依頼を達成し続けた自分達が、何故これからも依頼を受け続けなくてはならないのか……そもそも、自分達は爵位を継げない次男・三男・四男……達だ。褒賞として爵位授与位あっても良いのではないかと言う思いから、依頼を拒否していたのだ。


 その結果は、第一隊からの降格。


()第一隊の者達よ。その方らの今までの成果は立派であった。だが、横領まで行っていた元隊長追放の任務を最後に気が緩んだのではないか?全く依頼を受けなかった結果、地方に少なくない被害が出ている」

「恐れながら申し上げます。我らは第一隊として、騎士の頂点として、今まで龍の討伐を含む高ランクの依頼を難なく成し遂げてまいりました。実績は既に魔獣如きに遅れを取って死亡している以前の第一隊よりも遥かに上だと自負しております。何故我らが今までの実績を正当に評価されずに第二隊に降格されるのかが分かりません」


 元第一隊の名ばかりの副隊長コレスタが自信満々に話している。

 ムロトがいなくなった後、実質的に隊長として君臨していたのだ。


 第一隊の隊長に返り咲いたラスプは、その会話に口を挟む事は無いが、呆れた目で見つめている。

 実力のない者程勘違いする事はありがちだとはわかっているが、度を越しているのだ。


「その実績もわかっている。だが、実績があるからとは言え、騎士隊として新しい依頼を一切受けないと言う理由にはならないだろう?違うか?このまま依頼を受けない状態が続くのであれば、更なる降格も覚悟せよ」


 ラスプの予想通り、名ばかりの副隊長コレスタが何を言っても降格と言う結果は覆る事は無い。

 偉そうにしていたコレスタ副隊長と、更にはその親の貴族も悔しそうにしているが、ラスプの知った事ではない。


 その場の空気を無視するように国王は続ける。

 いや、続けざるを得ない状況にまでなっているのだ。


「既に地方ではひっ迫した情勢にある。ラスプ第一隊は即遠征せよ。コレスタ副隊長の第二隊にも新しい任務を与える。メンタント領でも大量の魔獣が発生している為に応援要請があった。第二隊も即遠征せよ。拒否するのであれば、この場で第十隊に降格する」


 第十隊と言えば、騎士隊の中での最下位。

 下を向けば、既に一般の騎士……有象無象の騎士達の仲間入りが間近に迫っている位置だ。


 今まで、第一隊と言う立場を鼻にかけて豪遊してきた彼らにとって、決して許容できる地位ではない。


 騎士として子息を派遣している貴族達も、第一隊隊員の親という事で大きな顔が出来るようになっていた。


 いらない息子を放逐したが、図らずも金の卵に成長した息子。

 その息子が再び愚息に戻る事等は受け入れる事は出来ない。


 親子の思惑が一致し、その場で第二隊のメンタント領への遠征が決定した。


 メンタント領……そう、メンタント公爵が治める地。

 レトロが生まれ育った場所。そして、酷い扱いを受けて追放された場所だ。


 ムロト、そしてレトロが共に行動をするようになってから日は浅いが、既にムロトを失った場所では被害が出始めていたのだ。

 だが、実際の被害としては未だ大きなものでは無い為、国王・地方領主共に悲観的にはなっていなかった。


 今まで通りに地方で対処できない事は王都に依頼し、王都としても騎士隊を派遣する事により地方を守る。

 長きに渡って繰り返されてきた作業を淡々とこなせば良いと思っていたのだ。


 だが良く考えれば少し違和感があったはずだ。


 いくらムロトがいなくなった後の第一隊が使えなかったとしても、地方領主からの依頼が増え過ぎている事。

 そして、最近はただの一度も王都に依頼を出す事のなかったメンタント領からの依頼があった事に…… 


 しかし、本当の情報を得る事の無い国王にはそれが分からない。

 そもそも分かろうともしない。


 こうしてキューガスラ王国は、衰退に向けての第一歩を華麗に踏み出した。


 そうは言っても、王国内部の全ての者が愚者ではない。

 例えば第一隊隊長のラスプ。


 彼は国王の口から出たメンタント領への遠征に違和感を抱いていたのだ。


 彼は、思考の海に沈んでいた。


 そもそもあの領地では、統治術という優れたスキルを持っていた者がいたはずだ。

 それにも拘らず王都に依頼を出す程ひっ迫した状況になっているとは……理由が分からない。


 統治術があれば、外敵対策すら難なくこなす事が出来るはず。

 統治術を十分に使いこなせていないという事も考え辛い。

 なぜならば、統治術をもっている者の魔力は、十分にスキルを活用できる程度の魔力を有していると聞いていたからだ。


 いくら考えても自分が納得できる答えを得る事が出来なかったラスプ。

 結局は結論が出ないまま、遠征の準備に取り掛かる事になったのだ。

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