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獣人村の村人になる

「レナリア、起きて大丈夫なの?苦しくない?痛くない?」


 突然起き上がった娘、名前をレナリアと言うらしいが、娘をペタペタ触って心配している村長。


「ん、大丈夫!なんだかお腹が空いちゃった。お母さん、何か食べたいな!!」


 なるほど、元気な子だな。

 これならば問題ないだろう。


 そんな中、村長が娘を心配するあまり大声を出していたものだから、村人が集まってしまった。


「おい、レナリアが起きているぞ!」

「なに?本当だ。大丈夫なのかレナリア?」


 騒がしくなってきたが、騒ぎの元であるレナリアと言えば、嬉しそうに村人に手を振っている。

 そこに、丁度良いとばかりにこの場にいる村人に説明を始めた。


「ここにいらっしゃるムロさん、レトロさん、リージュさんが娘を助けて下さったの。今日は宴会よ!!」


 説明なのか?と思わなくもないが、村人は喜び勇んで宴会の準備をするべくこの場を後にした。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん、リージュちゃん、私を治して下さってありがとうございました」


 気が付くと、ちっちゃいレナリアが俺達の元にきてペコンと頭を下げてきた。


「良いのですよ。これからも仲良くしてくださいね、レナリアちゃん」


 ここは、少々強面の俺や龍のリージュより、穏やかなレトロの出番が正解だろうな。

 その流れで村長宅での大歓迎を受けた後、村を上げての宴会が始まった。


 その間に聞いた話を纏めると、どこの町や村でも獣人は迫害されており、レナリアの病を見てくれる医者もいなかったそうだ。


 それならば、せめて迫害されない人目のつかない場所に移住しようと、決死の思いで旅をしてここに辿り着いたそうだ。


 その途中、当然魔獣に襲われる事もあり、残念な事にレナリアの父は命を失ったらしい。


 そんな話を聞いていたのだが、この情報は一切レトロのスケジューラーには記載がなかったそうだ。

 ひょっとしたら、今の所はレトロに直接的に関係のある項目しか表示されないのではないだろうか?


 追々検証の必要はあるが……今は宴会を楽しもう。

 俺も宴会は初めてなので、なんだか気分が乗ってきた。


 皆と楽しく食事をするのがこれほど楽しいものだとは思わなかったな。


 最近は、新しい発見が沢山ある。

 家族の大切さ、愛情、そして友との宴会の楽しさ。


 経験した事の無い楽しい事がこの世界には溢れているという事に気が付かされた。


 やがて一人、また一人とダウンし、広場ではかなりの数の獣人が寝息を立てている。


「もしよろしければ、こちらでお休みください」


 村長は未だ正気を保っており、俺達に藁の寝床を勧めてくれた。

 今後の活動は後々考えれば良いかと思い、いつもの様にリージュに警戒用の魔力をかなり多めに貸与し、お言葉に甘えて眠る事にした。


 翌朝、これも初めての経験だが……かなり頭が痛い。

 周りの獣人たちも同じような症状を訴えているので、何か攻撃を受けたのかと思ったが、リージュは特に異常はなかったと言う。


「この辺り、まさか呪いとかあるのか?」


 真剣に対策する必要があると思って近くにいた獣人に聞いたのだが、大笑いされてしまった。


「ガハハハハハ、痛っ、イタタタタ。おいおい、ムロさん、笑わせないでくれよ。これは二日酔いと言うものだ。お前さん、酒を飲んだ事が無いのか?」

「え、いや、お恥ずかしながら……」


 どうやら俺は何か盛大な勘違いをしているらしい。


「そうか、じゃあ仕方がないな。良いか、これの頭痛は、酒を飲みすぎた次の日に起こる儀式の様なものだ。だから呪いではないぞ。プッ」


 くそ、かなり恥ずかしい。

 だが、悪い気はしない。


「じゃあ、この頭痛、取り除こうか?」

「お?そんな事が出来るのか?いや、レナリアを治せるんだから、その程度は出来るのだろうな。早速頼む。このままだと、今日は一日動く事が出来ないからな」


 昨日と同じくリージュに魔力を貸与し、スキルをリージュから与えて貰って回復術を行使する。

 広範囲で発動したので、全員の頭痛が取れたはずだ。


「お父様、ありがとうございました。この頭痛がお酒のせいだなんて知りませんでした」

「お、おはようレトロ。俺も初めて知ったよ。結構辛いな……これ。でも昨日は本当に楽しかった。あの楽しみが味わえるのであれば、少々の頭痛は我慢できそうだ」

「ピュ~」


 リージュもとても楽しかったらしい。

 俺達家族がこの村人になって初めての朝になる。


 これから何をすれば良いか……、見た感じでは、やらなくてはいけない事は沢山ありそうなのだが、勝手に動くわけにはいかないので、村長の指示を仰ぐとしよう。


 周囲を見ると、既に村長は近くにいたのでそのまま話を進める事が出来そうだ。

 きっと村長も最終的には宴会で潰れたのではないだろうか?


「おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

「おはようございます。おかげさまでお父様も私もリージュちゃんもゆっくりできました」


 リージュは一応周囲の警戒をしていたが、龍にとってはその程度は休みながらでも出来る事なのだ。


「サリナ村長、今日から俺達もこの村の民になるのだから、何かあれば遠慮なく言って欲しい。で、今日は何をすれば良い?資材の収集、食料調達、防護壁の補強、何でも良いぞ」

「ありがとうございます。正直、男手が少々足りませんので期待させて頂きたく思っています」


 昨日の宴会の中で、この場所に辿り着く前に相当数が亡くなったと聞いている。

 実際この村に住んでいるのは、俺達を除くと10人しかいない。


 そして男は4人だ。俺を入れれば5人。

 リージュは未だ性別不明なのでカウントしない。


「任せてくれ。それじゃあ力仕事か?」

「あ、私お料理やお洗濯が得意です!」

「ピュ~」


 レトロとリージュも気合十分だ。


「ありがとうございます。では、ムロさんは防壁の補強。方法はお任せします。レトロさんは昨日の片づけをお願いしようかしら。リージュさんは……どうしましょう?」

「リージュは、村を守ってくれ。重要な役目だ。頼んだぞ!」

「ピュ~!!!」


 こうして初日の活動内容は決まった。

 リージュも無駄に気合が入っているので、本来は一か所に留まって広範囲を警戒する事が出来るのに、この狭い村を無駄に飛び回っていた。


 可愛い奴だ。

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