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レトロのスキル(3)

 俺が貸与した魔力を使い、レトロ独自の特殊スキルを起動して未来を見ている。


「お父様、今日も読める未来がありました。こちらの方向に向かうと、何かとても良い事があるみたいです」


 未だ漠然としている未来だが、良い事が起こるのであればそちらに向かった方が良いだろう。

 それに、丁度方向としては王都から離れる方向だからな。


「そりゃあ良いな。じゃあ、早速行こうか。今日も俺の背中に乗るか?」


 体は全て治っているはずだが、念のため聞いてみる。


「ウフフ、お父様のお背中は大変魅力的ですが、今日はしっかりと歩きます!でも、もし皆さんの速度に合わなくなってしまったら、お願いしますね」


 こうして、俺は少々速度を落としてテクテクとレトロの指定した方向に向かう。

 リージュは、俺の肩、レトロの肩を交互に飛び回っているのだ。


 リージュも家族、そして仲間ができてとっても嬉しいと言う感情に溢れている。

 リージュが嬉しそうにしているのが分かるのか、レトロも暖かい微笑みでリージュを見つめ、時折じゃれている。


 道なき道を進んでいるのだが、当然リージュの警戒や遠隔攻撃によって安全は担保されている。

 やがて、獣道のような道から、人らしき者が使っているだろう道に変化して、鬱蒼とした森の景色も変わってきた。


 遠目には、木で簡単に作ったのであろう、防壁らしき物がある村が視界に入る。


「お、レトロの見てくれた未来は、あそこかな?」

「そうかもしれませんね。行ってみましょうか?お父様」


 いや、本当に家族は良いぞ!愛娘に愛情を込めて呼んでもらえる。

 一切疲れていないが、もし疲れていたとしても、一気に全回復しそうな勢いの活力が漲ってくる。


 何か良い事が起こると分かっているレトロは、嬉しそうに小走りに村に向かっていく。

 リージュも万が一に備えて、さりげなくレトロの肩にいる状態なので俺としても安心して見ていられる。


 向こうも俺達に気が付いたようで、少々ざわついているようだ。

 今まで長い期間幽閉されていたとはいえ、ある程度キューガスラ王国の地理は把握しているつもりだ。


 その俺が知らない村である事、急ごしらえの防壁から、できたばかりの村なのだろうか?


 少し足を速めてレトロの近くまで追いつくと、丁度門番の様な者達がこちらに近づいてきた。

 良く見ると、人型ではあるのだが……所謂獣人と呼ばれている種族。


 狼や兎など、特徴的な耳を持つ種族で、種族独自の強さも併せ持つ種族だ。


「そこの二人……と一匹。何しに来た?」


 俺達を警戒するように、少々距離を取った状態で立ち止まり問いかけてくる。

 俺もレトロも、相手に余計な警戒をさせないようにこの場で立ち止まっている。


 返事は見た目も良いレトロがしてくれる。

 俺の様な中途半端な目つきの悪い男が返事をしても、警戒されるだけだ。


……イカン、自分で思った事だが、地味にダメージが……と悲しい事を思っていたら、


「私達は怪しい者ではありません。キューガスラ王国から旅にでた父娘と家族の一行です!!」


 嬉しそうに話すレトロ。

 よっぽど俺と家族だと言えるのが嬉しいのだ……と信じたい。


 相手も、本当に嬉しそうに微笑みながら話すレトロに完全に毒気を抜かれたようで、警戒心が無くなっているのが分かる。


 隣の男は、俺の顔をみて苦笑いをしているのはなぜだろうか?

 不思議そうな顔をしていると、その獣人の男は俺にこう伝えてくれた。


「そこの君は顔がだらしなくなっている。君達を見ていると警戒する必要が全くない事は分かった。キューガスラ王国の刺客でもないようだし、大したもてなしはできないが、歓迎しよう」


 おや?そんなに俺の顔、だらしなくなっているか?

 思わず両手で自分の顔を触るが、門番の獣人は笑いをこらえるような仕草をしている。


 何故かレトロも嬉しそうだから、まあ良いか。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきますね。私はレトロ、お父様はムロ、そして家族のリージュです」

「これはご丁寧に……我らの紹介は、村長から正式にさせて頂きます」


 もう一人の門番がレトロに丁寧に答えてくれた。

 俺達は二人の門番の後に続いて村の中に入り、村長と呼ばれている女性に挨拶をさせて頂く事にした。


 村長宅に入ると、暫く待たされた後に慌てて女性の獣人がやってきた。

 姿は猫獣人に見える。


 実はその間、改めてレトロの力、スケジューラーを使って近未来を見たのだが、当初の予定通り、この場所が良い事が起こる場所で間違いないらしい。


 今まで未来の項目に書かれていた行動が、現在の行動の欄に移動したのでそう判断できるらしい。


 そのおかげか、新たな未来が見えたそうだ。


 それは、今から来る村長の一人娘は何やら病を患っており、中々治癒する事ができない。

 その治癒を俺とリージュの力で行えば、この村人と更に懇意にでき、ここに住む事になり、更に素晴らしい出会いがあるとあったのだ。


 出来立ての村、それも旅を決意して初めて訪れた村で腰を落ち着けて良いのか悩んだが、王都からは十分離れている事、王都にこの場所は把握されていない可能性が高い事、レトロの力を信じている事から、家族で相談した結果その未来を受け入れる事にしたのだ。


「お待たせいたしました。この度はようこそこの村へお越しくださいました。何分出来立ての村ですので、名前すらないのです。私、村長を務めておりますサリナと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。それで、不躾ではありますが、私達の能力で貴方様のお子さんの病を治癒する事が可能です。能力の詳細は明かせませんが……」


 村長は、村人から病の娘がいる事を聞いたと勘違いしているのだろう、何故その事を知っているのかとは一切聞いてこなかった。


 その代わり、本当に治せるのかをかなり繰り返し聞かれた。


 気持ちは良く分かる。

 俺も愛娘のレトロが同じ状態になってしまったら、大親友であり家族のリージュが同じ状態になってしまったら、助けるために何でもするだろうからな。


 繰り返しレトロが安心するように伝えると、ようやく理解してくれたようで、今度は急いで娘の元に同行するように急かされた。

 これが家族愛なのか……と改めて思いつつ、俺達は速足の村長について行く。


 もちろん大きな家ではないので、即目的の娘さんがいる部屋……と言って良いのだろうか、場所、に到着する。


 そこには、藁の布団に寝かされて、苦しそうな顔をしている小さな子供がいた。

 その姿を見て、俺は胸が締め付けられた。


 正に、レトロと被せてしまったのだ。

 もしレトロがこんな状態になってしまったら……


 俺は、いてもたってもいられなくなり、すかさずリージュに魔力貸与を行った。

 そして、リージュが習得したばかりの回復術を俺に貸与してもらい、行使する。

 いつもより強めの魔力貸与になってしまったのは、助けたい気持ちが溢れ出てしまったから仕方がない。


 だが流石はリージュ。完璧な回復術を習得していたので、あっという間に村長の娘は回復して目を覚ました。


 但し、龍の種族特性として自己回復があるからかは分からないが、瀕死からの回復が出来るほどの術は習得できなかったのは残念だ。

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