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レトロのスキル(2)

 肉を食べつつレトロを見守っていた。


「あ、申し訳ありません。夢中になってしまって……私ったら」

「いや、気にしないでくれ。こっちも勝手に夕食を食べているからお互い様だ」


 暫くするとレトロは落ち着いたようで、俺達に謝罪してきた。


「それで、どう言ったスキルだったんだ?話せる範囲で良いので、話してくれるか?」

「はい、ムロ様からお借りしている魔力を使って私のスキル、スケジューラーを起動したのです。すると、今までとは全く違う画面の様な物が出てきました。今、過去、そして未来までの項目が出てきたのです」


 やはり俺の予想通り魔力によって能力も底上げされた、いや、本来の機能を使えるようになったのだろう。


「過去については、起こった事を書く事は出来ましたし、何の意味もない事、例えば木の実の種類とかは書き込む事が出来ました。書かれていた内容についてはまだ良く見ていませんが、直近ではムロト(・・・)様がお肉を焼いてくださっていたと記述があったので、起こった事が書かれているのでしょう。……未来については、色々書かれているのですが、全てが読めるわけではないのです。えっと……このままこの洞窟で一晩過ごすと、かなり虫に刺されると書かれています」

「すごいじゃないか、未来が見えるのか。だが見えない、いや、読めない未来もある。う~ん、魔力はかなり貸与しているから、魔力不足じゃなさそうだしな……」


 特殊能力は奥が深く、制限や制約も数多くあると言われている。

 俺の魔力譲渡も制約になるのだろうか?


「だが、虫に刺されるのはごめんだ。その未来、書き換える事は出来たか?」

「いいえ、できませんでした」


 リージュからは、確かに命に別状のない虫が奥の方に存在していると言う感情が伝わってくる。

 命に係わる事であれば警戒するが、そうでなければ見逃しているのは事実だ。


「じゃあ、いくら何でも沢山刺されるのは嫌だから移動してみるか」


 だが肉が冷えると美味しくない。

 俺とリージュはかなり食べたので、まだ暖かい肉をレトロに渡して野営が出来る場所を目指す。


 もちろんリージュの力で周囲を警戒しつつ、更には遠くまで探してもらっているので、安全に素早く移動する事が出来た。


 次は、大きな木の下だ。


「レトロ、ここではなんて出ている?既に洞窟からは移動したから、未来も変わっていないか?」

「はい、現在の項目に記載が移っています。文言も、洞窟から移動して、虫刺されから逃れたと変わっています。未来は……何も読める記述はなくなりました」


 中々の能力だ。

 だとすると、かなり酷な事を言わなくてはいけないかもしれないな。


 そう、過去になっている馬車を襲った魔獣の件だ。

 わざわざギルドで魔笛の作成者を調べるまでもなく、黒幕までわかるのではないだろうか?


 道中既に肉を食べる事が出来たレトロなので、俺達はこれからしなくてはならない事は特にない。休むだけだ。


 どうやって切り出そうかと考えていると、レトロの方から話しかけてきた。


「ムロ様、いいえ、ムロト(・・・)様。ありがとうございます。過去の記述で、貴方様の事も詳細が書かれておりました。そして……お母様と私を襲った人たちの事も……」


 まさか俺の正体すらあっさりと看破されるとは思ってもいなかった。

 だが、過去も正確に記載される力であれば、嘘など見破る事は容易いだろうな。


 そして……彼女の表情から察するに、彼女の母親を襲わせた者は、俺の予想通り彼女の元家族の差し金である事は間違いなさそうだ。


 下を向いて震えている彼女をそっと抱きしめる。

 何故このような行動を取ったか俺にもわからないが、何となく愛しい娘を守りたいと言う感情に襲われたのだ。


 家族の何たるかを知らない俺が、結婚すらしていない俺が、娘を守る……笑いたければ笑ってくれ。

 だが、今の俺の偽りない本当の心だ。


 俺の腕の中で、レトロは必死で嗚咽をこらえて震えている。


「レトロ、悲しい時、悔しい時は泣けば良い。俺もリージュも君の味方だ。俺は……突然かもしれないが、君を本当の娘だと思っている。そんな娘を受け止めるのも、父である俺の役目だ」


 一瞬嗚咽が止み、腕の中で震えていたレトロが俺をじっと見つめると、その目には涙が溢れだして、俺に抱き着き悲しそうに泣いていた。


 俺は優しく彼女の頭をなで続け、リージュもレトロの肩に乗り頬を必死で舐めている。


 やがて彼女は落ち着くと、俺達に今までの彼女の家での扱い、そしてこれからの事について話し始めた。


 もちろん、俺も彼女を本当の娘として受け入れたいので、既にバレてはいるが、本当の俺の名前や生い立ちを話した上で、改めてレトロに娘になって欲しい旨告げて了承してもらっている。良く考えれば、既に少し前に洞窟で俺の本名を言い当てられていた気がしたな。


 しかし、まさか、こんな俺に本当の家族ができるとは思ってもみなかったが、それはレトロも同じように思ってくれたようで、俺の様な男に対して優しいお父さんができたと言ってくれたのだ。


 こうして、色々あった一日は過ぎた。

 俺の横では、嬉しそうに娘のレトロが寝息を立てている。


 俺はと言えば、有り得ない程満ち足りた心と、レトロに対する元家族の仕打ちに対する怒りと、相反する感情でせめぎ合っているので、一切眠気が襲ってこなかった。


「リージュ、メンタント家、どうしてくれようか?」


 リージュからも、俺がメンタントと発言した瞬間から怒りの感情と共に、とことんまで追い詰めてやると言う過激な感情も伝わってくるのだ。


「大いに賛成だが、レトロの気持ちもある。行動するにしても、もう少し落ち着いてからの方が良いだろうな」


 渋々ではあるがその通りと言う感情と共に、その日は特にメンタント家に対する行動を決定する事もなく、俺は娘の寝顔を見ながら本来は必要のない警戒を焚火の前でしていた。


 いつもリージュに魔力を貸与しているので、危険があるとすぐさま教えてくれるのだ。

 俺はと言えば、今日は身体強化をかけ続けている関係で、一晩位は眠らなくても全く問題はない。


 こうして翌朝、まだ薄暗いうちにリージュが探し出していた木の実を採取して朝食の準備をする。

 朝から肉だと、俺の可愛い娘には重いと思ったのだ。


 焚火のある木の下、リージュが一応警戒をしている場所に戻ると、既にレトロは起きていた。


「おはようございます、お父様」


 恥ずかしそうに、しかし、確実に嬉しそうに父と呼んでくれる愛娘のレトロ。

 自分の頬がだらしなく垂れ下がっているのが分かるが、もうこれはどうしようもない。


「ああ、おはようレトロ。良く眠れたかい?」

「はい、リージュちゃん(・・・)もおはよう!」

「ピュー!!」


 リージュともより一層仲良くなり、和やかな朝食が始まった。


 こうして朝食が終わると、


「お父様、今日の行動を安全なものにするために、スケジューラーで確認したいのですが、魔力を貸して頂けますか?」


 レトロから希望があって、父たるこの俺が娘の希望を断るわけもなく、即魔力を貸与した。

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