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ムロ、リージュの秘密(4)

 あまりにも情けない貴族の子息連中に呆れる。

 だが、俺の目の前には魔獣の群れが存在しているので、放置するわけにはいかない。


 呆れたままではあるが、俺はリージュに魔力を与え、リージュから与えられた広範囲攻撃魔術の力を使わせてもらう。


 こうすると、あたかも俺が魔術を行使したように見えるのだ。


 一気に目の前の地形が変形する程の攻撃を与えたので、その場に残っている魔獣は一体もいなかった。


 この攻撃を見た後に少しだけ隊員の態度が変わったのだが、心根までは変わっていない事を知るべきだった。


 その後、結構な依頼をこなして成果を上げている第一隊。


 実際に成果を上げているのは俺とリージュだけだが、現場に行っていない王城の連中はそんな事は分からない。

 むしろ、貴族の出来損ない隊員からの嘘の報告によって、なぜかあいつらが大活躍したことになっている。


 報告の度に、どうやってかは知らないが既に嘘の情報が流れているので、国王の態度もあまり良いものでは無かった。


「今回も優秀な隊員の力で依頼を達成したようだな。そろそろお前も活躍したらどうだ、ムロト?」


 と、こんな感じだ。


 だが、一応は最強の第一隊の隊長。

 一部真実を知っている貴族もいるようで、自分の娘の入り婿にならないか……としつこく勧めてくる人もいた。


 この男は、俺の隊員の親であったはず。

 この頃には、俺は貴族や王族を信頼できないと思い始めていたので、断り続けていた。


 そんな中、再び龍の討伐依頼が舞い込む。

 今までの依頼と異なり、龍の素材は大変貴重である為、隊員の目の色が変わる。


 過分な報酬や名誉が転がり込むからだ。

 もちろんリージュは幼体で、常に俺の肩にいるので龍だとは気が付かれていない。


 実際に現場に赴き戦闘を行ったのだが、今回の龍は、リージュの一族に関連する龍ではなかった。


 当然難なく始末する事が出来た。

 戦闘したのはいつもの通り俺とリージュ。


 残りの隊員は遥か後方で震えているだけ。


 戦闘対象が龍であるが故、いつも以上に後方に位置していた名ばかりの第一隊の隊員。

 普段横柄で、第一隊である事を鼻にかけているくせに、第三者の目がない実戦ではいつもの事だ。


 これでいて、いつの間にか戦果は自らが上げたと誰よりも早く王都に報告しているのだから恐れ入る。


 討伐が完了した瞬間に彼らは俺の方に走ってくると、俺を通過して龍の素材に群がる。


 本当にあきれてものが言えない。

 だが、討伐証明の角だけは隊長である俺が領主に届ける必要があるので、既に俺の手元にある。


 何気にこの討伐証明部位が一番高価だったりするらしいが、俺にとっては、あまり関係はない。


 いつもの通り領主に討伐証明を提示して、依頼完了の書類を貰う。

 そして王都に帰還するのだが、いつも以上に国王の顔が渋い。


「第一隊任務完了いたしました。こちらが討伐証明になります」


 討伐証明である龍の角を差し出す。

 それに対して帰ってきた返事は、俺の想像を軽く超えてくるものだった。


「ムロトよ、余はさんざん伝えていたはずだ。隊員の戦果はきちんと報告しろ……と。今までは大した魔獣ではないので見逃していたのだが、龍でも同じ事をするようでは見逃すわけにはいかない」


 何を言っているのかは分からないが、何が起きたのかはわかる。

 俺の隊員が、いつも以上に話を盛って報告したのだろう。


 この状態で何を言っても信じてくれるわけがない。


「今までも隊員に後方から命令するだけで、一切戦闘に参加していなかったのだろう?全ての隊員から同じ報告が上がっている。相手が龍でもそのような行動を取るような隊長は我が国家には不要だ。お前の行動は、龍の素材の横領に当たる。よって、ムロトは降格の上、謹慎を申し渡す。正式な沙汰は追って通知する」


 本当に……いや、何を言っても無駄。

 視界の片隅では、嬉しそうな第二隊隊長が見える。


 俺がいなくなれば、第一隊は有象無象の集団だと理解しているからだろう。

 つまり、今の国王の発言の拠り所である隊員達からの報告も真っ赤な嘘である事をあいつは理解しているのだ。


 だが、このまま俺がいなくなれば程なくして自分が第一隊隊長に返り咲けるから黙っている。


 心底嫌気が指した俺は、その日の夜にリージュの力を使って脱走した。

 少し前の第一隊にいたころから監禁状態が長かった俺は、長髪を纏めて縛っていたままにしていたが、この際思い切って短く切り、名前もムロトではなく、ムロと名乗る事にして、リージュと共に新たな人生を歩む事にしたのだ。


 恐らくあの第二隊隊長では龍を相手にはできないが、もう知った事ではない。

 さんざん利用され、捨てられる。


 誰にも感謝すらされず、重箱の隅をつつかれる。

 こんな生活はごめんだ。


 リージュの力と俺の魔力で、難なく王都を後にして目的地のない旅に出る。

 だが、目的はある。


 リージュと二人でゆっくり生活できる場所の発見だ。


 本当の自由を手に入れた俺は気分が高揚し、リージュの機嫌もかなり良い。


 数日結構な速さで移動していると、突然リージュが何かに反応した。

 何か、魔獣を呼ぶような音が聞こえるらしいのだ。


 慌てて全速力でそこに到着すると……倒れている女性に襲い掛かろうとしている魔獣がいたので、勢いをそのままに全力で魔獣を排除した。


 その後に確認すると、一人の女性は俺の目から見ても手遅れだったのだ。


 俺はこの時の事を心底後悔している。


 攻撃魔術や、鎮魂系統の魔術はリージュと共に使える状態になっていたが、今まで俺の率いる隊や俺自身が怪我を負う事が無かったので、回復系統の術を一切習得していなかったのだ。


 その油断が、ポーションすら持ち歩かずに行動し、結果、レトロの母親を救う事が出来ない事態に繋がった。


 俺の魔力量、そしてリージュの技術があれば、恐らく回復術さえ使えていれば助ける事が出来たはずだ。


 後悔しても遅い。だが、今後はレトロの為にもリージュが回復術を使えるように訓練する事にした。


 こうして、術を覚えつつではあるがあの場所から移動している俺とリージュ、そして背中のレトロ。

 彼女は疲労からか、既に寝息を立てている。


 無理もない。あんな惨劇で……これからは、約束通りリージュと共にレトロの幸せを探す事も目的の一つとしよう。

 リージュも彼女を気に入っているようだしな。

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