ムロ、リージュの秘密(3)
あの一件以降、俺は自由に王城内を歩き回る事が出来ている。
そんな中で、俺の考えの通り、第一隊は高ランクの魔獣討伐依頼を受けて俺を放置して遠征した。
あいつらの目から見ると、俺は何にもできない雑魚らしい。
その間にも広大な国土を持つキューガスラ王国では彼方此方で王都の騎士隊の派遣要請がある。
地方領主の戦力では手に負えない魔獣が現れるのだ。
当然第二隊も出撃している中で、更なる要請がある。
隊の番号が下がる程戦力は下がり、既に対応できる隊が無くなっている状態だ。
普段ならば、第一隊が既に帰還している頃なのだが、今回は俺が同行していないので、恐らく二度と戻る事は無いだろう。
そして、その予想通り第一隊が向かった領主から再び要請が来た。
前回と同じ依頼内容だが、既に第一隊は全滅したとの報告と共に……
王都、王城内部は騎士隊以外では激震が走った。
王城内の訓練は騎士隊しか見る事は無い。
そのため、完全無敵の第一隊が全滅した事に驚いたのだ。
一方の騎士隊。遠征中の騎士隊も恐らく同じ反応をするだろうが、さもありなんと言う態度になる。
どうしても第一隊が最強とは思えなかったのだろう。
王城内の訓練をその目で見て、場合によっては訓練相手になっていたのだから……
当たり前だが、王城に待機している騎士隊はこの事実を聞いて驚くような者は存在しなかった。
俺が場内で魔力貸与を実施する事は、情報漏洩の観点から厳しく禁止していたので、同じ立場で訓練する騎士には第一隊の本当の強さが知れ渡っていたからだ。
つまり彼らにとってみれば、ありのままの第一隊の強さは、他の隊と比較すると、はっきり言って雑魚だったに違いない。
俺はここで動く事にした。
一応俺も第一隊所属となっている。
だが普段から何もしていない上に、何のスキルもない事を知っている他の隊員や王族達も、付き人程度にしか思っていないのだ。
第一隊の訃報、そして新たな依頼を伝えに来た者に、単騎で出撃する事を告げる。
既に王都では第一隊が受けていた依頼を遂行できる実力のある隊は不在にしていたため、難なく許可が下りる。
こんな俺が単騎で乗り込む事に許可を出す王族もどうかと思ったが、先ずは作戦が上手く行ったことに安堵する。
リージュと共に依頼元の領地に急行して対象の魔獣の位置を聞く。
領主は俺の姿を見て絶望の表情を浮かべるが、王都からの正式な依頼受注の証明書、更には第一隊所属の証明書を出すと、魔獣の位置を教えてくれた。
領主としては、最強の第一隊が壊滅した後に来た助っ人が、何の力もなさそうな俺一人だから絶望したのだろう。
そこは無視して、俺は現場に向かう。
今回は、リージュに魔力を与えて、リージュ自身にスキルを使ってもらう事にしたのだ。
対象の魔獣は龍……現場に近づくにつれて、リージュの感情が高ぶる。
存在している龍は一体だが、どうやら元リージュの父親らしいのだ。
現場に到着すると、俺程度は平気で一飲みできそうなほどの龍が悠々と待ち構えていた。
龍種故に、リージュと同じく多彩なスキルを持っているのだろう。その為に、俺の存在程度は既に知っていたに違いない。
当然リージュの存在も。
「フン、なぜ生きていたかはわからないが、人族に飼われるとはそこまで落ちたか。ここで確実に息の根を止めて、我が龍族の品格を上げておくとするか」
龍の声を聞いて、思わず言葉が漏れる。
「あっ、龍って喋れるんだ」
そう言えば聞いた事がある。ある程度の年齢になった龍は人族と言葉で意思疎通ができる……と。
そうなると、一応今でも意思疎通は出来ているけど、リージュと話す事が出来るようになるのかも知れないと思い、なぜか気分が高揚した。
だが、龍にとってみれば何のスキルもなさそうな俺は道端の石ころと同じなのだろう。
一瞥すらせずに、既に俺の肩からあの龍に向かう様に空中に浮揚しているリージュを睨みつけている。
リージュの意思は、ここで必ずこの龍を倒す……との強い意志だ。
もちろん俺はその意思を受けて、全力で魔力を貸与する。
「な、貴様何時どこでそのような魔力を得た?あの時、お前の魔力は殆どなかったはずだ!」
既にリージュの父親である龍の魔力を軽く超える魔力を貸与した感覚がある俺。
更に安全を確保するため追加でガンガン魔力を貸与し続ける。
「ヒッ……」
情けない声を出して龍はリージュから距離を取ったかと思うと、一目散に逃げ出した。
だが、その瞬間大気が揺れたかと思うと、リージュの父である龍の体は輪切りになっていた。
最後の言葉すら発する時間すらなく、あっけなく始末して見せたリージュ。
どんなスキルを使ったか分からないが、少しだけ悲しく、そして若干の達成感と言う不思議な感情が流れてきた。
「リージュ、良くやった。大丈夫だ。これからずっと俺が傍にいる。俺にはお前が必要だ。だから、元気出せ?な??」
この言葉が適切かは分からないが、一先ずリージュは元気を取り戻してくれたので良しとしよう。
そして、討伐証明として頭部の角を領主に見せた上で、王都に帰還する。
王城では、俺の実績に疑いの眼差しを向ける者達しかいなかった。
当然だろう。何せ一人で龍を始末して来たと言っているのだ。
いくら討伐証明があっても疑われるのは無理もない。
だが、事実を伝えている訳だし、結果として領主から渡された依頼達成の証明書を持っているので、国王としても何かしらの対応をするべきと考えたのだろう。
その結果は、有象無象を集めた第一隊の隊長就任だ。
後日第二隊長から挨拶を受けたのだが、攻撃的な態度は一切なかった。
これは後で知ったのだが、有象無象の隊を組んだのだから、いずれは前の第一隊のように遠征から帰還できない可能性が高く、目くじらを立てるような存在ではないと認識されていたようなのだ。
確かに俺が隊長となった第一隊の隊員は酷いものだ。
そもそも貴族の三男や四男等、爵位を継げないが、ある程度の地位にいたいと言う者しかいないのだ。
爵位の何たるかは俺にはわからないが、なぜか無駄にプライドは高い。
俺から見てもろくに体を動かす事も出来ずに、指摘されるのを殊の外嫌う。
連携も何もあったものではないが、魔獣は待ってはくれない。
隊結成の一週間後には、遠征に出る羽目になる。
とはいえ、流石に結成したばかりなので日帰りで行ける距離だったのだが……
道中の雑魚魔獣の討伐にも苦労する体たらくで、リージュの力を使って隊長である俺が全ての魔獣の対処をした。
やがて現地に到着すると、視界の先には大量の狼の様な魔獣の群れが畑を荒らしていた。
単体ではさほど強くないが、爆発的に繁殖して危険度が跳ね上がる魔獣と聞いている。
既に繁殖し続けている状態であり、第一隊に依頼が来たのだ。
第一隊の隊員は、普段は偉そうだがある程度の知識だけはある。
当然あの狼のような魔獣の知識もあり、全員後方に下がり続けている。
前線にいるのは俺とリージュだけ。いつも通りと言えばいつも通りだ。