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男たる者

 男たり得る者    未投稿

 歩鹿乃綾香( あやか)、淳の姉であり、神崩しの隊兵である。



「姉さん、何でこんなところに…………」


「仕事よ。貴方こそ」


「俺はほら、休日だし、買い物終わってからご飯」


「帰んなさい、今からここらは要注意区域よ」


「って、まさか!」



 神隠しには、人を引き寄せる力がある。

 引き寄せられた者は扉に入り、二度と戻らない。

 それを追って扉に入った者は極稀に生還するが、引き寄せられた末に扉に入った者は、帰還した事が一度もない。



「貴方が扉に入らない可能性も0じゃないの。近づかないに越した事はないわ」


「それは姉さんもでしょ」



 ラーメン屋に似合わない雰囲気の2人、聞き耳を立てる者と、おかしな2人だと思いながらも気にしない者に客が別れていた。



「ちょっと良いですか、お姉さん」


「俊典くん、なに?」 


「いやあ、学校から外出許可が出たって事は、これって前から観測されてた神隠しじゃないですよね。そしたらあれ使えるかなって―――緊急支援」


「やめて!」


 机を強く叩き、叫ぶ。

 店内はその声に鎮まり、見かねた店員が注意に入る。

 緊急支援とは、突然現れた神隠しに隊兵の招集が足りない場合は、その場に居合わせた学生が理事長許可の上ならば支援に参加しても良いという決まりだ。



「矢津」


「何?」


「ラーメン、2杯食べれる?」


「余裕」


「任せた」



 そう言って、歩鹿乃は店を出る。



「待って!」



 綾香もそれを追いかける様に店を飛び出し、店内では、騒ぎの関係者であろう矢津に視線が集まっていた。



「あの…………ラーメン3杯とも、この席でお願いします」



 視線を寄せられた矢津は、ラーメン3杯を平らげた後の自分を、只々憐れむ。




 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




「淳、淳待って!」


「大和学長、緊急支援の許可を」


「現場戦力は?」


「姉が」


「許可します」



 学校から支給されるGPS付きのリストバンドには、緊急事態限定で使用を許可される機能として、理事長に直接通じる連絡機能が搭載されている。



「やめて、もう兄さんみたいに!」


「同じだよ」



 高架下、何とか止めようとする綾香と、それを拒否する歩鹿乃の間に季節外れの冷たい風が吹き抜ける。



「もう立教兄さんの時みたいな思いをしたくないのは、僕も同じだよ。まだ学生で普段は届かないけど。でも、今日は届く」


「だからって、淳まで―――」


「見つけた」


「待って!」


「狭間木1年、歩鹿乃淳! 理事長の許可を得て、支援へと参りました!」


「淳、綾香さんの弟御ですか! これは心強い。協力、感謝します!」



 綾香の静止も聞かず、歩鹿乃は現場の隊兵と合流して行く。



「突入はいつ頃ですか?」


「後10分ほどで」


「了解、ありがとうございます」



 神崩しの、白を基調とした隊服の中に1人私服の学生が混じるが、血縁も血縁。

 皆が頼りにする綾香の弟となれば、誰1人歩鹿乃の参加に意を唱える者など存在しなかった。



「お願いだから、すぐに戻って! 沙也加ちゃんには私から言っとくから!」


「無理ですよ、綾香さん。立教さんの時の貴方も、あんな目をしていた」



 綾香に声をかけたのは、初老の隊兵。

 今回の指揮権を握る男だった。



「私はこの仕事を長く続けてますけどね、家族や親友、恋人らと一緒に戦おうと己の心に誓った人間は、皆あの目をしていた。当然、力不足で止めた事もあったが、誰1人として言うことを聞いてくれた人なんて居ませんでしたよ」


「でも、淳は学生で!」


「でも、男です。男たる者、人の為に戦おうと誓えば曲げる事は決してない。覚悟を決めた男の心とは、何よりも美しく、何よりも変わらない」



 綾香も、分かっていた。

 嘗て人型使徒を前に自分を逃した兄の様に、歩鹿乃の意思も変わらぬ事を。



「姉さん、俺は死なないから。だから、今は見てて欲しい」



 ただ―――自分を。



「証明するから。だから、見てて」



 ただ―――自分だけを。



「俺を、信じて見ててよ。信じて見せるから」



 言い聞かせる様に、誓う様に。

 歩鹿乃は、言葉に力を込めて、綾香に言った。

 姉へと、言葉を送った。

読んでくださりありがとうございます!

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