アカウント登録のときも人間のハードルは高い
「はい終わり、次6番の組み出て来て〜」
あっという間に前の組が倒されて、歩鹿乃と雨宮に声がかかる。
「作戦会議してたみたいだけど、互いの神形はちゃんと覚えたかい?」
当然―――2人は声を合わせて答える。
「よーし、息ぴったりじゃないか。それじゃあ、よーい、どん!」
戸部の、どんの声と同時に雨宮は駆け出し、戸部はゆっくりと歩き出す。
「戸部先生、貴方は負けを認めるべきだ」
「そうは思えないねえ」
歩鹿乃の神形は、言葉の説得力だ。
自分が言ったことを相手に少し、そうかも知れないなと思わせる。
その度合いは相手の考える物事の重要度に比例しており―――例えば、まあそれでもいいかなと思える程度ならば大体は言った通りの考えになる。
「戸部先生、貴方はそこから歩くべきではない!」
「まあ、歩かなくても2人相手は容易いかな?」
今度は成功。
足を止めたところで、最初に駆け出した雨宮が戸部の背後へと回り込む。
「少し熱いですよ!」
雨宮は指の先まで揃って合わさる手をゆっくりと開き、その間には青い炎が浮かんでいる。
雨宮の一族は、代々青い炎を使い、空からその炎を降らせれば、それは雨の様だとよく知られている。
雨宮が掌を向き合わせた状態から勢いよく戸部へと向けると、炎は戸部目掛けて飛んでゆく。
「攻撃と支援―――初にしてはまあまあの連携だが、まだ甘い」
唯一真面目な教師に見えるポイントであるスーツのジャケットを脱いで、それで炎を受け流す。
「戸部先生、貴方は2秒間静止するべきだ!」
1秒、雨宮が新たな炎を用意する。
2秒、雨宮が炎を放つ。
3秒、動けるようになった戸部が炎を受け流す。
「3秒にした方がよかったな。反省点だ!」
「そうでもないっ!」
2秒は雨宮が炎を放つまでに必要な時間ではなかった。
事前に2人で話し合った作戦では、2人が支援と攻撃に分かれることとなった。
ここまでが戸部の予想が当たっている部分。
しかし、正しくは攻撃が歩鹿乃で、支援が雨宮だったのだ。
雨宮は攻撃から意識を逸させる為に攻撃をして戸部の意識を引くことで支援。
歩鹿乃は戸部が雨宮を警戒している内に攻撃だ。
戸部の頭に目掛け、思い切り蹴り付ける。
「策は良いが、根本的に身体能力が足りない。遅いから、不意打ちも見てから抑えられる」
戸部は歩鹿乃の足を足を掴んだまま、雨宮へ向けて投げつける。
「次、7番の組み!」
歩鹿乃と雨宮チーム、惨敗である。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「いや〜あーちゃん手も足も出なかったね」
「お前もだろ、5秒位で終わってた」
「いやあ、照れるから褒めんな」
「褒めてないだろ」
あの後、後続の組みも全て戸部に蹴散らかされて実技は終了した。
「少しは手加減して欲しいよな、戸部ちゃん強すぎ」
「いや、アレで大分手抜いてるよ」
「え……マジ?」
「マジだよ―――うちの両親神崩しに居るの言ったっけ? 前にその付き添いって形で戸部先生が神隠しの
中で戦ってるの見たけどさ、ヤバいのなんので」
「素手で?」
「流石に神形使ってたよ。地面から色んな剣生やしてボコボコに」
「うわ、それは化け物にも同情するわ。因みに何型だった?」
「確か猿だった筈」
「猿か……………異形型相手には流石に手こずってもらいたいね」
「ああ、そうしないと人間のハードルが高い」
二人の言う化け物とは、神隠しの先に居る者のこと。
名を、使徒と呼ばれる者のことだ。
神隠しとは、現象の名。
雨や地震のようなものだ。
使徒とは、その先にある洪水や土砂崩れなどと似ている。
神隠しの扉の先には使徒という化け物が居る。
それが神崩しの常識だ。
使徒には様々な種類があり―――それを大きく分けると、人型、獣型、異形型。
強い順に、獣、異形、人だ。
獣型は動物などと近い見た目をしており、その見た目によって犬型や猿型などと呼び分けられる。
一番弱い獣型でも、一般人が出会えば一溜りもない。
その爪や牙は戦車をも引き裂き、動物由来の怪力や優れた機動力などで人々を蹂躙する。
「まあ、戸部ちゃんだし例外的な扱いだろうから人間全体のハードルは上がらないだろうけどね」
「だと嬉しいよ」
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