こちら神崩し育成学校
さあ始まりました新連載!
昨日前連載が終わって一息つけばいいのにと思うかもしれませんが、出来る限り毎日投稿頑張ります!
「神隠し、皆んなが今後挑むべき苦難の名前ね。前々から言っているように、奴らは凶暴で知能があり、一般市民の脅威として長年――――――」
何度も聞いた話。
自分がやりたい仕事の話なんだからつまらなくはないが、耳に胼胝が出来るほど聞かされ続けると面白くもない話を、皆薄らと平和ボケした頭で聞き流す。
今この教師が読んだ一文だけでも、突き詰めていけば幾百年もの時間と、数え切れないほどの人々の死の上に成り立っている。
そんな目に見えない透明な死を、只々右から左へ、受け流す。
「えっと、今日は6月8日だから………………じゃあ6掛ける8を2で割って、24番の歩鹿乃。教科書30ページの5番を読んでね」
歩鹿乃淳、彼に名指しで教科書を読ませるこの教師は、時々奇妙な方法で生徒を選び、教科書を読ませる。
それ故、生徒は皆一定の意識を授業へと向け続ける。
この結果は教師が想定して作り上げたものなのか、偶然の結果なのかは誰も知らない。
「えっと―――1750年、神隠しに対抗するべく私達の祖先は神崩しという隊を国公認で設立。1771年に行われた政府に対する神暴宣言など、数多くの功績を残している」
「はいオッケー、もう座ってね〜」
歩鹿乃の声は教師によって遮れた。
どこにでもあるような授業風景、しかしそこで行われている授業内容は、決して他では見ないようなものだ。
この学校、普通では無いのだ。
東京の地下深くに設立された高校、名を狭間木高校という。
この高校では、遥か昔から人類を脅かす脅威、神隠しに対抗するべく日夜生徒たちが精進している。
まず神隠しの説明をしよう。
それが分からねば彼らの努力は伝わらない。
現在東京では、一つの噂が人気を博していた。
曰く―――今までなかった場所に突然扉が出現する。
その扉に入っていった者は、基本戻らないという。
その基本から逸れた数少ない生還者達は皆口々に言った。
化物が居たと。
この扉が初めて観測されたのは、東京が未だ東京と呼ばれていなかった頃。
江戸の時代だ。
城下町にある荒物屋の店裏に扉は現れた。
最初に気づいたのは猫だった。
低い唸り声を、扉に向かい挙げ続けるのだ。
次に気づいたのは、その猫の声に気づいた店主の嫁だった。
店主が猫の声に気づいて、客と話している自分の代わりに見てくるよう嫁に言ったのだ。
扉に気づいた嫁は大騒ぎ。
ご近所の者たちが続々と駆けつけた。
駆けつけた者たちに見守られながら嫁が扉を開くと、おかしな点など微塵もないただの部屋があった。
6畳ほどの、部屋。
おかしな点は、店の間取り的には商品が仕舞ってある筈の壁の奥に部屋があることだけだった。
不思議に思いながらも嫁が踏み入った瞬間、消えた。
扉は開いたまま、嫁の姿だけが消えたのだ。
そのことは即座に箝口令が敷かれ、国の上層部の者と、その嫁が消える瞬間を目撃した者達だけが知ることとなる。
そして、知るものは口を揃えてこう言った。
これは、神隠しなのだと。
その神隠しは今の時代にも時々観測されており、度々行方不明者が出ている。
しかし、初の観測から幾百年。
人類は、ただ指を加えて被害から目を背けるだけではなかったのだ。
神隠しと戦うために作られた組織。
通称―――神崩し。
彼らの存在によって、設立前よりも失踪者が九割減したのだ。
ここは未来の神崩し育成校。
これは―――現在この学校にて育つ生徒、歩鹿乃淳の物語である。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「いや〜あーちゃん災難だったね。戸部ちゃんの変な生徒の選び方ったらいつも違うパターンで予測できっこない」
淳と、淳あーちゃんと呼ぶ男、檜山総司は昼頃に存在する長い休み時間、購買部で買ったパン片手に校舎内に四つしかない自動販売機のすぐ側に設置されているベンチで雑談をしていた。
「本当、去年に早見先輩が半年掛けて情報を集めてさ、パーターン表を作ったんだって。でも、次の日には情報にない選び方されたって」
「何それおもしろ。戸部ちゃん美人でスタイルもいいのに、何でああ変な人なのか」
「天は戸部先生にルックスと変な性格の二物を与えたけど、それなら一つで良かった」
「言えてる、なんかそれ小説の一文みたいだし、目指しなさいな」
「嫌だね、俺は神崩しになんだから」
「はいはい、そんなあーちゃんに朗報! 会議室で聞き耳立ててたら、今度面白いことがあるって。聞きたい?」
「どれどれ、聞いてしんぜよう」
「うむ? そち、ものを聞く態度ではないの?」
口調の安定しない、如何にもな会話をこなしてから、檜山は一息溜めて言う。
「実はさ、今月中に抜き打ちで実技やるって」
「嘘、え、やば」
「だべ? 嘘だと思うじゃん? マジなんだなあそれが。本気と書いてマジ、本気本気と書いてマジマジね」
「先月もやったのに続けてって、アレって年に5回だけだよね?」
「そそ、だから教えてやろうと思ってさ、嬉しい?」
「お前最高」
狭間木高校での実技とは―――正式名称、心装実技のことを指し示しており、他校ならば文化祭などと同等な程に生徒の人気を博す行事である。
「今回こそ、俺先抜けすっから」
歩鹿乃淳は、静かに闘志を燃やす。
それは家の為か、国の為か、それとも―――自分の夢の為か。
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