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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お腹痛い

作者: ユズ

【1】お腹痛い



ピピピ。

時計が鳴る。この時から違和感に気づいていた。



「お腹痛い……」



朝起きて、開口一番がこれであった。



下へ降りると、母親がお弁当を作ってくれていた。

テーブルにはご飯と目玉焼きと味噌汁。

とてもではないが、この腹痛では食べられそうにない。



「お母さんおはよう……。ごめん、今日朝ごはん大丈夫」


「あら、どうしたの加奈」



お腹が痛い事を説明する。

母親はせっかく作ってくれた朝ごはんを食べない事となっても加奈を怒る事はしなかった。

学校休む? お薬飲む? と母親は優しかった。

いや大丈夫、その内治ると思うと言いお弁当を持って外へ出た。





「はぁ……何か変なもの食べたかな?」



昨日食べたものと言えばいつも通りであった。

いつも通りではないものと言えば、バイトの帰りに飲んだタピオカだろうか。

あまり消化によろしくないと聞いたことがある。きっとそれのせいだ。



「タピオカが嫌いになりそうだ」



吸う力が強くて、夜遅い静かな夜にズッッとでかい音が響いた。そのせいで、男の人に睨まれたのだ。

しかし、加奈は数日後にはまたタピオカを飲んでいる事だろう。

病院に行こうとしなかったのは、加奈はよく腹痛になるからだ。

緊張したり、慣れないものを食べたり、便秘だったり。

もはや加奈にとって腹痛は定期的に起こるし、すぐ治るもの。

あまり危惧はしていなかった。

どうせこの腹痛もすぐ治る。



「いただきまぁーす!」


「加奈……あんた朝お腹痛いって言ってなかった?」


「治ったんだもん。朝ごはん食べてなかったからお腹ペコペコで」



事実、お昼には腹痛は治っていた。

どうしようもない空腹に加奈はお弁当を誰よりも早く食べ終えた。

きっと朝ごはんも食べていないという事もあったのだろう。




ここ数週間、加奈は腹痛を繰り返した。

お腹、と言っても様々な場所があるが腸ではなく胃の方が痛い気がする。

しかしすぐ治るのだ。

治るが、治った後の飢餓感がすごいのだ。

とにかく、お腹が空く。空いて空いてたまらない。

その時の加奈はお米を1人で3合を余裕で平らげる。

心配となった母親はついに加奈を病院へ連れて行くこととした。



「だからこの後病院なんだよねー」


「うん、早めに行った方がよかったよ」


「何で行かなかったの?」


「だって病院嫌いだったんだもん」



カフェで談笑する、加奈達。

学校が定期テスト期間のため午前で終わったのだ。

母親がパートのため、病院は夕方から行くこととなっている。

その時間潰しに、友人に付き合ってもらったのだ。

美味しい紅茶とパスタを楽しんでいた。

パスタを頬張る加奈の手が唐突に止まる。



「どうしたの加奈?」


「……お腹痛い」



ズキズキと痛む。手で押さえる。

しかし痛みは加速していき、止む気配は一向に見せなかった。



「痛い痛い痛い痛い!!!!」


「加奈!? 大丈夫!?」



やがて、加奈は座る事も困難となり床へ落ちていく。

呼吸すら、痛みの原因となった。


「アッ!!! ギッッ!!!」



加奈は女の子の声帯から出たとは思えない叫びを発する。

もはや加奈に意識はほぼ失っていた。


「加奈!? 加奈!!」


「だっ、誰か救急車!!」



先ほどまで、賑わっていた店内は今や悲鳴が充満する。

友人達は加奈の背中をさすっていた。

加奈は泡を吹き始めた。



「ゴボッ。ォアゴボッ」



加奈の口が膨らむ。

まるで、何かが出てくるように。

かすかに、加奈の口の中から音が聞こえてきた。



「フギャ……フギャアアァァァァ……」


「ッ!? キャアアアアアアアアア!!」



近くにいた友人が叫ぶ。

加奈の口の中から、“何か”が出てきた。

ソイツは、頭が人間の赤ん坊のようで体がヤドカリのようであった。

大きさは拳ほど。

とてもではないが、この世にいる生物とは思えない。

ヌメヌメとした体液が全身についている。やがて、パチクリと目を開けた。



「ヒ……ヒィィ……!!」


「だ、誰か……!」



“何か”は、気を失っている加奈の方へ向かう。

そして、ニヤリと不気味な笑顔で加奈を脚でつつく。



「あり、がと。まま」



そして、友人の方へ向き直った。



「つぎ、の、まま」



1人の客が、その様子を見ていた。

得体のしれない“何か”が、1人の少女の口の中へ入っていくのを。
















【妖怪 スクイ(巣食い)】

頭が人間で、体がヤドカリの妖怪。

人間の胃に寄生し、成長していく。人間が食べたものを栄養としている。

ある一定まで成長すると自分の体の大きさに合いそうな人間へ移動していく。

人間は寄生された瞬間の記憶を無くしてしまう。

人間の食べられる量と、スクイが摂取しなければならない栄養がやがて比率が取れなくなり、スクイは大人になれず衰弱死する可能性が高い。



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