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異世界ニート魔術師  作者: そらりん
2/2

転生

ここはどこだ?


目を開けると、そこは異世界だった。


「え?ここどこ?」


そんなはずはない。おれは日本で毎日元気に過ごしていたはずだ。


おれの名前は、イトウケイタ。

16歳の男子高校生だ。


とは言うものの、学校にはここ半年は行っていない。理由は高校デビューしそこねたからだ。


中学まではクラスの端っこで一人寂しくご飯を食べているいやゆる陰キャラで、高校になったら一念発起して、生まれ変わってやろうと意気込んでいたが、


いざ新しいクラスに入ったとき、周りのあまりの華やかさに気圧され、開始1分で高校デビューを諦めたクチだ。


そう決めてから、学校に行かないようになるのも早く、気づいたら半年後にはすっかり引きこもりのニートになっていた。



大好きなゲームに明け暮れる毎日。部屋の明かりを消して、カーテンを締め切り、太陽を何よりも嫌うバンパイアのごとく、昼間は動かず、夜にゴソゴソと動き出す、典型的なクズ生活を送っていた。



それなりに充実していた生活だったのだが、なぜ気づいたら、異世界にいるのだろうか。ワクワクする気持ちもあるが、疑問のほうが大きい。



そのままうずくまって思い出そうとしていたら、たんだんとここにいる理由がわかってきた。



おれは死んだのだ。しかし、その死に方はとてもみんなに悲しまれるようなものではなかった。


普段運動もろくにしていないおれは、階段を踏み外してそのまま転げ落ちて、頭を打って死んだらしい。打ちどころが悪くて、そのままあの世行きということだ。



自分の死因を知っているというのも、妙な話だが、その理由は自分の横を見たらわかった。


となりには女の子がおれと同じように座っていた。


日本にいた頃によく見かけた洋服とはかけ離れた格好をしており、どちらかといったら浴衣や着物に近い、羽衣のようなヒラヒラとしていて、風が吹けばたなびくような、ゆるやかな服を着ている。



この人は女神だ。


それは可愛すぎる人を例える言い方の意味ではない。

職業だ。


現実世界で死んだ人を異世界へと案内する役目を果たしている、女神様だ。


その女神から死んだあとに出会い、死因を聞いたのだ。



死んだあとすぐのことは記憶にないが、気づいたら死んでいて、床も天井も真っ黒な空間に、椅子が2つだけおいてあり、一つにおれ、もう一つにいま横にいる女神様が座っていたのだ。



「ようこそ、イトウケイタさん。死後の世界へ。私の名前はマリア。あなたを導く女神です。」


突然目の前に現れた美少女はそう名乗った。


自分のことを女神と名乗るのは日本にいたときは、格別かわいいアイドルだけだったが、風貌と雰囲気が荘厳で、女神っぽいと感じたので、違和感を感じなかった。



「あなたは死んだのです。」


そう宣言された。


「え?おれは死んだんですか?」


たしか今日はいつもと変わらず、ゲームをやっていたはず。新しく発売された、ファンタジーゲームをいつものごとく進めていた。

少し目が疲れたから、散歩でもしようと思って、街を歩いた。そこまでしか覚えていない。それ以降の記憶がない。


「ええ。あなたは死んで死後のこの世界に来ました。」


ああ、なんてことだ。おれは死んだのか。

死んだのにこんな実感がないなんて。


あまりにも実感がなさすぎて、何度も生き返れるゲームの中で死んだかのようだ。


まるで今目の前に「Continue?」というドット文字が出てきてもおかしくないような感覚だ。


しかし、ここは現実。そんな思い通りの展開にはならない。


おれの期待を裏切るように、目の前の女神が口を開いた。


「あなたの現世での人生は終わりました。

あなたにはこれから天国へ向かう手続きをしてもらいます」


ああ、やっぱりもう終わりなのか。天国へ行くんだおれは。

地獄でないだけいいと捉えるべきだろうか。


まあ引きこもりでニートだったから世の中にいいことはしてないけど、


犯罪など悪いこともしていないから、地獄に落とされなかっただけよかったのだろう。



「でも天国というところはすごくつまらない場所なのですよ」


そう女神は続けた。


「肉体がないので何も食べる必要はないし、物体がそもそもありません。暇つぶししようにも本もゲームもないし、テレビもない。あなたの好きな美少女2次元嫁もいないし、あなたの欲望を満たしてくれるものは何一つないわ。ほんとうに何もない中で永遠に日向ぼっこでもしてるしかないの」


「ちょ、ちょっと!誰が2次元嫁が好きなんですか!そんなこと誰も言ってませんよ!たしかに現世では毎日2次元のキャラを追いかけて、現実にこんな完璧な人いないかななんて思いながら毎日ゲームに励んでいましたけども!」


「私は女神です。現世でのあなたの行動はずっと見ていましたよ。親が寝静まったこと確認した後、あなたが部屋にカギを締めてごそごそやりはじめたりしていたことも」


「あああああああああ!!わかりました!何もかもお見通しだということはわかりましたから、それ以上は言わないでください!」


くっ。なんだこの女神様。たしかに女神だから天から見守っていたくれたんだろうけど、そんな世界でおれしか知らないような秘密をこうもペラペラと本人を前に言ってくるなんて。


う、でも可愛いから許してしまう自分が情けない・・・。


女神ってこんなデリケートないのか?そう思っていたところだが、目の前の美少女が話をつづけた。


「とまあ、私の大好きな死者いじりはこのくらいにしといて。

はじめまして、イトウケイタさん。私の名前はクレア。若くして死んだあなたのような人間を導く、女神よ。

話を戻すけど、

あなたの性癖なんて興味ないけど、とにかくそんな天国なんて行きたくないわよね?ね?行きたくないわよね??」


「は、はい。できれば行きたくないです」


いちいち発言がイラっとすることは置いといて、一応返事をした。


「そんな死者がほんと多くて困っちゃって、私たちも考えたの。そこでもう一つ選択肢を作ったのよ。

それがもう一度人間の世界に転生させること!

でもあなたが生きていた現世の世界は規定が厳しくて、簡単に転生させることはできないの。記憶は消さないといけないし、また赤ん坊からやり直してもらわないといけないし。せっかく十数年生きた経験値をゼロにしないといけない。

だから私たち女神の上司である神様が遊びで作った異世界に記憶も容姿もそのままで送ってはどうかって話ができたの!


なんだろう。話のところどころにツッコミどころがあった気がするのだが。遊びで作ったって何。


「今気になることが聞こえたんですけど。遊びで作った異世界ってなに?」


「まあ神様は暇だから、異世界を遊びで作って、空から見ながらスナック菓子食べて眺めるのが趣味なのよ」


そんな暇つぶしのために、おれの第二の人生が使われてたまるか。


「あなたゲームは好きでしょ?」


その言葉にピクンと反応したおれの顔を見てニヤリとしたクレアは、その異世界の話を始めた。


要約すると、こんな話だった。


その異世界は最初は神様の暇つぶしで作った世界だったが、作った後現世の仕事が忙しくなってほったらかしていたら、いつの間にか魔王というのが出現して、その世界を支配しようとしていてピンチらしい。


自称平和主義の神様はめんどうごとなんてごめんだから、だれか魔王を討伐してくれないかなと考えたらしい。


それで現世で死んだ人を記憶も能力もそのままで送り込んで、討伐してもらおうということにしたという。


その異世界は現世ではやっていたRPGゲームをもとにつくったため、冒険者がいて、モンスターがいて、魔法もあるらしい。


だから、それに詳しいゲーマーやオタクの死者に特にすすめて送り込んでいるらしい。


クレアの話をまとめるとこんな感じだった。


つまりいわゆる異世界転生をしないかということだった。


「ね?いい話でしょ?」


ニコニコを顔を輝かせながら同意を求めてくる美少女が目の前にいるが、要は神様がほったらかしたせいで魔王がでてきちゃってこれ以上面倒なことになるのは困るからさっさと魔王をしばいてきてほしいというよくわからない依頼ということだ。


でもまあ、このまま現世でもう一回ゼロから転生するよりも、今のままで転生できるならいい話な気がしている。それに生きているときに思い描いていた異世界の生活がそのままできるってことじゃないか。


理不尽な要求なのに、ちょっと心躍っている自分がいるのが複雑な感情だ。


と、その前に一個聞きたいことが。


「えっと、一つ聞きたいんですけど、ぼくその異世界の言葉しゃべれるんですか?」


「その辺は問題ないわ。この転生には私たち女神のサポートオプションがついてくるの。異世界に行く際に、あなたの脳内のデータを少し書き換えることで、一瞬で習得できるようにするわ。もちろん文字も読めるようになるわよ。まあ副作用として、データ書き換えの際に、うっかり間違えて現世の記憶を消しちゃうこともまれにあるけど、まあ大丈夫よ」


「おい。今、重要なことが聞こえたんだが。うっかり間違えて、なんだって?」


「なんでもない」


「いやなんか言ったろ」


気づいたら女神なのにタメ口で口を聞いていたが、いろいろとおかしいこの女神ならもうこの扱いでいいだろうと思った。


・・・しかし、これはたしかに魅力的な提案だ。


どうせ死んでるんだし、もう一度人生ゼロからやり直すのもめんどくさい気持ちもある。天国なんてまっぴらごめんだ。

あの大好きなキャラと一緒に過ごせないなら、行く意味は・・・いやそうじゃなくて。


異世界という場所に行ってみたい気持ちはある。そんな場所を遊びで作ったという神様とやらの顔を一度拝んでやりたいところだが。


せっかく死んでもう一度やり直せるチャンスだ。次は楽しい人生を送りたい。そのために必要なのはなによりもかわいい美少女がとなりにいる生活!そして現世にいるときは出会えなかった美少女が今目の前にいる。ということは答えは一つ。


「わかった。その異世界にいくよ」


「ほんと?」


パアっと顔をあかるくさせる女神。


「でも条件がある。一つだけ好きなものを持って行ってもいいか?」


「ものによるけど、なにがほしいの?」


おれはすっと腕を伸ばして、人差し指を目の前の少女に向ける。


「あんた」


「?」


クレアはキョトンとした顔で立ち上がり、


「わかったわ。じゃあそのまま動かないでね。魔法陣が出て異世界に転生させるから・・・今なんて?」


立ち上がった瞬間、ハタと動きを止めた。


と、その時だった。


「承りました。イトウケイタさん。あなたの申し出を承諾します」


何もないところから、まぶしい白い光とともに、突然羽の生えた一人の美しい女性が現れた。


「・・・は?」


呆然として言葉も出てこないクレアとおれの足元に、白く光る魔法陣が現れた。


おお、ついにほんとうにおれは異世界へ行ってしまうのか?


「ちょ、え、なにこれ、え、え、ちょ、ちょっと待って。嘘よね?嘘よこんなの!私なんか悪いことした?おかしい!おかしいわよこれ!異世界に女神を連れていくなんて、いやいや、いやいやいやいや。あり得ない!夢だわ!夢よこんなの」


もう情緒不安定で何をいっているのかわからないクレアが涙目で慌てふためく。


先ほどまでの荘厳な女神のような雰囲気はどこへいったのか。


「待って待って!私の担当の仕事はどうするの?だれが代わりにやれるっていうのよ!」


「クレアさん、神様からの伝言です。最近クレアさんはサボりがちで、ノルマの半分も異世界に人を送れていないので、異世界追放だそうです」


「そんなっ・・・」


もうこの世の絶望だと言わんばかりに青ざめた女神さまは立ち上がる気力も失ったのか、ハタとその場で崩れ落ちた。


ああ、気の毒に、と思いながら、これからこのかわいい人と一緒に異世界を冒険できるのかと勝手に妄想しながらワクワクしていたおれは、


「はは。まあいいじゃないか女神様。おれと楽しい異世界生活送ろうぜ。おれはこれからの生活楽しみだよ?なんせとなりには女の子がいるんだし。現世で生きてるとき、おれになついてくるかわいい妹さえいればこんなやけっぱちに生きてなかったんだから。これからおれが思い描いた人生が始まるんだ。もっと楽しもうじゃないか」


「それはあんたの欲望でしょ!?あんたが送りたい生活でしょ?私はほしいものなんでも手に入るこの場所でのんびりお菓子食べてぐうたらな生活を送っていれば幸せだったのに!」


最低だな、こいつ。


「よりにもよってこんなニートと一緒に異世界行きだなんて最悪!どうせなら魔王を倒しそうなイケメンの勇者候補がよかったわ!そして勇者のひざもとでぬるく生きたかったわ!」


こいつ、一発殴ってやろうか。


「ふはははは。夜中一人でごそごそやってるような男に連れていかれるなんてどんな気分だ?あっちの世界ではせいぜいその女神パワーでおれを甘やかしてくれよ!」


「いやあああああああああああ!」


「さあ勇者よ!異世界に旅立ち、魔王を討伐してくることを期待しています。見事魔王を打ち取った暁には、あなたの望む願いを一つかなえて差し上げましょう!」


「おお!ほんとですか!なら、そのときにはとびっきりの美少女と使いきれないほどのお金をください!それで毎日自堕落な生活をしたいです!」


「あんたどんだけ欲望に忠実なのよおおおおおおおお!」


クレアが叫びながら、魔法陣に吸い込まれていく。そしておれも一緒にその中へ。


さあ、おれの第二の人生が始まる。心躍る冒険生活のはじまりだ!


魔法陣に吸い込まれ、目の前は真っ白になった。

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