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異世界(まほろば)に響け、オオカミの歌  作者: K33Limited
章の四 護解編
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077 プロローグ

 時は金なり。金は天下の回り物。金持ち喧嘩せず。地獄の沙汰も金次第。金の切れ目が縁の切れ目。いつまでもあると思うな親と金。

 世に金にまつわることわざの多かれど、こちとらかねがね金がねぇと来たもんだ。


「素寒貧だよ」

「阿呼もすっからかん」

「逆さに振っても鼻血も出ないぞー」


 帆桁に糸を掛け、自ら逆さ吊りになって見せた放谷が言うのだから間違いない。

 意気揚々と砂滑すなめり神社を出帆し、月ヶ瀬海道に沿って北上を続けた私たちは、途中寄港した護解岬もりとけみさきで物を投げるようにほっぽり出された。無論、お金のないが故にだ。

 犬神神社滞在の折、白狛しらげこまさんたちが用立ててくれた大金も、四ヵ月に亘る大嶋廻りですっかり使い果たしていた。その事実を気に留めていたのは、今になって思えば皀角子さいかち神社に至る道中の出端辺りまでだった。その後は目まぐるしく事が運び、財布の中身のことなどこれっぽちも頭になかったのだ。


「船賃を申し受けます」


 恭しく告げる砂滑衆を前に、如何程ですかと問いかけながら財布の紐を解いて蒼白。私は即座に隣の阿呼を見た。阿呼は私の視線を受け止めると、更に隣の放谷にパス。放谷は無理だろうとキラーパスの行方を見守る私。案の定、キラーパスはスルーパスになって、敢え無く無賃乗船が発覚したのだった。


「しかしまさか放り出されるとは……」

「海に投げ込まれないだけマシだったなー」


 それはそうだけども……。

 本来であれば船は護解の港で積み荷の揚げ降ろしをして、そのまま次の寄港先、伊佐へと向かう筈だった。その通りに行くのだろうと私たちの誰一人として疑いもしなかったのだ。


「てゆーか、ここってどこら辺? 阿呼分かる?」

「どこだろう。地図を見てみるね」


 地名は船員から聞かされたので分かっている。護解岬には護解の港に入る時間合わせに暫時係留し、船員が一息つくだけの予定だった。港と言ってもはしけは一つだけ。辺りには漁師が使う苫屋とまやが二つ三つ見えるばかり。人っ子一人いやしない。

 世知辛い世の中だ。

 てかさ? 私、皇大神だよ?

 向こうだってこっちが大嶋廻りの最中だってことは百も承知だ。その上でこう来るのだから処置なしと言う外はない。なんならツケで乗せてくれたっていいじゃないか。天地神明に誓って踏み倒しませんと起請文きしょうもんを書いたっていい。なんて、腐りたくもなってくる。


「こっちはまだ風があったかくなり始めの頃だなー。向こうから梅の香りがしてくるぞー」


 相変わらずの暢気さん。その気ままさに相乗りしてしまうのが吉だと分かってはいても、やはり釈然としない思いが胸にわだかまる。だってさ……。じゃあ神ってなんなのさ? 私だって別に仰々しく崇め奉られたい訳じゃない。でも、だからって、襟首掴まれてポイッと摘まみ出されたんじゃ情けないやら悔しいやらだよ。


「お姉ちゃん、地図だとここ。この先っぽの辺りよ」

「ん、どれどれ」


 久方振りに広げられた北大嶋の地図に目を落とす。縦にひょろ長い月ヶ瀬海道を煙突に見立てれば、その先から立ち昇る煙のように広がっているのが護解だ。他の地方と比べれば面積は狭い。東西に海岸線が走り、今私たちがいるのは西の海に面した岬。大きく海に突き出した鵞鳥がちょうくちばしのような形をしている。岬から護解の一宮である火取蛾本宮ひとりがほんみやまでは目測で一日ほどの距離だろう。一宮は渡人が築き上げた最初の街――江都ごうとの目と鼻の先にあった。


「江都まで行けばなんとかなるかな……」


 そんな呟きとは裏腹に、街へ行ったところで先立つものがないと頭痛を発する。いたたたた。どうしたものか。痛む頭を抱えてうんうん唸ってみても閃きはおろかマシな考えの一つも浮かんで来やしない。

 ここはあれだね。文殊の知恵に頼るべきだね。そう思い直して地図から顔を上げてみると、


「ねぇ、何か……あれ? 阿呼ー、放谷ー、どこー?」


 しかめっ面で地図と睨めっこしてる間に二人ともどこへ行ったのか、きょろきょろと見回せば、土手状の道の脇、些か急な坂下に何やら屈み込んで蠢く二人を発見した。


「ねー! そんなとこで何やってるのー!?」

「しばー!」

「しばー?」

「柴刈りー!」


 ほほう。柴刈りと申したか。なるほど分からん。

 一先ずは地図を丸めて、それを小脇に二人の元へと駆け付ける。浜風が潮と日向の香りを乗せて吹き抜けると、二人が山刀や小刃で刈ったのだろう柴が幾房か攫われて宙を流れて行った。


「なんで柴刈り?」

「それは放谷が」


 問えば阿呼を中継してパスは放谷へ。

 放谷は阿呼の輪違わちがいに収納していたのだろう、神庭こうにわの街で買った背負子しょいこに柴を蓄え、振り返っては得意気に指で鼻の下を擦って見せた。


「こいつをなー。あそこら辺に見える里浜へでも持って行けば幾らかにはなると思ってさー」

「えっ、柴って売れるの?」

「多分なー。こんなもんでも物と交換にはなるもんさー。金でって言って頼めば小銭くらいにはなるんじゃないかなー」


 おお、ブラボー! 素晴らしいよ放谷!

 さっきは暢気さんだなんて思ってごめんね! そうかそうか。仮にこの柴が売れなかったにしても、収入を得る方法をなにがしか考え出せばいいんだ。それに、街道へ出ればきっと水走で利用したような無人宿だってある。今晩辺りはそうした場所のお世話になって先々の事を考えればいいじゃないか。と、先刻まで無一文で路頭に迷う図ばかりを想い描いていたのが嘘のように先が開けた。


「さすが放谷、頼りになるぅ!」

「えっへっへー。まーなー」

「お姉ちゃん、早く里浜に行ってみようよ」

「おけまる! さあ出発進行だーっ」

「おー!」


 そんなこんなで浮き沈みも激しく予定もちぐはぐな珍道中。やれやれ幕が上がることと相成りました。さてはて、この先どうなることやら。

 万丈の山を越え、千尋の谷を渡り、艱難辛苦を乗り越えて、いざこそ出合えと勇ましく、斬った張ったの大冒険!! ……なんてことにはなりそうもないけれど、そこは一つ乞うご期待。ということで万端お引き立ての程、お頼み申しまする。まるっ!

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