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異世界(まほろば)に響け、オオカミの歌  作者: K33Limited
章の三 赤土編
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074 冬の関、錦の秋

 首刈の描いた幻想は序の段階で広範に大地の亀裂を覆い込み、目賢めがしこ姫と当頭つつめき姫が待機する岩棚も一面の菜の花畑に様変わりしていた。


「お見事」


 呟いた目賢姫は密林のごちゃまんとした景色の中でも、ほんの微かな動きすら見逃さない避役カメレオンの目を持つ神だ。その精密極まる目で見ても、目の前の幻想は現実との見分けがつかず、触れようとしてようやく幻である事実を悟るという、正に超越の域に達っした幻だった。


「影も匂いもまるで本物しびっ」

「あい。首刈様、星霊との交感は夜刀媛様以上」

「そこまでび?」

「一目瞭然。星霊の側が意を汲んでこそ、ここまでの幻想」

「むふー、凄過ぎるびびっ」


 目賢姫の見立てでは首刈と星霊のシンパシーは極限の域にあると言っていい。星霊は首刈が描きたいと思ったものを先回りして、微に入り細を穿った形で再現している。だが、それは何故なのか。

 星霊は共存相手の思いを反映するという特質がある。それが御業や加護、伝承といった様々をお伽噺に留めず、現実の事象に変えるのだ。中でも首刈が傑出した効果を顕す理由を考えた時、目賢姫には思い当たるものが一つしかなかった。それは歌だ。

 霊猫じゃこう神社で輪になって行った同調。そこから紡がれた異世界まほろば

 大して長くもない付き合いの神々を相手取り、首刈は個々の波長を音と認識して織り上げ、それを背景に歌を乗せて星霊を紡ぎ上げる。声は素早く広範に想いを届けるまたとない装置だ。そこに想いを込めたものが歌であるなら、星霊の感応が高まるのも頷けぬ話ではなかった。そして恐らくは、星霊は歌を好むのだ、ということ。

 例えば普段使いの御業で水を出す。心得のある者なら神でなくとも成せる簡単な御業だ。望んだ通りに水が出るだろう。しかし、ただそれだけだ。

 首刈の場合は異なる。単なる想像がそのままに再現されるのではない。再現された想像を星霊が補完することで、現実を凌ぐ精度の幻を見せている。そうとしか思えないのだ。人の想像など大抵愛妹なもので、毎日手にする道具であっても、頭の中に描けばどこかが欠けていて当たり前。それを星霊が補完するとしたら、情報集合体であるが故に完璧な形状、質感を再現するだろう。

 仮に首刈が歌いながら水を出したなら、過去口にした最高に美味しい水が再現されても不思議はない。歌に籠る思い次第で水の硬さ、柔らかさ、甘さ、苦さ、あらゆる要素がピタリと定まる。いつ、どこそこで口にした水。それを違わず表現することすら可能だ。

 その根幹は目賢姫には理解できないもので、首刈の前世が高度な情報化社会であったことに起因する。首刈の前世が過ごしたのは、情報の精度が重視され、現実ばかりでなく空想に根付いた情報すら事細かに記述、描写されている世界だ。例え首刈の前世が一般人に過ぎなかったとしても、まだ若い惑星である楓露に生まれたどの生命も、その想像力、情報構築の感性を凌駕することは不可能。正に及びもつかない領域なのだった。


「それにしても大丈びび? 夜刀様ったらび。首刈様を連れ戻すびって言って、実際にはことが進んでるしびびっ」

「あい」

「あい、じゃないでしびっ」


 当頭姫は岩棚の縁に連蝉つるせみを進めて谷を覗き込んだ。闇の払われた谷の遥か下方に黄金の鐘が輝いている。そして、両側の崖を結ぶ黄金が次第に延べ広がって谷を埋め尽くそうとしていた。


「目賢、当頭、急いで下りてらっしゃい!」

「しびびっ!? お呼びび?」

「あい。只今」


 夜刀の招きに面食らった当頭姫は、目賢姫の賺心裳すかしごろもが谷に躍り込むのを追って、転がるように縁から落ちた。ずんぐりとした連蝉つるせみは透ける翅を広げてバランスを取り、先行する賺心裳すかしごろもの横に付ける。


「夜刀媛様、どういうことでしび?」

「いいから急ぎなさい。もたもたとしていると首刈が黄金で谷を塞いでしまうわ。隙間を縫って下へ潜り込むのよ。こっちも手一杯だから、細かい部分は任せるわっ」

「あい」

「承知しましびっ」


 全く呑み込めないが、とにかく承知。そんな心持ちで先を急ぐ。

 見れば既に日照り雨は止んでいる。いや、止んだのではない。降る花弁に姿を変えて、金色の舞台に盛大な花吹雪を舞わせていた。その中を二領の兜鎧傀儡が真っ逆様に落ちて行く。向かう先は夜刀の言葉通り、僅かな隙間ばかりを残す黄金桟敷。


「閉じきったらどうするび?」

「まだ、薄い。突き抜ける」

「びびび~! そんなことしびっ、まほろびっ、こわしびびっ、ふーっ!!」


 当頭姫のテンションがうなぎのぼり。末尾に至っては新境地すら開拓している。


「あい? もう一度」

「だからっ、そんなことして異世界まほろばが壊れでもしたらどうするんですか!?」

「……ふつーに喋ってる」

「あっ……。しびびっ」

「今更感」


 目賢姫は素気無く言って、キャラ崩壊した当頭姫に取り合うこともせず、眼下隙間に飛び込んだ。

 直後、広がると思われた闇は見当たらず、振り仰げば頭上を塞ぐ黄金桟敷が幻光を放っていた。それは取りも直さず、首刈がどこまでも明るくと願った想起の賜物だろう。

 二領は幾分速度を抑えて降下を続けた。何しろ状況を知らされていないのだ。行けと言うからには何かあるのだろうが、見て、判断して、そこから更に行動へと移さなくてはならない。


「何か光ったび?」

「あい、御業」

「御業? 誰かいるしび?」

「降りる」


 揃いも揃って言語不調な二柱。おまけに派手な立ち回りも得意でない。そんなコンビが眼下に眩い閃光を目の当たりにして、互いの面皰めんぽうを見合わせた。


「あれ誰び?」

「目張様」


 首刈と共に夢時空で目張命と邂逅していた目賢姫は現況を即座に解析した。

 遥か下で巨大な鷲木兎わしみみずくが自在に舞い、これまた巨大な蟷螂かまきりの群を蹴散らしている。その立ち回りを阻害するかのように黒雷が噴き上げ、それをまた御業で打ち砕いて上へ抜かせまいとしている様子が見て取れた。


「状況把握」

「何がびびっ? どうするび?」

「支援する」


 楓露の使いとして顕現する目張命はかつて神として存在した頃と異なり、星霊由来の質が大幅に欠落している。どういう訳か今はふんだんに御業を駆使して防衛線を維持しているが、遠からず枯渇するであろうことは目に見えていた。


「合流して同調」

「それだけび? 加勢しないしび?」

「戦える?」

「蟷螂はともかく黒いのは無理でしびっ」

「なら不得手は無用。目張様に星霊を注いで後は任せる」

「びびっ」




 ***




 阿呼への憑依から抜けた目張命は同調の余韻が抜けきらぬ内にと、拝借した星霊で身を鎧って降下した。なんとしても異世界まほろばを脅かす存在を阻まねばならない。


移姿うつし


 白花しらはな色の髪の一筋一筋が羽根と化けて膨ら締まり、雪肌の白は柔らかな羽毛に、白絹の衣は翼と尾羽に形を変える。

 犀利さいりな目は浅紫あさむらさきの曳光を引いて目当てを捉え、明敏な耳には降る歌声が追い縋った。

 耳から入って幻を見せる魅歌すだまうた。それは再起と幸福を主題として目張命の神識たましいを高揚させた。更には同調の輪の中にいた一体感と相まって、目張命はかつて生きて存在していた頃の己を錯覚するかのような感覚の中にあった。


明昏あけぐれに、むつ花咲はなえみ冬神楽――。しかとも閉ざせ、六花ろっかの関!!」


 三六〇度、水平に打ち出された無数の羽根は散る初雪かざはな。広がれば露霜つゆじも掩蓋えんがいとなって落し蓋のように谷底へ。落ちた先で雲霞の如き蟷螂かまきりの群に触れるや否や、霜枯れの寒さに襲われた蟷螂たちは、かじかみながら落ちて行った。

 しかし天地逆しまに奔る黒雷は六花で組み上げた真冬の関を突き破って襲い来る。それを躱さず迎え撃つ覚悟で、目張命は新たな御業を紡ぐ。


「翼打ち、風はよしやとあまかけり――四方風運よもふりめぐり野分のわきの粧!」


 踊る言の葉に併せて翼に切られた大気が歌う。一陣の風、あかしまとどろきて、風の間に間から絢爛華麗が乱れ咲いた。

 くれなゐあかね猩々緋(しょうじょうひ)――。

 金茶きんちゃ照柿てりがき赤橙あかだいだい――。

 中黄ちゅうき藤黄とうおう黄支子きくちなし――。

 錦秋照覧――。赤から黄へと移ろう妙なる彩美が、猛然と吹き荒れる秋の嵐に身も世もなく煽られて、幾筋もの落葉旋風おちばつむじへと枝分かれしながら、堂々、黒雷を打ち砕かんと吹き下ろす。

 冬から秋へと遡って御業を紡ぐのは白守の常だ。今日、四陣風と呼ばれる目張命の娘たちも姉から順にそれぞれ冬、秋、夏、春を冠している。それはひとえに厳しい北地に根付く想い。若返りを期して捧げられる祈りだ。肉体は四季の移ろいに従いながら、魂はその逆を辿って瑞々しさを保ち続ける。冬長き白守にはそんな願いがあるのだった。


「困ったわ。もう息切れしてきちゃった」


 色めく紅葉の錐が黒雷を断ち割るように裂いて行く。その様を眺めながら、目張命は翼を弱めて乱れた息を整えた。しかしその肉体は星霊を拒む楓露を軸とした泛爾かりそめのもの。星霊回復の兆しは見えてこない。そこへ数で勝る黒雷が強靭に束ね合わせて牙を剥く。

 これを行かせてはならじ――。そうまなじりを決して目張命は翼に風を孕んだ。


天伝あまづたう、日にこそ光る白南風しらはえの、招く雷声はたたき、夏来にけらし――四方風運よもふりめぐり青嵐あおあらしの粧!」


 夏の風雷を招いて防ごうというのだが、燃費の悪さから早々にガス欠となってしまい、翼の先で燻り爆ぜた御業は煙の尾を引くばかり。


「どうしましょう。……夜っちゃ~ん!」


 如何にも情けない声を上げた拍子に、両脇へ落ちて来た影二つ。


「お担ぎしましびびっ!」

「直ぐ同調。あてくしの星霊を」


 右に左に落ちて来た兜鎧傀儡が、応も待たずに星霊を流し込む。それを目から鼻に抜ける応じ手で素早く捉えて、目張命は今一度、夏の嵐を解き放った。




 ***




「よしっ、間に合ったわね!」


 鏡に繰り広げられる戦いの行方を見て、夜刀は膝を打って頷いた。そして渦中にある元来の仕事へと意識を戻す。


「これで下は心配ないでしょう。阿呼にも知らせてあげなくては。で、残すは最後の仕上げだけよっ」


 発奮して頭上から大量の星霊を吸い下ろす。その手際は一瀉千里。淀みなく織り上げた星霊の一方を崖の幅寄せに回し、一方は黄金を増量せんとする首刈の糧として円環に送り込む。

 双方の供給と消費が安定すると、夜刀は風声通信を繋いで阿呼に下方の状況を報せた。


「ありがとうございます。もう大丈夫ってことですよね?」

「小さ神の補佐まであって、まなが後れを取るなんてことはないわ」

「よかった! 今の目張様は星霊との相性がよくないから、心配だったんです」

「その辺の事情はよくは分からないけれど、いずれにしろ鏡を通して状況は追っているから、貴女は自分の仕事に集中なさい」

「はいっ」


 素直で初々しい返事に口元を綻ばせて、夜刀もまた自らの役割に意を注いだ。




 ***




 風清く かがやくところ


 国のはて 世界の友に


 おお熱く 想いかよえと


 鐘は鳴る 平和の鐘に


 いまわれら 手をさし伸べて


 その睦み ここに歌わん



 三巡を歌い上げた合図についの鐘を響かせる。

 放谷が張り巡らせた黄金は私の震音ビブラートによって延べ尽くされ、皺一つない平らかな金色の絨毯と化していた。

 雨と降る黄色い花の下。前も後ろも見渡す限りの黄金大河。左右を見れば驚くほどに近付いた蔦の断崖。一粁以上離れていた崖が、両翼で円環を維持する段切丸つだきりまる剛礼号ごうらいごうの真後ろにそびえている。


「凄い……。放谷、ほら見て。谷がうんと狭くなってる。こんなのって信じられる?」

「おー、ほんとだー。さすが夜刀媛は八大の要だなー」


 鐘の音に洗われた谷に風が渡れば、薫る花弁はなびらに心は陶酔した。

 草木一本余さず愛しいこの世界。その愛しさを歌に溶かして、かつて穿たれた大地の傷を優しく覆い尽くすことはできただろうか。

 いや、まだだ――。

 今、不知火の足元から広がる黄金の河は谷底を隠す泛爾かりそめの覆いに過ぎない。ここに浮き彫りとなった心象絵画の世界に、唯一本物から引き出した黄金を、かつて知泥ちねを巨大化した要領で分厚く仕立て、狭まった谷を上へ下へと埋め尽くす。それによって初めて大地の金継ぎが完成するのだ。


「おーい、首刈ー。なんや、もう終いかー?」

「まーだだよ」


 かくれんぼのお返事よろしく軽く返して、それでも一息入れたい旨をみんなに伝えた。

 実際くったくた。ほとんどが借り物の星霊だったとはいえ。駆け出しの身で未曽有みぞうの規模に挑んだのだから当然の代償だ。けれどもそれは心地いい疲労感でもあった。

 目の前に体現した幻とは別に、歌いながら脳裏を掠めて行った景色たち。それは黒々とした原爆の雲。その影に苛まれながら尚、顔を上げ続けた広島の人たち。

 更地に路面電車が走り、雨後の筍のように建物が立ち並び、様々な生活音が戻って、巷陌ちまたには子供たちの笑い声が溢れた。

 同じくして傷付いた赤土の大地も、今を機に、幾千年の昔よりも遥かに生き生きとした姿で甦らせよう。そう願いを込めて、私は赤土の旅路をなぞりながら歌った。

 歌の届くところ、それが願いの届くところだと信じて――。


「ん? あれっ? 夜刀ちゃんは? 阿呼もいない。なんで!?」


 目を閉じてのんびり休憩していた私。目を開けたら夕星と千軽ちゃんは寄って来たのに、夜刀ちゃんと阿呼を乗せた二領はどこにも見当たらなかった。


「二人とも下に行ったみたいね。それに、歌の中頃に目賢姫と当頭姫も下りて行ったよ。見てなかった?」


 淡々とした言葉に記憶をめくり返してみる。

 目賢ちゃんと当頭姫さん? 歌の最中のことならこっちは没頭していて気付きようもない。けれど夜刀ちゃんと阿呼は終わりまでいた筈だ。同調した星霊は最後まで円環を流れていたのだから、その点は間違いない。何も言わずに姿を消したとなると緊急事態ではないのか。そう思う反面、傍で一息ついている二人を見るだに、そうでもないのかなという気にもなって来る。


「え、このままここに居ていい感じ?」

「えーやろ。なんや言われた訳でもなし」

「そーよ、ちょっとは休ませてよ」


 二人は兜鎧傀儡の胸部を開くと、足場となった胸甲に立ち、肩や首、腰まで回して節々の疲労を抜き始めた。私は放谷と顔を見合わせて、「まあいいか」と二人に倣うことにした。

 阿呼一人のことなら真っ先に追いかける場面だけれど、夜刀ちゃんも一緒に行ったと聞いて安心したこともあり、続く作業の為に疲れを癒す事を優先した。


「しっかし、よくもまぁやり遂せたわね。狭くなったとはいえ、ぴっちり谷を埋め尽くしたじゃない」

「なんとかなるもんだね。でも、まだまだ道半ばの上っ面だよ。これから敷き詰めた黄金を下は底まで上は縁まで分厚く仕立て上げるんだから」

「かーっ、そらまた難儀そうやなあ。なんも金でする必要ないんとちゃうか?」

「ある! 意味は大いにあるんだよ」

「……さよか。ならまぁえーけど」

「随分と威勢よく言い切ったわね。訳を聞かせてよ」


 その問いに私は少し間を置いた。

 意味はある。

 私は今一度、ここまで仕上げた景色を眺めて、形になった幻想と、歌に託した想いを重ね合わせてみた。

 

「こう、傷をね。隠すんじゃなしに、敢えて目に留まるようにして鮮やかに残すの。割れた大地の痛々しさは奇麗に拭い去って、けれども昔、ここで何が起きたのかはしっかりと縫い留める。そうやって戒めにするんだよ」


。広島の平和記念公園が憩いの場であると同時に、歴史の教訓を語り継ぐ場でもあるように。赤土を揺るがした大きな傷痕を奇麗にお化粧をして、この星の歴史に刻む。それが四千年の時を繕う私の金継ぎ。

 この世界を想うからこそ、怪我したことを忘れずに、二度と再び同じ怪我をしないように、目に見える形で残しておく。その価値は、幾世代も経た遠い未来にまで保たれて行くことだろう。


「ははー、そらえー考えや。キラキラ光る金なら誰の目にも留まるっちゅー訳やな」

「夜刀ちゃんは嫌がるでしょうね。見るたんびに思い出すことになるんだもの」

「それくらいが丁度いい薬だよ」

「そらそーや。こればっかりは猛省して貰わんとにはなぁ」

「まったくね。うちのお婆ちゃんも連れてこよっと。首刈も火群ほむら様を連れて来なさいよ」

「だね。そのうち会えたら引き摺ってでも連れて来るよ」


 黒歴史を築いた世代を引き合いにひとしきり笑うと、肩の凝りもほぐれて心身ともに回復の兆し。


「なー、この明るさって、もう異世界まほろばの明るさじゃなくないかー?」


 放谷につられて空を見上げれば、幾分か落ち着いて明からける空は薄雲の棚引く朝空。


「夜が明けたね。もう随分と白んで来た」

「そうね。ほら見て。谷の向こう、朝焼けが始まってるよ」


 夕星の指を追って谷間の狭い空に遠くを見渡すと、如何にも赤土らしくあけよりも尚濃い紅緋べにひが空の縁に映えていた。


「あ、星が流れた!」

「おー、また流れたぞー」


 赤々と染まり行く空に明けの星が流れると、胸に湧き出した詩情が溢れる言葉を紡ぎ始める。


「なんだかいい歌ができそう」


 呟けばありありと期待に輝く夕星の瞳。違うからね? 野飛の歌じゃないからね?

 でも、浮かび上がる景色の中には夕星の姿もしっかりある。一緒に旅をして来た赤土の、色んな意味で忘れ得ぬ日めくりの場面たち――。

 耳元で囁く風にメロディーを探りながら、私は大きく伸びを打った。快絶至極。放谷が人の姿で伸びを打ちたがるのがよく分かる。張り詰めた肉体からは疲労が追い立てられて、弛緩した隙間に血流と、核から溢れた星霊とが染み込んで行く。


「さあ、阿呼たちが戻って来たら、いよいよ大詰めだよ。もうひと踏ん張り、頑張ろう!」

「おー!」


 一斉の掛け声に風が応えて、獣の耳と尻尾を靡かせて行った。

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