003 いってきますの歌
某所にて――。
「新たに皇大神が立ったようよ」
「そのようですね。どうします? 北風姉さん。また西風たち四陣風で見先守に立ちますか?」
「そうね。南風、貴女はどう思う?」
「あたし? 別にいいよ。夏が終われば暇になるし。東風なんかもっと暇でしょ?」
「私が暇とか勝手に決めないでくれるぅ? でもまあ当代がどんな娘かは興味あるかも」
「ほら暇なんじゃん」
「うるさいっ」
「喧嘩は止めなさい。特に反対意見もないようなら交代で様子を見守ることにしましょう。それでいいわね?」
「承知しました」
「はいはい」
「おっけーでーす」
高い屋根の梁組みから四方に吊られた止まり木。そこにそれぞれ大梟、木兎、島梟、木葉木菟が頷き合って軽く翼を羽搏かせた。
***
秋の気配を感じるには些か早い晩夏の候。
あの夜。茅の輪を潜って以来、私は長床を離れ、お母さんと妹の阿呼と境内の奥まった一角にある、隠された庵で過ごしていた。
三兄弟はというと、あの晩の翌日にお父さんに連れられ、それぞれの役割を担う場所へと移ってしまった。
庵には人として暮らす為の家財道具、諸々の生活必需品、食料品に至るまで一通りが揃っていて、前世が人である私から見ても、取り立てて不便はしなかった。
私たち姉妹はここで、お母さんから様々な事柄を教わりながら早一ヶ月を過ごした。
地理や歴史のお勉強。
お料理やお掃除といった暮らし向きのこと。
中でも重要なのは、私たちが暮らすこの世界の成り立ち。この星の礎とも言える星霊の物語。
私たちが暮らすこの世界は楓露と呼ばれる惑星なのだそう。
楓露とは森と風と虫(生命)、そして雨と路(文明)を表す言葉で、かつて私があの宇宙で目の当たりにした、超弩級鳥居の神額に刻まれていた文字でもあった。
私たちは惑星楓露の大嶋と呼ばれる地の中心にいる。詰まるところ、私は日本どころか地球ですらない星に、狼=大神として生まれ変わったのだ。
私、神さまだった!
さて。大嶋はその名に嶋と付きながらその実、歴とした大陸で、ざっと九つの地域に区分される。全貌はアメリカ大陸に似て、南北は月ヶ瀬海道と呼ばれるくびれ地域によって繋がっていた。
今私がいるのは北米に相当する地域。中でも海と隔絶された中心部の真神。
真神を取り囲む七つの地域と、くびれの南にある一地域には、境内の八つの摂社に見かけた神額の文字が当て嵌まる。即ち「水走」「護解」「青海」「赤土」「野飛」「風渡」「黒鉄」「白守」。
これら八つの地域には、それぞれ八大神と呼ばれる古来の神々を祀った一宮が置かれている。まぁ、私の方が位は高いんだけどね。ほんと不思議だよね。どなたか代わって頂けるなら私は一向に構わないんですけどね。
で、お次は星霊。
惑星楓露の万物には星霊というものが宿っている。星霊は元々、別の惑星で誕生し、やがてその星が死ぬと広大な宇宙に投げ出された。星霊は気の遠くなるような時を経て、異なる銀河の生存可能圏に到達し、新たな惑星に宿った。そしてその星が終焉を迎えれば再び別の銀河へ。そうして辿り着いたのが惑星楓露だ。
万物に同化浸透する星霊は神々の間では微細なウイルスのようなものと考えられている。また星霊には大別すると二つの本能があって、それが共存共栄と情報の集積。
星霊は宿り先が生物であれば共存共栄の為に宿主の意を汲もうとする。一方で宿主の思考、行動、変質や変遷など様々な面から情報を集積する。蓄えた情報は星霊という種全体が共有する、謂わば集合知となり、そのことは取りも直さず、星霊が超個体として複数の惑星の膨大な情報を抱えている事実を示していた。
今から遡ること一万五千年前。
人類誕生前の楓露に流星に乗ってやって来た星霊は、真神に墜ちて楓露中に広まって行った。星霊は楓露のありとあらゆる存在と融合し、莫大な情報を基にして住環境を整えた。
星霊は最初に、大嶋に九つの宮社を建て、鳥や獣に人の姿を与えて住まわせたという。それが楓露に於ける神々の系譜の始まりだ。
獣の特徴を持つ人形は今日では始祖人類と定義されている。彼らは自らの種をトーテムとし、最も力ある同族を主祭神として祀り上げた。主祭神の親兄弟は族神として宮社の中核を担い、縁戚は従神としてこれに倣った。遠い血筋は宮守衆としてトーテムを支え、更に遠くなると獣のままに、眷属としてトーテムの庇護を受けた。
やがて、大嶋各地に様々な生き物を祀る宮社が造営されて行くと、トーテム信仰は楓露全土に広まって、今では数多のトーテムが乱立している。
時を経て楓露に人類が誕生すると、トーテム信仰は人類の無軌道な発展を抑制する役割を果たし、人類は星霊の思惑に沿って自然とともに共存共栄の歩み始めた。始祖人類の中でも取り分け宮守衆は広く人類と交雑したという。
「阿呼たちの中にも星霊さんがいるの?」
大きな木桶風呂の中で、お母さんに抱かれた阿呼は嘶く声で尋ねた。お母さんは「そうよ」と妹の頭を優しく撫で、もう片方の掌に湯船の湯を掬い取る。
「阿呼の中にも、このお湯の中にも、あらゆるものの中に星霊は宿っているの」
差し向かいに湯船に浸かっていた私も両手にお湯を掬ってみた。
今このお湯を適温に保っているのは星霊だ。薪をくべて温めているのではなく、お母さんが星霊に働きかけてしていることで、トーテム信仰の中では、それらの現象を御業と呼んで神聖視している。
神のように星霊との親和性が高い存在は、体内に宿る星霊や周囲の星霊に働きかけることで様々な現象を引き出せる。つまり、私や阿呼にも御業を使いこなすだけの素養、資質があるということだ。
それは例えば、私が実体験として狼から人の姿になったように、世の摩訶不思議を操れるということ――。まあ今はまだ何もできませんけどね、はい。
「星霊かぁ……」
手の中のお湯を見つめながら、独り言ちる。そういう世界なんだなぁ、と思いながらも今一つピンと来ないでいると、お母さんから声がかかった。
「どうかしたかしら? 首刈」
見れば凛と耳を立てて、そこから流れるような乳色の髪が湯船の中で揺れている。相変わらずお美しい。
ちなみに、幸いなことに私も醜いアヒルの子ではなかった。この庵に移ってから鏡を見る機会があったので、熱心に観察したところ、地味目だった前世より遥かに美人だということが分かった。
青味のあるもっさりした鼠色の髪。
くっきり太目の眉毛。
エメラルドに輝く奇麗な瞳。これは特にお気に入り。
顔立ちも中々に整っていて、とにもかくにも一安心。
「お母さん」
「なぁに?」
柔らかく包み込むような受け答えからは、あの夜の厳かさは感じられない。ここひと月のお母さんはお勉強の時を除けば底抜けに優しかった。ほんと大好き。
「私、全然星霊の御業が使えないんだけど、本当に大丈夫かな?」
困り眉を作って上目使いに窺えば、お母さんの白魚のような手が伸びて頭を撫でてくれた。時折、耳に触れてこそばゆい。
「そんなに心配しなくても平気よ。お母さんの時もそう。最初は誰もが似たようものよ」
「そうなの?」
「そうよ。寧ろ首刈は色々と理解が早い方だわ。星霊の御業も、遠からず扱えるようになるでしょう」
お母さんはそう言って、焦らなくてもいいのよ、と私の鼻先に指をそっと当てた。
前世が人間だから家向きのことは教わるまでもない。勉強も大抵の字が読めたので覚えは早い。となると気になるのはやはり、星霊絡みのあれこれだ。肩書ばかり立派で実際はまだ何もできないというもどかしさ。それを優しく絆されて、私は耳をピコッと動かし、少しはにかんだ笑みを返した。
「お姉ちゃん、ずいずいしよっ」
お母さんの手を離れて阿呼が寄ってくる。ずいずい、とは「ずいずいずっころばし」のこと。
私は手隙の時間には阿呼と歌を歌って過ごしていた。歌うことの喜びは取りも直さず、人の姿を得た私にとって一番のもの。
私が耳慣れない歌を次々歌うことを、きっとお母さんは不思議に思っているだろう。疑うような気持ちもあるかもしれない。けれど、お母さんはそのことについては何も言わなかった。私にしても歌を我慢することなど無理な話で、例え追及を受けたとしても歌い続けたに違いない。
「お姉ちゃん、はやく」
見れば、阿呼は両手に筒を作って臨戦態勢。私も早速片手に筒を作り、もう片方は指を立てて、お母さんが見守る中、小気味よく節を回して妹と手遊び歌を楽しんだ。
ずいずいずっころばし ごまみそずい
茶壺に追われて とっぴんしゃん
抜けたらどんどこしょ
俵のねずみが 米食ってちゅう
ちゅうちゅうちゅう
おっとさんがよんでも おっかさんがよんでも
行きっこなしよ
井戸のまわりで お茶碗欠いたのだぁれ
お風呂上がりの真っ新な体に浴衣を羽織って残り湯を吸わせる。次に浴衣を脱いで着慣れた水干を纏う。袖は夏向きに半ばで結い留めてあって動きやすい。
私は阿呼と小庭に面した縁側へ向かい、湯浴みの前に揃えておいた品々を確かめた。
雑木の杖に竹の水筒。脚絆に足半の草鞋。夜用の袿と懸け帯。刃体五糎ほどの雑事用の小刃。それから矢立とお勉強に使った帳面。
見ての通りの旅支度。私たち姉妹はこれから旅に出る。
唐突に思うかも知れない。けれど、お母さんも、代々の皇大神も行った仕来たりなのだそう。
大嶋廻り。それは八大神の訪問を始め、八つの地方を巡る長旅だ。自分がどんな神様になりたいかを見つける為の旅だという。この旅を通じて、私と阿呼も、肩書だけの神様から成長して行くのだ。
「お姉ちゃん、支度できた?」
「うん、できた。阿呼は?」
「阿呼はねー」
縁側を離れた阿呼は軽い足取りで座敷を横切った。
「このお笠かぶってく!」
嬉しそうに捧げ持ったのは市女笠。それをひょいと頭に乗せ、縁に下がる枲の垂衣を整え始めた。妹のご機嫌そうな姿に私の目尻は急降下。そこへお母さんがやってきて、竹皮包みのお弁当を手渡してくれた。今日のお昼はなんだろな?
「首刈、阿呼。これを」
お母さんは袂から腕輪ほどの小さな茅の輪を取って差し出した。とても細かく丁寧に編まれている。お守りだろうか。
「これは?」
「道中、それを使って道結の練習をなさい。道結ができれば色々と便利ですからね」
道結というのは茅の輪と茅の輪の間に道を通す御業だ。それが使えるようになれば遠く離れた場所を行き来できる。この小さな茅の輪を通るのは無理でも、道を結ぶ練習には使えるということだろう。
「ありがとう、お母さん。毎日練習するね」
「阿呼も! お母さんありがとう」
姉妹で揃ってきちんとお礼。お母さんはそんな私たちの頭を撫でると、腰を落として腕に抱き寄せた。湯上りのお母さんから漂う、甘やかな香りが鼻腔をくすぐった。
「首刈。ここで学んだことはほんの一握り。これから学ぶことこそ大事ですよ」
「はい、お母さん」
「阿呼。首刈はいつでも貴女を助けてくれるでしょう。いいですか、貴女も首刈を助けるのですよ」
「はいっ、お母さん」
お母さんはその細い腕に一層強く、旅立つ娘を掻き抱いた。
***
私と阿呼は御祖神に旅立ちの御挨拶をする為、長床前に立っていた。御祖神というのは皇大神を始めとする代々の真神の神々、要はご先祖様たちだ。
長床は私たちが狼の姿で暮らしていた頃とはすっかり変わっていた。先代皇大神であるお母さんの子育て期間が終わり、本来の姿に戻されたのだ。
何もなかった板敷の中央には白木の祭壇が組まれ、その手前に漆塗りの雲脚台が赤黒交互に並んでいる。それらには鏡、飾太刀、玉、扇、様々な装具や楽器など、綺羅綺羅しい宝物が飾られていた。
寄棟造の落し掛に差し渡した竿からは色とりどりの夏色の布が垂れ下がり、ゆらゆらと風に靡いている。私たちが過ごしていた頃にそんなものがあれば、引っ掻き回してボロボロに引き裂いていたに違いない。無骨で力強い印象だったかつての住処は優美な清浄さに包まれていた。
「あ、お母さん来たよ。阿呼、ちゃんとしよ」
「はいっ」
私は休めの姿勢を正すと、阿呼と手を繋いで正面を見据えた。
お母さんは祭壇の前で裾を軽く翻し、私たちに正対した。お母さんが目を伏せると、左右に垂れ下がる若苗の緑と卯の花の白が、大風を受けたように波打ってはためき、その姿をすっぽりと覆い隠してしまった。
やがて乱れた布が元の通りに収まると、再び姿を現したお母さんはこの世の清麗さを全て集めたかのような、白だけを重ねた裙帯比礼の物具装束に身を包んでいた。
「わぁー、きれいきれい! ね、お姉ちゃん。お母さん、とってもきれいね!」
文字通りおっ魂消ていた私を、阿呼の素直な歓声が引き戻す。目を瞠る光景の中心に、確かに神が存在した。
お母さんは静々と膝を折って佇まいを直し、未だ嬉々としている阿呼に一つ目配せをして、そっと唇に人差し指を当てた。はい、静かにしましょうね。
「大嶋治真神首刈皇大神」
お母さんの滑らかに歌うような声が、風に乗って姉妹の間をすり抜けた。
「真神下照阿呼比売命」
神名を告げられて身が引き締まると同時に、私は少々居心地が悪くなった。
首刈――その名の響きはとても気に入っているのだけれど、文字に起こして見せられた時には余りのショックに昂然と抗議したものだ。女の子に首を刈るという字面は如何なものかと。勿論、お母さんは持ち前の柔らかな笑みで優しく受け流してくれました。ひどい。
「これより広く大嶋を廻るに当たり、二柱の女神より、御祖への御挨拶を」
続く言葉に脱線した思考を引き戻して、気持ちの舵を取り直す。
事前に挨拶は自由にしていいと言われていたので、あれやこれやと考えて決めた内容を実行しようと、私は一歩前に出て折り目正しく一礼した。
それから体の力を抜くように深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
「歌います」
お母さんの片眉が僅かに上ずる。けれども、その瞳を覗き込めば、微笑んでいるのは明らかだ。私が日々、歌を歌って過ごしたてきたのを思い返して、案の定とでも思っているのかもしれない。
阿呼と遊びながら歌える歌。知らなくても直ぐ覚えられる歌。やっぱり人生には歌がなくちゃだよね。
「いってきますの歌」
タイトルを口にして、頭の中にイントロを流しながら調子を取る。それからそっと瞼を降ろして、この日の為に作ったオリジナルの歌を歌い始めた。
さあ 歩きだそう いざ この道を
野原を踏みわけて 谷を下ろう
君とともにゆけば どんな道でも
夢の帆が広がる 追い風が吹く
嗚呼 暁の空 星降る夜も
つないだ手をぎゅっと 結んでゆこう
インタールードに入って私は瞼を開いた。間を繋ぐようにさやめく梢を見上げれば、まるで季節を巻き戻したかのように瑞々しい新緑の輝きが揺らめいている。そんな筈はないのだけれど、目を落とせば足元の草も、若々しく萌え立つように感じられた。
(いい感じ――)
胸の中のメトロノームを爪先に刻みつつ、緑の世界から舞い戻ってきたメロディーを再び唇に捉える。
大きく踏みだせば ちからが湧いて
ふり返ることなく 旅は続くよ
君と笑いあえば 無敵のこころ
暗い闇はきえた 月光のした
嗚呼 茜さす空 凍てつく夜も
つむぐ歌はきっと 虹のはてまで
歌い終えて一呼吸。どうですかー? と上目遣いに様子を窺えば、お母さんは努めて無表情でいて、その実、口元には柔和なアルカイックスマイルを湛えていた。やったね!
阿呼からも惜しみない拍手。歌詞の「君」が阿呼自身であることは分かって貰えただろうか。これから先、いつ終わるとも知れない二人の旅路。どんな時も支え合って、励まし合って行いこうねと、心の中で呟く。
勿論、近頃は中々会えない三兄弟のこともちゃんと歌に織り交ぜた。大牙はちょっと苦しかったけどね。え? お父さんとお母さん? その内また作るから……。
「とても素敵な歌ね」
お褒めの言葉を頂いた。お母さんは前世の母と違って開けっ広げに感情を表すことはしないけれど、私が歌に込めた気持ちは伝わったようで、それが嬉しかった。
「ありがとうございますっ」
素直にお礼の言葉を述べて、元の位置へ。
「それでは阿呼」
「はいっ」
入れ替わりに阿呼が前に進み出て、可愛らしい仕草で威儀を正す。そして、元気な声で一言。
「いってきます!」
まぁ旅立ちの挨拶だからその一言で済むっちゃ済むよね。わざわざ歌にしたお姉ちゃんがズレてるんだ。お母さんも「よくできました」って言ってるし問題ないことこの上ない。
意気揚々と元の位置に戻った妹を横目で見やり、私は無事、挨拶を終えたことでホッと胸を撫で下ろした。
お母さんはしばらく無言のままに私たちを見つめていた。小鳥たちの囀りが浮いた間を繋いでくれる。
本心を言えば、もっとずっと一緒に過ごしていたい。けれども私はどうやらこの星のどえらい神様なので、そうそう我儘も言っていられない。
「それでは二人とも、気を付けて行くのですよ」
鳥の音の間隙にお母さんの言葉が放られる。私は胸を刺す切なさを抑えて元気に返事をした。
「はいっ、お母さんも元気でね。お父さんたちにもよろしくね」
「ええ」
「お父さんたちには会えないの?」
阿呼の言葉に胸がチクリとした。私はお姉ちゃんだからまだしも、長い旅になるのだから、一目くらいは会わせてあげたいなと。
「道結を覚えたならいつでも顔を見せに来なさい。皆、待っていますよ」
お母さんの言葉は、微かに揺らいだ私の心の添え木になってくれた。確かに道結を覚えればどれほどの距離があろうと、それを越えて会いに来ることができる。阿呼も明るい顔で頷いた。
「それじゃあ阿呼、行こうか」
「うん」
「お母さん、行ってきます」
「いってきまーす」
お母さんは、ただ頷いて送り出す。
私は阿呼に市女笠をかぶせると、その手を取って南へ、大鳥居の方へと歩き出した。