016 南風さん現る
午前中一杯を買い物に費やして、荷物を置きにレブの店に戻った私たちは、その足でまた街に舞い戻った。帰りがけに覗いた小路の先に鎮守の杜が見えたのだ。これは挨拶しておかなくては、ということで、今私たちはその小路を杜へ向かって歩いていた。
ちなみに放谷は買いたてのセーラーに着替えさせた。麻のセーラーは亜麻色のモノトーンで、カラーや袖口の色変わりはない。リボンやタイもなくて紐で胸元を閉じるタイプ。ボトムはいわゆる半ズボン。そこに編み上げのサンダルを履けば、見るからに動きやすそうで、本人も満足の行った様子。
「新しい服で身ざっばりしたでしょ?」
「まーなー。色も肌や髪に合うし、目立たなくて気に入ったー」
迷彩の話をしてる訳じゃないけどね。
「放谷、とっても似合ってる」
「そおかなぁ? へへっ」
足取り軽く進んで行けば、小路の先に連なる軒はどれも普通の民家。二つの街道に挟まれた区画が居住区で、通り表が店屋街という訳だ。石組の溝には生活用水だろう、奇麗な水が流れていた。
燕がスイーッ、スイーッと軒と軒を繋ぐように渡って行く。雛も巣立って久しいこの時期に忙しくしているのは、ひょっとしたら越冬燕だからだろうか。私は、黒い黒いと思っていた燕の青さに驚きながら、そんなとりとめもないことを考えていた。
「やっぱり大きな街ね。たくさん人が住んでそう」
「家だらけだなー。風合谷を出てった奴らもいるのかなー」
「どうなんだろう。子孫がいてもおかしくはなんじゃない?」
話しながら歩いていると時折出入りする住民たち。それが渡人ならべったりと貼り付く例の視線。嶋人ならな軽くお辞儀をしてまた引っ込む。いずれも耳や尻尾を見ての反応だ。
「放谷はいいね。見た感じ蜘蛛っぽい特徴が何処にも出てない。私も耳と尻尾を引っ込めたいよ」
「阿呼もー」
「まー、しばらくは犬神衆の振りしてるのがいーんじゃないかー? 多分、渡人のあの様子じゃー、皇大神だの大嶋廻りだのと言い出したら騒ぎになるぞー」
ほんとだよ。と恨めしく頭上の耳を摘まんでみる。放谷にも獣の特徴はあるのだけど、尾骶骨の辺りの出糸突起はお風呂にでも入らなければ気付きようもないし、側頭部にある二つ並びの単眼も髪の毛に隠れて目立たない。
「鳥居が二つ並んでる。真神三社と芽喰神社よ」
珍しい造りだな、と杜の奥を窺うと、二つの鳥居から始まって離れて行く道筋は、真神三社側は色付く銀杏が目立ち、芽喰神社側は常緑樹が多い。
私たちはここが水走だということで、先に蛇トーテムの摂社である芽喰神社にお参りをした。
「このお社をきちんと浄めておけば、あの大蛇も人を襲わないってことか」
「蛇の神様が街の人にそう言って、大蛇さんにも言い聞かせてるのね」
「それだけじゃないぞー。ちゃんと祀れば祟らない。要は大蛇を蛇神の祟りと見立てた伝承なのさー。人がそう信じてるから、そこに星霊が作用するんだー」
「なるほどね。そう考えると、うっかり退治しちゃわないでよかった訳だ」
「まー、こっちがうっかり呑み込まれるところだったけどなー」
「そうよ。お姉ちゃんたら急に向かって行くんだもん、阿呼びっくりしちゃった」
「はーい。反省してまーす」
なおざりに言ってお次は真神三社へ。鳥居には戻らず藪の小道を抜けると、直ぐの所に三つのお社が並んでいた。芽喰神社もそうだけど、摂社とは名ばかりの大きさで、どれも一間流造。それが仲良く三つ並んでいる。
「茅の輪はないんだね」
「摂社はなー。分社や分宮にはあるもんだけどー」
「ここは水走なのに、ちゃんと真神も祀ってくれてる。なんだか嬉しいね」
「そうだね。ここは水走って言っても真神の入り口みたいなものだから、随分と奇麗にしてくれてる」
昨日の雨に洗われた杜は輝いて、注がれる午後の葉漏れ陽が心地いい。順番にお参りしようと真ん中の真神社に近付いた私は、ふと首を捻った。祀られてる側の私がお参りするってなんだか矛盾していやしませんか?
「ねぇ放谷」
「どーしたー?」
「自分が祀られてるお社にお参りってする?」
「え? したことないなー。するもんなのかー?」
「いや、私も分かんないんだけどさ」
「お姉ちゃん。私たちは神様だから、どんなお宮にもお社にもお参りはしないのよ」
「えっ、そーなの? 私そんなの教わってないよ?」
「阿呼はお母さんに聞いたことある」
まじか。そんなに居眠りばっかりしてた覚えはないけど……。でも待って。今さっき二人だって芽喰神社にお参りしてたよね。何か私のお参りと違うのかな?
「えっと、じゃあどうするの?」
「自分のお宮以外なら御挨拶だけしておしまい。自分のお宮には星霊を添えるの」
「星霊を添える?」
疑問に感じて問いかければ、阿呼は真ん中の真神社に近付いて手を触れた。
他の社に関しては問題ない。前世以来、私の御参りは神様に御挨拶をするだけのものだからね。無論、形は大切だから二礼二拍一礼はきちんとやる。
私は半ば安堵しつつ、阿呼の様子をじっと眺めた。目を閉じて、階の手摺に触れていた阿呼は、やがてその手を放して振り向いた。
「こうやって触るだけでいいんだって」
「ほー、ならあたいはこっちにー」
放谷が隣りの蜘蛛社に触れる。
私も二人に倣って真神社に触れてみたものの、取り立ててどうということもない。気のせい程度に掌から星霊が流れ出たような感じはしたけれど。
「本当にこんなのでいいの?」
「……多分」
さも疑わしげに聞いたせいだろう。阿呼はちょっと自信なさげに返した。私はもう少し気持ちを込めてやってみようと、再び瞼を閉じた。
集中し、掌から星霊を送り込むイメージを強く念じる。道結で茅の輪に星霊を流す感覚を真似る要領だ。十数秒念じてみて「どうですかー?」と片眼を開ければ――。
「何も起こらないね」
辺りはしんとしていた。ならばもう一回、と三度瞼を閉じたところでその人は現れた。
「はい、そこまでー」
突然の声に驚いて振り仰ぐと、流造の屋根の上に一羽の梟が留まっていた。風合谷の闇夜に垣間見た木兎や、宿の小屋根に転がった木葉木菟よりも大きな島梟だ。
「え? 今、喋った? 喋ったよね?」
面喰って二、三歩後退りする間に、今度はその島梟がドロン! 人の姿に反化した。
二度驚いて目を瞬けば、そこには飾り気のない白のワンピドレスを着た、見ず知らずのお姉さん。中々にスタイルのよろしい奇麗なお姉さんは、屋根の天辺に横たわる大棟に腰掛けて続けた。
「あんまり沢山注ぐと逆効果なんだよねー」
目を瞠る美人なのに座り方も喋り方もだらしがない。肩口まである薄紅梅の髪に垂れ気味の耳羽を乗せて、額の真上に括った独特の鶏冠髪が揺れていた。
「誰だおまえー」
放谷がお姉さんと私たち姉妹の間を割るように前へ出た。
「あたし? あたしはそー、なんて言うのかな。通りすがりのホニャララ的な?」
ホニャララと来た。一気にうさん臭くなったなと思いつつ、引っかかった言葉の意味を問いかける。
「逆効果って何がですか?」
お姉さんは二ヘラと笑って、また鶏冠髪を揺らした。笑い方ももうちょっと考えないと折角の美人顔が勿体ないと思う。
「それ、神庭の鎮守だからさぁ。ここらで狼を信仰してる人を元気にはしてくれるけど、一度にやり過ぎると血逆上せちゃうよ。特に女は血の道が狂っちゃったら大変でしょ?」
血の道とは月経のことだろう。確かにそれが本当なら大変だ。しかし一体、このお姉さんは何者なんだろうか。
「あの、私結構気合い入れてやっちゃったんですけど、大丈夫でしょうか?」
おずおずと私。
「うん、一発くらいはご愛敬じゃない?」
ケセラセラとお姉さん。
「そうですか。それで、お姉さんは何処の何方ですか?」
「通りすがりのイイ女だよーん」
キラッとした歯列も輝く爽やかな笑顔だけに、誤魔化しに使われて少々イラッとくる。
「そうですか。私は大宮の九代、大嶋治真神首刈皇大神ですけど」
お姉さんの作り笑いに縦線が入った。
最高神が神名を名乗れば効果はあるかな、と軽く脅かす心算で口にしたのだけれど、効果はあったみたい。
お姉さんは困ったような、怒ったような複雑な顔をして硬直することしばし。やおら眼前に降り立ち、片膝を付いて首を垂れた。
「そのように威を込めて神名を名乗ってはいけません、皇大神よ。こちらの真心を仇で返すようななさり様だとは思われませんか?」
うわ、怒ってる怒ってる。どうしよう? 私としては「名前くらい教えてよ」という程度の気持ちからしたことが、どうやら強権発動になってしまったようだ。
「お、お礼を言うにも相手の名前も知らないっていうのは、どうなんでしょうか?」
狼狽えながら取り繕う。するとお姉さんは立ち上がり、ヘラヘラと勿体ない笑顔を見せた。
「そりゃそうだ。勿体ぶり過ぎたよね。あたしは南風。神名は白守朱引南風媛命。一応、八大神をやってる感じで」
「そうですか。じゃあ南風さん。その、どうも、ありがとう、ごじゃいました」
噛んだー!!
ともかくもお礼を述べると、お姉さんの言葉に紛れた聞き捨てならない言葉が脳裏に舞い戻ってきた。八大神ですと?
「え!? あれ? 今、八大神って言いました?」
その言い方が一応だとか、取って付けた物言いだったのでついつい聞き流してしまった。
「そだよ。皇大神が大嶋廻りに出るってゆーから、様子を見に来たら随分と幼いじゃん。その見てくれで大嶋廻りって、きっと相当なんだろうけどさ」
「はあ」
何を言われているのかサッパリです。しかしまさかいきなり八大神と出くわすとは思ってもみなかった。軽くパニックですよ。白守ってどこだっけ?
「挨拶しにきたってことかー?」
「まあそんなところかな」
物怖じしない放谷はこういう時こそ重宝だ。南風さんの方も相手が小さ神だからと別段見下す風でもない。
「挨拶もだけど、一先ず見せておきたいもんがあって、それで来た感じ?」
「見せておきたいもの?」
何かと問えば、南風さんは私たち三人を手招いた。相手が八大神なら変に構えることもない。近付くと南風さんは両手を広げ、五指を開いて柏手を作った。右手から先に胸前に添え、左手を重ねる。
「土不要」
静かに唱えると足元の空気が四方に散ったのが分かった。次の瞬間、フワッと体が浮き上がる。南風さんだけではない。全員がその場から数糎の位置に浮いていた。うわっ、とか、きゃっ、とか言ってる間に南風さんは続く言葉を唱えた。
「幽身」
今度は全員の体が透けた。いや、よくよく見れば互いの体の形をした空気の歪みが見て取れる。けれど完全に透明だ。それが御業と分かっていても、寧ろこんなことまでできるのかと、私は興奮が抑えられなかった。
「凄い! 何これ!?」
「飛ぶから、舌噛まないようにねー」
言うが早いか、グンッと垂直上昇が始まり、強烈なGに舌を巻く。鎮守の杜を抜けると眼下にV字の街並み。かと思えばお次はギュンッと弧を描いて横っ飛びに空を渡り、あっという間に街から遠ざかってしまった。
頭が禿げ上がるのではないかという勢いで風を劈きながら、川やら森やら湖やらを飛び越えて、みるみる迫った山並みに飛び込んで、ふわり舞い降りる。
爪先が地に触れたと途端、消えていた姿が現れ、自重も戻った。小石を踏んだ踵に軽い痛み。けれどそんなのはどうでもよくって、私も阿呼も放谷も興奮気味に頬を紅潮させていた。
今起きたことは何か。言い表す言葉もないまま思わず噴き出してしまう。凄い凄い、凄かったとはしゃぐ私たち。南風さんが静粛を求めて手を叩けば、そこにあるのは完全に園児と保母さんの構図だ。
「そんなに騒ぐとすぐに来ちゃうよ」
「え? 何が?」
と尋ねた私の背後でドシン!
「お姉ちゃん下がって!」
阿呼の鋭い警告に数歩下がると、入れ替わりに放谷が前へ出て身構えた。
「なんだこいつはー。ちょっと普通じゃないぞー」
緊張した声の下、放谷の足下で落ち葉や小枝が旋風に乗り始める。風招の御業だ。
「大丈夫。今日は見て貰うだけだから、戦わなくていいよ」
放谷の肩に手を乗せて南風さんが横に並んだ。放谷は眼前の異形を見据えたまま、ゆっくりと私の隣まで下がる。
ブルルッ――。
突如現れた怪物が身震いした。黒々とした規格外の巨体にぬらつく牙を光らせているのは強面の猪。私は猪を狩ったことはないけれど見たことはある。その突進力は凄まじく、目の前の化け物じみた猪であれば、どんな大木もへし折ってしまいそうだった。
「物招」
南風さんが左の掌を天に返すと、四枚重ねに伏せた土器が現れた。そこに星霊を流し込んだのだろう、見る間に濃い若草色のオーラに包まれて、カタカタと音を立てて震え出す。
「忌籬」
続く言葉を合図に飛び出した土器は、黒い異形の四方を囲うように宙に留まり、淡い緑の立方体に猪を閉じ込めた。荒々しい息遣いも土を抉るように鳴らす蹄の音も完全に断たれる。
「あの、これは一体……?」
生唾呑みつつ問いかけると、振り向いた南風さんはパンパンと両手を払って腰に当てた。
「これが霊塊の化け物」
「たまぐさり?」
「そう霊塊。首刈ちゃんは伝承のことは知ってる?」
「多少はお母さんや放谷から聞いてます。人の間に広く伝わり長く信じられているお話しですよね? それを星霊が本当のことにして、良いことも悪いこともひっくるめた色んな不思議があるっていう」
「そそ。で、その中の妖なんかの話に紛れたりしてるのが霊塊の化け物なのね。どうして他の妖と分けて考えるかって言うと、その理由が霊塊。ちょっと近付いて見てみようか」
誘われるままに付いて行くと、間近に見る化け猪は本当に大きくて圧倒されてしまう。なので、なんとなく南風さんの陰に隠れるようにして覗き込んでみた。
「見ての通り体中、ボコボコ盛り上がってる部分があるでしょ? あれが霊塊」
何度聞いても耳慣れないその言葉。間違いなくお母さんからは教わっていない言葉だ。
南風さんは薄紅梅の髪を掻き上げながら振り返って言った。
「星霊が楓露に来てから何年経つか知ってる? はい阿呼ちゃん」
「一万と五千年です」
挙手した阿呼に「正解」と親指を立てる南風さん。それくらい私だって知ってるよ。と目で訴えるもスルー。何故だ。
「例えば人間は百年もしないで死んじゃう。それと同じで星霊も死ぬんだよね。死んで世代交代して続いて行く。だから生き物だって言われてる。で、ポックリ死ねば問題ないんだけど、この子に宿った星霊みたいに病に罹ると、さぁ大変。あたしたちは星霊が崩れるって言うんだけど、身に宿る星霊が崩れると、その部位や宿主の生来の資質、色んな要素が絡み合って、場合によっては面倒なことになるんだよねー。そう、言い伝えの中の化け物みたいにさ」
化け猪は肩高三米近く、それこそ疣猪なんか目じゃないくらいボコボコが一杯ある。体毛は抜け落ちて灰色の地肌が剥き出しだ。緑色の囲いに覆われた時は繰り返し突進するような素振りを見せていたけれど、無駄を悟ったのか、今は大人しくなっている。
「苦しいんじゃないですか? この子」
異形と感じたその姿も病に冒されているようなものだと知れば哀れに感じられる。南風さんは私に笑顔を向けて、次に私の言葉を否定した。
「この子の場合、脳をやられちゃってるから、もう何も感じてないかな。脳に始まって全身の星霊のバランスが滅茶苦茶に崩れちゃってる。何をしたいとか、どこに行きたいとか、そーゆーの以前にもう自分が分かってない感じだと思う」
「それは、もう助からないってことですか?」
南風さんが何食わぬ顔で肯定すると、阿呼が「可哀そう」と呟くのが聞こえた。
「よく特徴を見といてね。この子はパッと見で分かるくらい表に霊塊が出てるけど、こんなに解りやすいのは滅多にいないよ? この先、どこか普通じゃない獣に出食わしても、霊塊の特徴を見分けられれば後れを取らずに済む。それってかなり大事なことだよ」
言われるままに観察しつつも、助からないなら止めを刺してあげてからでいいんじゃないかと思った。けれど、きっとそうしない理由があるんだろう。私は視床を痛めそうな歪さにムカムカし出した胸を抑えて、ひたすら観察を続けた。
その内に思ったのは、星霊が癌化するようなものかな、ということ。脳がやられてると言うなら脳腫瘍だ。星霊が老化によって癌化したのものが霊塊。それが宿主の害になるのは分かる。けれど狂暴化するというのは、例えば恐水病のような症状も併発するのだろうか。前世では国民病とも言われた癌は早期発見が鍵になる。霊塊も早期に発見すれば対処方法があるのかもしれない。
「あー、あたい思い出したー」
突然なんの話かと、喉に絡むような声を漏らした放谷に視線が集まった。放谷には珍しく眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
「んー、野足と夜来のかーちゃんなー。腹の下っかわにこれっくらいの瘤があったんだー。あれって霊塊だったのかなー」
親指と人差し指で輪っかを作って見せる放谷。その意味するところを噛み砕いて行けば私も阿呼も「えっ!?」と、まったく同じリアクションで顔を見合わせた。
「ちょっと待った。それいつの話? その人、今はどうしてるの? 霊塊なら放って置けないよ」
矢継ぎ早に詰問する南風さんを一旦宥めて、私たちは風合谷での出来事を説明した。やがて一通りの話が済むと、南風は氷解した面持ちで、右拳で左掌をポンと打った。
「あー、西風西風の報告にあった野暮らしの孤児の件かぁ。それならいいや。お墓作った埋めたってことは間違いなく亡くなったんでしょ。なら問題ない。セーフ」
南風さんに悪気はないんだろうけど、あの日の思いを掘り返されるような感覚に、私は余りいい気はしなかった。
「それで、南風さんは私たちにこれを見せてどうするんです?」
ちょっとでも話を変えようと切り出したら、途端に「何言ってるのこの娘」みたいな顔をされてしまった。なんか間違ったかな?
「どうするって、この先、霊塊の化け物に遭遇したら退治して貰わないと。首刈ちゃん自分が神様だって分かってる? 貴女皇大神だからね?」
ほんと無自覚で済みません。穴があったら入りたいです。と、ここまで言われてようやく納得の私。ただ、そこには一つ重大な落とし穴があった。
「でも待って下さい。確かに自分のしたことが語り継がれて行くんだから、化け物と遭遇しておいて見過ごすなんて選択肢はないです。でもですね、しかしですよ? その為の手段はどうすれば? 私も阿呼も名付きの御業で確実に使えると言えるのは道結と移姿だけです。飛ぶのもダメ。消えるのも無理。土器を出して封じ込めるなんてこともできない。そんなのでどうにかなると思いますか?」
自分で言ってて相当凹んだ。傍で妹やお伴が聞いてると言うのに……。でも、不甲斐ない現状でもきちんと伝えておかないと、後の祭りなんて事態になってからでは遅い。その時二人を巻き込んでしまったら、それこそ後悔してもし切れないだろう。
ところがどっこい、すっとこどっこい。
「あ、その辺もちゃんと分ってるから心配しなくて大丈夫だよー」
「え?」
「これからはあたしが同行して、御業なんかもやり方から何から教えたげるからさ」
「同行!? まじですか?」
「まじまじ。八大神嘘つかない」
「んもーー!!」
「え、急にどうしたの?」
「そういうことは先に言って下さいよー! なんで後出しにするんですかぁ!? お蔭で阿呼や放谷に私のダメダメなところ全部聞かれちゃったじゃないですかー!」
「首刈ちゃん面白いな」
「面白くない! んもーー!」
まあ転げ回って地団駄踏んでる皇大神を傍で見る分には面白いんだろうけどね。腹立たしいやら小っ恥ずかしいやら。私は思う存分八つ当たりして、ぜぇぜぇ言いながら立ち上がった。
「終わった?」
「終わりましたね。はい」
「それはお疲れ様」
「引っ張らなくていいですよ。それより、じゃあ、これからもよろしくお願いします」
「はいはい、よろしく。阿呼ちゃんも放谷ちゃんもよろしくねー」
「おー、よろしくなー」
放谷はいつもの調子で返事をしたけど礼儀正しい筈の阿呼が無言。
「あれ? 阿呼どうしたの?」
「お姉ちゃん大変」
「何が?」
「猪さんが消えちゃった」
「はあ!?」
度肝を抜かれて緑の結界を覗けば確かにいない。さっきまでいた筈の巨体が奇麗に消えてしまっていた。
「南風さん! これって?」
「あー、土に潜ったかー。これは盲点だったなー」
「そんな悠長なこといぼわあ!!?!」
ドンッ、と足下が揺れたと思ったら次の瞬間私たちは地面ごと空に投げ出された。ぐるぐる回ってガサガサいって枝に引っかかった私は目ぇゴシゴシして地面を見た。すると結界の横に大穴が口を開けていて、そこから這い出した化け猪がプギィィィィイイイ!!
どうすんのこれ? 私無理って言ったからね。




