母と娘のピロートーク
「ママ、今日一緒に寝て~」
「あらあら、甘えん坊さんね、今日は。
ふふ、たまにはいいかしら」
そう言いながら寝間着姿で枕を持ってきた少女を、ベッドの中へと招き入れる。
えへへ~と嬉しそうに笑いながら入ってくるのを見ると、胸が暖かいもので満たされた。
布団の中でお互いのおさまりがいい場所を探してしばしもぞもぞ。
程なくして位置が定まると、ぎゅむ、と抱き着いてくる。
「今日何かあったのかしら?」
「ううん、特にはないんだけど……。
なんかね、甘えたくなっちゃったの」
そうして、二人布団の中、とりとめのない会話をする。
ささいな日常のあれこれが、きらきらとした話題になって二人の時間を作り。
気が付けば、もう随分な時間になっていた。
「ああ、もう寝ないとだめね」
「うん、じゃあ、おやすみなさい。
……あのね、ママ、いつもありがとう。
私の本当のお母さんじゃないのに、いつも、いつも……」
「何言ってるの、気にしないでいいのよ、そんなこと」
「うん、でも、ありがとう……」
やがて、言葉が寝息に変わって。
それを確認すると、ほう、と息を吐く。
「ねえ、あなたの娘は、良い子に育ってるわ。
私のおかげよ、感謝してよね」
そんな冗談を虚空へと、呟く。
しばし、もの言いたげに天井を見上げて。
やがて、自分も目を閉じた。
……夢を見た。
真っ白で優しい、光に包まれるような暖かい、夢。
あの人が、見えた。
懐かしいその顔は、あの時と同じで。
優しく、優しく微笑んでいた。
『あの子をお願いね』
そんな、声が聞こえて。
はさり。
優しい、羽音。
白い翼をもつ鳥がふうわりと飛び、くるり、頭上で円を描いて。
ふわり、ふわり。白い羽が落ちてくる。
『あなたに想いを、託しましょう』
両手を差し伸ばし、受け取る。
それが、雪のように解けて、身体の中へと染みこんでくる。
『……お願い、ね?』
最後に聞こえたのは、少しだけ悪戯っぽい声だった。
「……夢……?
え、あ、れ……?」
朝、目が覚めた時に感じる違和感。
決して不快ではなく、むしろ喜ばしい違和感。
「ママ? その……ママも、夢、見た?」
隣で体を起こした娘が……何故か、期待に満ちた目で見つめてくる。
そっと、下腹部を触って、確認して。
「え、ちょっと待って、私なの!?
待って待って、どうして私の方が!?
普通年下の方が授かることが多いのにっ」
突然判明した好意に。事実に、混乱する。
「あはっ、ママを孕ませちゃったぁ……」
「そんなにうっとりと喜ばないでっ!?」
困った。
嬉しい。
そう、思ってしまった。
つまりは、そういうことなのだろう、けれども。
これは、どうなのだろう。
葛藤を抱えているのを黙殺されて、抱き着かれる。
「ねえ、ママ、ほんとにママになっちゃったね?」
「え、ええ、そう、ね……?」
「だったら、さ」
とさ……と静かな音。
見上げた天井に、自分が押し倒されたことを知る。
「え、ちょ、ちょっと待って」
「いいよね?
赤ちゃんが健康に育つおまじない、しちゃっても」
「だ、だからちょっと待って、んむっ」
唇が押し付けられる。
不慣れで、一生懸命な、柔らかい唇。
拒否なんて、できるはずがない。
「いっぱい、いっぱい、元気にしてあげるからねっ」
さずかった命が、何より自分の体が、喜んでいるのがわかる。
そして、娘は逃してくれなさそうな目の光で微笑んでくるから。
「わかった、から……優しくして、ね?」
両手を広げて微笑みながら、迎え入れた。