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この台風が来てる中、日帰り旅行してきましたw
なに、この贅沢ww
現地滞在時間は約2時間40分。
お土産買ってとんぼ返りでした。
でもたのしかったです。
鉄道ネタですが、きっと分かる人にはわかる…はず。
他国の人間には理解されないが、この国の民にとって愛し子様とは特別な存在だ。ただそこに居てくださるだけで満たされ安心する。実際災厄を退けているのでそういう意味でも守護の象徴とも言える。無条件で愛しく思ってしまう。何でもして差し上げたい、言葉を交わしたい、お姿を一目みたい、まさに恋い焦がれるような気持ちは、理性では押さえきれない本能のようなもので、一般国民ですらこの状態なのに、王族や貴族は更に愛し子様に強く惹かれるという。
おそらく今頃リアム王子は必死になって捜索しているだろう。愛し子様のお願いだとはいえ、王族から愛し子様を拉致したも同然…私はきっと無事では済まないが後悔はしない。愛し子様を思う気持ちは抗いがたいものなのだから。
これはこの国の民の血の成せる技なのだろう、他国に住む混血した者達も程度の差はあれその本能に抗うことが出来ないようで、愛し子様が現れた今、王都はそんな旅行者で溢れて宿はどこも満室らしい。
人の流れがあれば物も金も動き、景気も良くなっている。
まさに愛し子様とはこの国の繁栄の象徴なのだ。
その象徴であるお方がなぜ今ここで掃除をしておられるのか、私は混乱しています。
「整理整頓!清潔は病を寄せ付けません!」
「せいりせいとん!せいけつはやまいをよせつけません!」
いつもなら言うことを聞かない子供達も率先してお手伝いをしています。子供達の部屋を掃除し始め、小さな子供達に役割分担させて効率良くこなしていきます。私も手伝おうとしたのですが、
「あ、クリスティーナは処理しなきゃなんない事務仕事とか孤児院運営の仕事があるでしょ?」
そう言って追い出されてしまった。本当にいいのだろうか…なんだか罪悪感を感じる…。愛し子様がしたいようにさせて差し上げたい、しかし働かせるなどあってはならないという気持ちがせめぎ合う。なんという悩ましさ。
疲れた子供たちを昼寝と称して寝かしつけた愛し子様と二人、食堂でお茶を飲んでいる。
愛し子様はこの国の事を知りたいと私に話をせがむ、庶民なら当たり前の日常の事を特に好んでお聞きになる。特に愛し子様ご自身に関わる事はあまりご存知ないようだったので、知っている限りの話しをした。どれだけ国民が無条件に愛し子様に惹かれるのか、それが高貴な血筋ともなればより強くなることも。愛し子様達があまり長くこの世界では存在できない事や、代々の愛し子様を祭る廟はあってもご遺体は光になり残らず、創造神の世界へ還ると伝えられていること。愛し子と婚姻を結んだ後見人は、その後生涯独身を貫いたといわれていること。
愛し子様が居られる場所を中心に国の隅々までその恩恵が広がり、瘴気や魔物が減ること。この国にはない知恵と発想で様々な便利な道具や制度をつくり、庶民の生活を改善したこと。その全てがこの国の繁栄を支えている事。
「王子サマのあれは本能みたいなものだったのね」
「特に王族の方々の中には、時折愛し子様に恐ろしく惹かれる方がお生まれになることがあるそうですよ、そんな王族の方がお生まれになった時は愛し子様が現れる事が多いそうです。その方はやはり後見人になる事が多いようですね」
「そんな感情に振り回されて大変だろうねぇ、なんか申し訳ないわ」
「なに仰るんですか!私達庶民からしたら羨ましい限りですよ!お傍にいて、お守りできるんですよ」
「そういうもん?」
「そういうものです、恐らく騎士団を動員しての捜索があるかと思いますよ」
全くこの本能からくる気持ちをコレだけ説明してもご理解してはいただけないようです。
恐らくリアム王子は形振り構わず総力をもって捜索する、絶対にする。私が同じ立場だったら絶対にする。
「私を売ったりしないよね!?クリスティーナ」
「そんなのあるわけないじゃないですか!?どうなったとしても愛し子様が望むことをかなえるに決まってるじゃないですか!」
「あ~、愛し子様呼びやめて!むずむずしてたまらん!」
「いや、それは…ご勘弁ください」
「クリスティーナすらそんな状態だと、やっぱり庶民として働きながら生きるというのは難しいのかも知れないな」
眉間に皺を寄せてそんな事を仰る。その希望をどうにかして叶えて差し上げたいが、国がそんなことを許すとも思えない。国民が愛し子様に危害を加える事は絶対にないだろうが、過去他国が愛し子様を攫った例だってある。愛し子様に危害を加えればその国は災厄に襲われると分かっているから手を出してこないだけで、本当は魔物を退ける力や、まだこの世にない知識を各国が欲しがっているのは言うまでもない。
「どうして庶民の暮らしにそんなに興味があるのですか?」
「私自身が庶民だからだよ、何にも出来ないのに国民の税金のお世話になるのは心苦しいもん。とは言ってもここで出来そうなのってこういう家事手伝いとか多分食堂の給仕とかそんなんかなぁ」
私には愛し子様が庶民とは思えませんが…、むしろ我々の税金を使って不自由のない生活をして欲しいのですよ…お優しい愛し子様は嫌がるでしょうが。それに食堂の給仕など絶対にさせられない、カップを持つあの美しい指が荒れてしまうのは許せない。
「そんな事になったら、食堂に毎日何度も通って仕事にならない者が溢れますよ」
「売上的には嬉しいけど、身上潰すようなのは困るなぁ。まぁ実際は王子サマに見つかってしまうしここでは無理なんだけど…身の振り方本当にどうしよう…」
「ここに居たらいいではありませんか、他の者に見つからないように子供たちと一緒に」
「いい大人なのにそんなニートやだ…」
「何ですか?にーとというのは」
「簡単にいうと労働も勉強もしない、何もしない人のことかな」
話し込んでいると表に来客があったようだ。
愛し子様に断り、絶対にお姿を見せないようにとお願いしてから、玄関を開けに行くると、数人の旅装束の男女が立っていた。
「こちらは愛し子様が寄付をなさった孤児院でしょうか」