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なんか全然別物になってきたよ…最初からお月様で書いてれば良かったのかもしれません…。
恋愛物になんない、なんぞこれ。
部屋を飛び出したけど、この屋敷の中で行ける所なんて限られている。
頭を冷やしたいからとりあえず庭に出てみる、庭師がいつも綺麗に整えてくれている庭にも、やはり白い花は咲いている。
王子サマが私を特別に思っている事は分かる、でもそれって愛し子としてでしょう。私個人じゃない。
あんなキラキラいかにも王子様って人が、私みたいな地味なモブを好きとかないない、都合よすぎ。
利用価値があるから、肉体的に軟禁という形で拘束して、精神的には恋愛、もしくは結婚という形でこの国に縛り付けるために、お仕事として私に接してるだけなんじゃないのー?と穿った見方をしてしまう。
まさか実力行使してくるとは思わなかった。この国の貞操観念はそこまで厳格でもない。社交界デビューは婚活で、恋愛は別といった考え方だ。なので必ずしも一度くらいの火遊びでは即結婚にはならないけど、私は王子サマの屋敷に厄介になってて、それで寝室も一緒という話が広がればそれはまた別問題だ。結婚一直線だろう、夜会にも出ない私は婚活の場がないし、貴族と結婚とか責任重大すぎて目眩がする。庶民の暮らしをして、そこで好い人がいたら…とは考えるけど、私みたいなめんどくさい頭でっかちの女は需要がないのはよく知ってる。
とりあえず、ここにはもう安心していられない。
仕事の件も多分通らないだろう、テオも思った程アテになんないし悪いとは思うけど、まずこの屋敷を出よう。ここに来た直後に比べて常識もお金の価値も学んだし、だいぶマシだろう。無謀だとは思うけど、過去の例をみるに、本当にやばくなったら死なない程度に愛し子の保護機能(と私が勝手に呼んでいる)が働いて最悪の事態にはならないんじゃないかな。どうせ昏睡状態にでもなってる私の夢の世界なんだから、荒唐無稽でいいじゃない。
よし、思い立ったが吉日だ。この世界に来たときに所持していた私の荷物を持って今すぐ出よう。
ストレスが最高潮になって、後先考えないって怖いなって、後々になって思いました。
部屋に戻ると側用人のアンナさんがいたが下がってもらって、リュックの中に入れてた服に着替える。
元々私が着ていたものだ、スクエアリュックの中は結構色んなものが入っている。いざというとき物がないと不安になる質の私は凄く荷物が多い、よく友人にからかわれたものだ。ここで借りていた物は全て置いていく。テオにもらったイヤーカフも置いていく、もしGPS機能みたいなのがついてたら洒落にならん。
絶望するくらないなら最初から過度な期待はしない、弱い自分を守るために身についた処世術だ。
そっと扉を開けて周囲の様子を伺うと、幸い誰もいない。このまま建物の外に出るまでなるべく人に会わないルートを通る。私だってただ閉じ込められていたわけじゃないよ、人が少なくなる時間とかそういうのはちゃんと調べていた。家庭教師と雑談した時に得た街の知識を思い出しながら、敷地外を目指して庭の目立たない所を急ぎ足で歩く。やっぱスニーカーは歩きやすいな。
問題は敷地の柵なわけだが…あ、使用人が使う裏口を発見、やっぱりあるよな。
周囲を警戒しつつ、そっと裏口を開けて一歩外に出た瞬間、空間がパリンと音がして割れたように感じた。なんかヤバイ、ヤバイ気がする、早く離脱しよう。
覚えこんだ地図を頭の中で思い出しながら、街灯がなく思ったより暗く少し怖さを感じる石畳の道を走り始めた。
上級町は貴族の屋敷が立ち並ぶ区画だ、石畳から土の道に変わった辺りから周囲の景色が変わってきた。大商人が店を構える区画に入った、ここを抜けていくと庶民の暮らす区画になる。
結構距離がある、私が外に出たのはほんの数える程度だし、しかも馬車の中だったからな。イマイチ距離感も土地勘もないんだよねぇ。 暗い道は人気もなく、かなり恐怖心を感じる。ここで襲われたらひとたまりも無いなとか考える。もし不測の事態があった場合、私は躊躇なく相手を殺せるだろうか。その前に武器がないなとかいろんな事が頭の中をぐるぐる巡る。こんなに体を動かしたのは久しぶりだからか、なんだか上手く動かないような気がする。
庶民の区画に入ってすぐのところに神殿がある、あそこが私の目的地だ。
最初は宿屋か酒場に行くつもりだったんだけど、この世界はそんな遅くまで店が営業していないという事を家庭教師に聞いたからだ。いやぁ、なんていうか認識の違いってびっくりするね。日が完全に落ちたら営業終了なんだそうだ、そりゃランプ代も馬鹿にならないしね。
さすがに走り通しで疲れてきた。段々とスピードが落ちる。何度か行った事のある神殿が見えている、あともう少し。後方が騒がしい、馬の駆けてくる音、もしかして追ってきた?
馬が入れないような建物の隙間の路地に入り闇に隠れる。後もう少しなのにな、細い道に入ったら迷いそうで怖くていけない。暗いし…何か出そう。
もの凄い勢いで走り去る馬上の人を見ると、やっぱり王子サマだった。他に使用人の人が二人が一緒。
うぐ、神殿に向かうことはやっぱバレてるわな~、野宿かぁ、きっついなぁ。
ふと、ドレスをオークションで売った時、その代金を孤児院に寄付した事を思い出した。その時慰問で孤児院に行ったんだよね。確か神殿の近くにあったはず。よし、とりあえずそこにお世話になりに行こう。
ここは面の皮厚く図太く行きますよ、形振り構ってたら自分の大事なものがなくなっちゃう。
私は息を整え、深呼吸をして周囲に注意しながら神殿方向に向かって移動を開始した。
夜も深くなってきた頃、裏口のドアを叩く音がした。
こんな時間に訪問者なんて…と警戒しつつ誰何すると一夜の宿を乞うてきた。神殿にいかれてはどうかとオススメしたが、事情があって神殿にはいけないのだという。とても困っている風なのが伝わってきて、普段なら開けない扉を開けてしまった。そこにいたのは神の色をまとった一度だけお目にかかった愛し子様だった。