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週末の皆様のひまつぶし用にUPする予定がずれ込んだのは、寝込んでたからです。
健康って大事ですねぇ…しみじみ。
昨夜の王子サマの驚き発言から一夜明け、昨日はカウチソファで寝たせいか寝不足&体が痛い。
騎士団の仕事を放り出して私に事情説明という名の言い訳をしようとした王子サマを、問答無用で仕事に行かせた。そんなくだらない理由で休むなんて私が許さん。こちとら筋金入りの社畜なんでな、たとえ荒天でも出社できるルートを考えてなんとか出社しようとするんだよ、無意識にね。
帰ってきたらきちんと話し合おう、けど二人っきりは話が膠着するかも知れない。誰かいないかなと考えるけど私が知ってる人ってテオか、後宮で護衛についてくれていた王子サマの近衛騎士であるリュカさんくらいだ。
という事で話し合いにはテオを同席させる事を約束させた。拒否されたら話し合いそのものを無しにして、テオに連絡とって出て行くつもりだった。
形振り構っていられるか、縁もゆかりもないこの国の繁栄とやらの為に、なんで私が搾取されんにゃならんのだ、だったら自立して生きていく方法を模索するわ。
それが簡単でないことは分かってる、家庭教師が教えてくれるこの国の歴史や常識を聞きけば聞くほど、現代社会で一人生きていくのとはわけが違うという事も。つーかハードモード過ぎるよ…。
そんで決心したわけだ。
現実世界で、色々我慢してたことを自重せずにやろうって。
もちろん法に触れたり自分の倫理観に反することをしようとは思わない、でも同調圧力で抑圧されていた、自分らしくってのをやっても構わないだろう。私の事を好き勝手にしようとするなら、それに抗ってやる。
私の好きにしてやる。年甲斐なくったって好きなものは好きって言ってやる、やりたい事をやってやる。
人の顔色伺って、「普通○○だよね~」なんて言うのに流されるのもヤメだ。
どうせここは恐らく意識不明に陥っている私が見てる夢の世界、そこでまで我慢し続けてなんになる。
私が私の心のままに自由にしたら、誰かが傷つく?知らねーよ、勝手に傷つけよ。そんなんその誰かの問題で私の問題じゃない。そう決めたら気持ちが楽になった気がした。
テオと一緒に王子サマが屋敷に戻ってきて、夕食を共にした。
さすがにあの内容を夕食時に話すのは憚られたので、もっぱら魔術師団での実験結果などの話が中心になったけど。
その後改めて人払いをして話し合いを始めた。先ずは私の知らない愛し子に関しての情報を、包み隠さず教えて欲しい、というと王子サマが説明しようとしたが、テオがそれを制して話し始めた。
「俺が知ってる事をまず話す。重複する部分もあると思うけど、もし疑問があったら都度聞いてくれ。」
テオが私を騙す事はないと思ってるので大丈夫だろう。いや、わかんないけど王子サマは大事な事は聞かれなければ敢えて言わないという事しそうだからなぁ。私本当に王子サマを信用してないな。
「まず、愛し子はこの世で信仰されている創造神による神託によって我が国に遣わされる。それはこの国の初代の王が神と交わしたした契約に基づいていると言い伝えられている。実際に他国で愛し子が現れた事はない。」
「過去に他国が愛し子を浚ってその繁栄にあやかろうとしたけど、逆に国が荒れたらしいもんね。」
「そういうこと、我が国に愛し子がいてこそ瘴気や魔物から国は守られる訳だ。」
愛し子がいるから魔物等の脅威から守られてるのか、愛し子の命を守るためにその作用が働いてるのか、判断材料が少ないな。
「愛し子が現れる周期はまちまちで、国内のどこに現れるかは分からない。現れる直前に国中で白い花がひとりでに咲く、その花の量の多いところに現れるという説が有力だ。全て黒髪黒目の女性で、後見人は代々王家の第2子以降の婚約者の居ない独身の男性が選ばれる。今回は第4王子のリアムだね。俺もまだ婚約者も居ない寂しい独身なのに、何で選ばれなかったのか不満だよ。こういうのって普通年功序列だろうに、残念でならない」
そう言ってテオはウィンクをした、場の雰囲気を和らげてくれるところが流石だな。ちなみに第2王子は既に婚約者がいるので、最初から候補ではなかったらしい。
「いろんな意味で不足のない生活を実現させるために、ある程度資金が潤沢で社会的立場がある人でないといけないのはわかるけど、王族の血筋に連なる貴族では駄目なの?王様に子供が居ない場合は?それに過去の愛し子たちは帰りたがらなかったの?」
「今まで王が子をなしていないタイミングで愛し子様が現れたことはない、そして愛し子様が帰ったという記録もない。実際は帰りたがっていたかも知れないが、帰る方法が無かったんだと思う」
つまりは私がここに来た時点での後見人候補は、元々テオか王子サマだった訳だな。で、突然放浪の旅にでちゃうテオより騎士団に勤めている王子サマになっちゃったという訳ですね。
まぁ元の世界に帰った愛し子はいないとは聞いていたけど、一方通行なんですか。
「過去の愛し子様は例外なく後見人となった者と婚姻していたから、それが当たり前と認識されている。つまり強制ではないが現実は…な」
「この世界で女一人で生きてくなんて無理ゲーだもの、結婚するしかなかったでしょうね。それに先代までの愛し子様達は皆おとなしく、従順な性格だったらしいから同調圧力に逆らえなかったっていうのもあるんでしょうしね」
「それからすると今代の愛し子様はちょっと変わってるよな」
「常識なんて時代によって大きく変化するし。私は女でも仕事をするの当たり前だって感覚かな、この国ではまだまだ難しそうだけどね」
庶民ならいざ知らず、女性が勤めに出るという感覚はなさそう。貴族ともなれば結婚して女主人として家を守るってのが定番だもんね。それに愛し子なんていう利用価値のある人間を、庶民の中で放し飼いにするわけにもいかないんだろう。
「まぁ、愛し子については大体こんなもんかな」
「愛し子の子孫はいないの?」
「それなんだけどなぁ、愛し子様は体が丈夫でないようで、子供はいないんだよ」
「不妊だったってこと?」
「いや…それはわからんが…」
やけに言いにくそうなテオに代わり、ずっと黙っていた王子サマが口を開いた。
「過去の愛し子様達は、皆早くに儚くなってしまわれたからだ」