前編
小学校からの帰り道、1学期の終業式を終えた2人の男の子は何かを考えながらいっしょに歩いていました。
「樹、今度の登校日に出す短冊にはどんな願いごとを書くの?」
「願いごとって言っても……」
「もしかして、好きな女の子とデートをしたいとか」
「そ、そんなことを書くつもりはないって! それよりも、修太くんは何か考えているの?」
「へへへ、それは登校日までのお楽しみ」
「もうっ! 修太くんったら」
小学4年生の樹と修太は、普段からいっしょに遊んだりするなど仲のいい友達です。しかし、樹が内気なのに対して、修太は積極的と性格が対照的です。
次の登校日となる8月7日までに提出するのが、七夕の願いごとを書く短冊です。普通なら、自分のやりたいことや目標とすることを書くわけだから難しく考える必要はないはずです。
でも、樹は書きたいことがあり過ぎて1つに絞り込むことができません。途中で修太と別れると、少し進んだところにある自分の家へ入りました。
「ただいま!」
「おかえり、通知表は?」
樹は、小学校で受け取った通知表をランドセルから出してお母さんに手渡しました。お母さんは、通知表の中身をすみからすみまでじっくりと見ています。
「勉強も運動もがんばっているけど、もう少し自分の意見をはきはきしゃべるようにがんばらないと」
お母さんからも言われてしまった樹だが、自分の殻を破りたいという気持ちはいつも持っています。しかし、いざとなって実行しようとすると、緊張のあまりに自分の意思を伝えることができません。
そこへやってきたのは、幼稚園児の弟である大空です。樹と違って、大空はいつもわんぱくで元気いっぱいの男の子です。
「兄ちゃん、いっしょに遊ぼうよ! 遊ぼうよ!」
「部屋へ行ってランドセルを置くから、ちょっとここで待って」
樹は2階にある自分の部屋に入ると、机の上へランドセルを置きました。そのとき、七夕の短冊のことを思い出しました。
階段を降りると、お母さんといっしょにいる大空に聞いてみることにしました。
「大空、短冊にはどんなことを書いたの?」
「ぼくはねえ、エルボーマンになりたいって書いたよ!」
大空は、小さい子供たちに大人気のヒーローであるエルボーマンをテレビで見るのがいつも楽しみである。この前の誕生日プレゼントも、大好きなエルボーマンの変身アイテムに大喜びしていました。
そんな大空の姿を見ながら、樹は短冊に何を書こうか頭で考えています。
「得意なことをがんばる、苦手を克服する、目標に向かって歩む……」
いろいろと考えていくうちに、樹はあることを短冊に書くことを決めました。