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ウィズブラッド  作者: あんかけウーロン
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輪廻転生前室にて

(……ん??ここは……?)


「お、ようやく意識が戻ったか。お主の名前は橋本直也でよかったかの?」


直也の意識が徐々に覚醒し始める。直也の目の前には何やら白い服、白い髭を生やした年寄りが座っていた。


(この人…まるで神様みたいな感じだな)


直也が抱いた率直な第一印象である。


「神、というわけではなく、わしはこの死後の世界で管理人をやっておるものじゃ。管理人とでも呼んでくれたらよい。お主、繰り返すが橋本直也で間違いないな?」


(あ、あぁ……そうだ、橋本直也で間違いない。ところで、ここは死後の世界なのか??いきなりそんな事言われても信じられないし、色々混乱しているんだが…)


「ああ、そうじゃ。まあ詳細には死んだ生物の魂を輪廻転生させる前室、といったところなんじゃが今はいいじゃろう。その証拠にお主、自分の記憶を辿ってみよ」


管理人の言葉で直也は記憶を辿る。するとものの数秒で直也は焦りと絶望、そして怒りといった様々な感情が沸き起こってきた。


(俺は確か……市街地での抗争中に足を打たれて……っ!管理人、健とあの子は?!二人は無事なのか?!)


思い出したように直也は、自分の死よりも先に二人の安否を確認する。


「自分よりも先に二人の心配か……。なかなか出来ることではなかろう。橋本直也、安心するがよい。お主のおかげで二人は無事じゃ」


(そ、そうか……。本当に良かった……っ!!)


無事二人が生きていることを知り、安堵の涙が浮かんできたような気がした直也は、無意識に涙を拭おうとするが、そこで手がないことに気づき、加えて体そのものが存在していないことに気づく。


(管理人!俺の体は?なぜ俺の体がない?!)


「ここは死後の世界、体などここに来れるわけがなかろう。どうだ、これで信じてもらえたかの?」


直也は辺りを見回すと、真っ白な世界が広がっていた。実体のない自らの体、自分と管理人以外何も無い世界、直也は管理人の言うことをようやく信じる。


(本当に、死後の世界なんだな……。まあ死後の世界がどんなものかなんて死んでみないと分からないよな……)


「分かってもらえたようで何よりじゃ。まあ、本題はここからだがのう……。橋本直也、わしは分け合ってこの前室に、お主の魂だけを意識が伴った状態で待機させておる。本来であれば、こうして意識や記憶が戻ることなく、無数の魂は輪廻転生を繰り返す。もちろん、前世の記憶は綺麗さっぱり失った状態でじゃ」


(……続けてくれ)


「話が分かるやつで助かるのう。そこでお主の魂をここに留めている理由なんじゃが、実はお主が生きていた世界以外にも様々な世界があってのう」


(他の世界も存在するのか……)


死後の世界を認識した時点で自らの常識とかけ離れていたため、多少の事では口を挟まないでおこうと決めていた直也であったが、さすがに他の世界の存在には驚きを隠せなかった。


「そうじゃ、様々な世界が存在しておる。しかし、中にはその世界における均衡が保ちにくく、非常に危うい世界が存在する。そんな世界の均衡を保つため、稀にその世界に転生させるに相応しい魂を送り込んでいるのじゃ。この前室は、言わば魂を様々な世界に転生させるためのワープ空間といったところかの」


(ちょっと待ってくれ…。てことは、俺は他の世界に転生するのか??)


「そうじゃ、しかし無理にとは言わん。お主がそれを望むのであれば、という話じゃ。ただし」


管理人は一度そこで言葉を区切る。直也は管理人の言葉に集中する。


「先程も言ったが、転生させる目的はその世界の均衡を保つためじゃ。故に転生させる者にはそれぞれの世界の均衡を保つための条件をクリアしてもらう必要がある」


(……その条件とは?)


「お主の場合、様々な種族が混在する世界の平和じゃ」


(……)


世界の平和、それは直也にとって前世で切望したものである。しかし、前世で自らの無力さを痛感した直也にとって、その言葉がただの理想、幻想、戯言に過ぎないことを十二分に理解していた。


(無理だ。俺一人の力なんぞたかが知れてる。その証拠に、命を張ってまで得たものは、たったひとつの小さな子供の未来だけだ)


「そのひとつを守れただけでも充分すぎると思うがのう…。他人のために命をかける、これがどれほど難しいことか。今回の条件、今までの中でも最大級に困難なものじゃ。その困難さを身をもって理解している、そんなお主じゃから今回わしはお主を選んだのじゃ。世界の平和と聞いて、すぐさま頷くようなやつなぞ求めてないわい」


(それでもだ。俺一人がいたところで、力の無い俺にはどうすることも……)


「もちろん、何の力も与えず、非力なまま送る訳では無い」


管理人は直也の言葉を遮るように言葉を重ねた。


「お主が転生する際、ある特殊な力を与える。お主が転生予定の世界は剣術、魔法が主な世界でな。生身で送っても即死して終わりじゃろう。そこでお主には、血属性という力を付与して転生してもらう」


(剣と魔法の世界って……。ファンタジーにもすぎるだろう……。それよりも、血属性?とはなんだ?)


直也の問いかけに管理人は渋るように口を開く。


「……詳しくはわしの口からは言えん。そういう決まりなのじゃ。ただ、自らの血液を用いることで強大な力を発揮する能力じゃ。剣と魔法の世界と言えど、この力をうまく使いこなせれば様々な困難も乗り越えて行けるじゃろう」


(自分の血を使った力……?それに人を助けるだけの力があるのか?)


「お主次第じゃ」


あやふやな管理人の答えに直也は釈然としない。しかし、無力なままではないという事実は直也の中で大きかった。


「どうする?綺麗さっぱり記憶を失って、新たな人生を歩むか、条件を引っさげ剣と魔法の世界に転生するか?選択はお主の自由じゃ」


(俺が転生しなければその世界はどうなる?)


「まあ、良い結果は迎えないであろうな」


直也は前世での出来事を思い出す。

泣き叫ぶ民間人を救えなかった自分をどれだけ恨み、どれだけ絶望したか。たった1人の命を救ったとはいえ、己の無力さをあれほど嘆いたことはなかった。平和とは程遠い世界を知ってしまった。

しかし、今回は違う。自分次第で無力ではなくなる。残酷な世界を変えられるかもしれない。直也の中で答えは決まっていた。


(分かった、転生する。転生して、争いが無くなるかもしれないなら、その可能性にかける)


「……良い返事じゃ。橋本直也、頑張るのじゃぞ。何、急ぐことは無い。お主が生きている間にその世界に影響を及ぼしてくれればよい。これはヒントじゃが、まずはその世界を学ぶのじゃ。焦って時を見間違えるでないぞ」


(ご忠告どうも。それを聞いて安心した。のんびりやっていくとするよ)


そうして直也の魂が発光し始める。


「時間じゃな。血属性についてはそれを知る人物の近くに転生させる。転生先ではその人物に学ぶがよい」


(ま、待ってくれ!転生って0歳から始まるんじゃないのか?!)


「あ、16歳程の年で転生してもらうからそのつもりでのう」


(それは先に言えぇぇ!)


そうして直也の魂は前室から消滅した。

次話から文字数増やしていきます。

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