主夫猫
あれはいつだったっけ。
凄く蒸し暑かった事は覚えてる。
運転中、いきなり飛び出してきた子猫を轢きそうになった。間一髪で助かり保護し、私の家で飼うことになった。
澄みきったブルー目。
小さい手足でヨチヨチ歩いてくる。
警戒心もない。
やあ、はじめまして。
これからよろしくね。
あれはいつだったっけ。
あなたが家にきて、ちょっとしてからかな。
名前は、男の子だけど何故かミーチャンになった。
ミーチャンがくる前から飼っていた猫がいて、そのこからは凄く嫌われて近寄っては怒られていたけど、めげずにいつも邪魔にならないように後ろからついていってたね。
そのこが木に登れば真似して。
いつもついて行ってた。
不思議だな。
あれだけ怒られても嫌な顔せずにいつもついていくなんて。
これが人間の世界ならどうだろ。
だけど我慢している感じには全く見えなかった。
今度こそ今度こそ仲良くなるぞって。
がんばれ、みーちゃん。
あれはいつだったっけ。
元々いた猫のレモンとミーチャンと散歩している時に、か細い鳴き声が墓地の方から聞こえた。
真っ先にミーチャンは走り出した。
ついていくと、目ヤニで目が塞がってしまっている白い子猫を見つけていた。
またか…二匹も三匹も変わらないか。
やあ、こんにちは。
一緒に君も帰ろうか。
あれは、いつだったっけ。
笑ったなあ。
墓地で保護した猫は、ニィーニという名前になった。
ミーチャン、ニィーニと遊ばないの?もっとお兄ちゃんらしく面倒みてあげようよ。
やっぱりミーチャンもレモンに冷たい事されたからかなあ。
わたしが遊んであげようか。
ニィーニを庭で遊ばせてあげることにした。
家の中にいたのに後ろからついてきている。
ミーチャンどうしたの?
少し離れたところから、じーっとニィーニを見つめて、いなくなると捜し始める。
見つけると首を噛んで持ち上げ、家に連れて入ろうとしてたね。
そっか、家族になったんだ。
縁側のところは高い段差があるから、ニィーニをくわえたままでは、なかなか上がれなくて何回も何回も失敗してた。それでも上がれるまでずっと頑張ってたね。
親でもないのに。
男の子なのに。
まるで自分の子を心配してる母親のようだった。
そんな姿を見て、あなたの優しさを知ったよ。
それからまた1匹新入りの黒猫が増えた。
賑やかになりそうだね。
あれは、いつだったっけ。
いつの間にか飼ってる猫が8匹になってた。
リーダーは、もちろんみーちゃん。
ほかの猫たちも、みーちゃんをきっと親だと思ってただろうなあ。
いつも全員の匂いを嗅いで、人数確認して去っていく教官姿も笑えた。
散歩に出掛けたら、毎回私の後ろをついてきてたけど、わたしも子どもだと思われていたのだろうか。
ねえ、みーちゃん。
大丈夫だよ。
居なくなったりしないから。
そばにいるからね。
いま、思うと私に甘えてきたことなかったな。
あの日は、忘れてないよ。
寒い寒い12月だった。
みーちゃんは、ごはんを食べて元気よく一人で夜お散歩に出掛けて行った。
いつもね、あたしが夜勤から帰るとの車の下から出てきてお迎えに来てくれる。
家には私の母親もいていつでも入れるのに、待っててくれる。
車から降りたあたしに鳴いて近寄ってきた時「おかえり。早く家に入ろうよ」っていつもそんな風に聞こえてたよ。
一緒に家に入ってたね。
あの日は、なんで私は迎えに行ってあげなかったんだろう。
荷物をその日は、たくさん持っていた。
車の下に、みーちゃんが寝そべってるのが見えて「みーちゃん、帰ろう」と言ったけどみーちゃんは出てこなかった。
荷物も重たいし、まだ入りたくないのかなって思って家に入ってしまった。
なんで気付いてあげられなかったんだろう。
朝、車の下で冷たくなったみーちゃんを見つけた。
あのとき、近寄ってあたしがお迎えに行けば救えたかもしれないのに。
別れってこんな突然なんだね。
昨日あんなに、元気だったのに。
その日は涙が出なかった。
そんなはずないって気持ちがあったからかな。
死んで数日後、止まらないくらいの涙がでた。
ああ、もう会えないんだって思った瞬間に。
たくさんたくさん後悔した。
あの夜、外に出さなければ、もしかして。
わたしが迎えに行けば、もしかして。
どうにかできたんじゃないかという悔しい気持ちが強くなって涙が止まらなかった。
3年間という短い間、たくさんたくさん大切なことを教えてもらった。ありがとう。
優しいみーちゃんが大好きだよ。
天国でも、まだ私達を見てくれてるかな?
みーちゃん、ワガママな言葉かもしれないけど、、、
これからもヨロシクね。
読んで頂きありがとうございました。