第一章 二幕(2)
長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。
本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。
ギルド内の端に位置する飲食スペース、その更に端のテーブルで、レグルスを含む四人の男が顔を合わせる。
飲食スペースとはいっても椅子はなく、テーブルにはジョッキが四つ。ここでは酒以外の飲み物が提供されることはない。
「はっ、はじめまして! オルティスと申しますです! これでも男です! よろしくお願いいたします!!」
レグルスの胸元ほどの身長で腰まで届く流れるような長髪。言われなければ女性と見まごう整った顔立ち。オルティスと名乗る性別以外何も分からない相手に対し、レグルスはたっぷり3呼吸分は息を飲み、答えた。
「……良ければパーティーでの立ち位置や、そうだな……もし魔法を使うなら、属性なども教えておいてくれないか?」
背中に背負われたオルティスの身長ほどもある杖を見据えながら、である。
「っはい! 風属性の魔法と、治癒が少し出来ます! 後衛です!」
オルティスは弾かれたように答えた。無骨で少々不釣り合いなジョッキを抱えるようにして話す姿はさながら小動物である。
「次、俺良いかい? マシューってんだ。立ち位置は中衛ってとこかな。援護を中心に立ち回るのが基本だが、必要に応じてこいつも使う」
と、腰の短剣を引き抜き危なげなく手元で何回転かさせ、再度ベルトに通して見せた。
「最後に俺だな。この戦士団のリーダー、ガイノだ。前衛、アタッカーだな。戦場ではハンドアックスを使う。属性は土だが魔法はからっきしだ」
言い終えたガイノがエールをあおると、三人の視線がレグルスに集中する。
「レグルスだ。大層に呼ばれちゃいるが、しがない剣士でしかない。魔法は全く使えない。以上だ」
レグルスがことさら素っ気なく答えると、挨拶も済んだと早速オーク狩りのブリーフィングが始まる。
酒をあおりながらのブリーフィング。
伝説の剣士を招き入れたと上機嫌のガイノ、緊張で時に声を裏返しながらも積極的に意見を言うオルティス、上手く話を回しながらも飄々とした語り口調は崩さないマシュー。
彼らの全く悪意の含まれない笑いや、かと思えば目を見張るほどの真剣な眼差しに、レグルスは在りし日の自らを重ねながら、夜は更けた。
翌日。
昼食を終えた四人は城下町からほど近い草原にいた。
アルカダイン帝国はその名の通り帝王を君主とした国であるが、国土は貴族によって収められた領土に分割される。絶対君主制を敷き、帝王の地位を確かなものとしながら、地方では貴族による政治の自由がある程度認められた。
このあたりはツェーザルハルト子爵領である。つまり、ここはツェーゼルハルト城の城下町といえる。
さて、ツェーゼルハルト家は子爵という低位な貴族ながら広大な領土を与えられている。緑豊かで、海はないが小さいながらも川もあり、帝王の座する首都アルカスにもほど近い。しかし、他の貴族から妬まれはしない。
なぜなら……
「この辺りはラグア森林から漏れ出る魔物で常に討伐依頼が出てる地域だ。この辺で連携の確認といこうや」
馬車の荷台、文字通り膝を突き合わせてガイノが言った。
三人しかいないながら戦士団を名乗るだけあり、馬車くらいは所有していたようだ。因みに、御者台にはマシューとオルティスが座っている。二人だけだというのに、ガイノの大柄な身体のせいもありレグルスには荷台が手狭にすら感じられた。
「十時の方向、ビッグホーンボアの群れを発見しました! 7体です! 先制します!」
御者台からオルティスが敵影の発見を伝え、同時に風魔法での先制を宣言する。
「神よ、彼の者に加護を与えたまえ。大地に根付く草花の様な力強さを『フォース』!」
次いで、マシューの詠唱が聞こえる。基本4属性に由来しない、無属性の強化魔法。攻撃の威力を強化する魔法である。
「いきます! 風の子等よ、わが名のもとに集え。そよ風と共に敵を討て『ショット』!」
風属性の詠唱は、オルティスである。二人とも全文を詠唱しており、草花と詠唱された『フォース』もそよ風と詠唱された『ショット』も、最弱の魔法に位置する。
しかし、もたらされた結果は違っていた。
ブヒィィという耳障りな鳴き声を上げ、ビッグホーンボアの群れのうち直撃した一頭の背部の肉を大きく抉り取ったのである。更に後方の一体にまでダメージを与え、その肩からは血が噴き出ていた。
「よっしゃあ! 暴れるぜ!」
ガイノは荷台から飛び降りると、ハンドアックスを両手持ちにし地面を踏み込む。
瞬間、地面が脈打つように揺れたかと思うと大きく反動をつけてガイノを打ち出す。
先程まで数百メートルは離れていたビッグホーンボアの間合いが、ガイノの地面に打ち出されるように数歩走るだけでハンドアックスの必殺の間合いだった。
「ひとーーつ!」
袈裟切りに振り下ろされたハンドアックスは速力とその切れ味でボアの首を吹き飛ばした。
先程のオルティスの魔法で背中を抉られた一体はいつの間にか横転し、痙攣している。その奥、肩を抉られた一体も満足に踏み込めないからか得意の突進を繰り出せず、右往左往しているうちに「ふたーーつ!」というガイノの咆哮にも似た声と共に切り捨てられた。これで残りは4体。
「風の子等よ、わが名のもとに集え。そよ風と共に敵を討て『ショット』」
先程と同様の詠唱によって打ち出される最下級風魔法は4体の内1体の頭を吹き飛ばし
残り三体はいつの間にか間合いを詰めていたレグルスの舞うような剣技によって切り刻まれていた。
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