表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜の双翼伝説  作者: 韮塚雫
第一章 過去、そして未来へ
7/19

第一章 二幕(1)

長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。


本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。

 あの日から、二年という月日が流れた。

 レグルスは、アルカダイン帝国の城下町に宿をとっている。

 現在ザクハ大山の探索権を所有するアルカダイン帝国は、冒険者として金を稼ぐなら最適である。常時発生する魔物の討伐依頼に加え、ザクハ大山の探索そのもの、探索団や商人の護衛などの依頼が大量に発生していた。


 ここで少し、この世界の地理について触れたい。

 レグルスの滞在するアルカダイン帝国は、世界を二分する大国である。

 一般に流通する世界地図を広げると、地図上のほぼ全てを一つの大陸が埋め尽くす形になる。その大体左半分が帝国領という広大さだ。

 しかし帝国領の南部には東西に伸びるアルカダイン連峰があり、その向こうは探索不可能とまで言われる大森林が広がる。広大にすぎる国土に対し人の住める範囲はある程度限られる。

 対する大国、ラフィル王国は大陸の右半分を占める。しかし大陸は右下が大きく抉れ、海を挟んでクシャナ大陸がある。そのため、大陸の半分といえどそこまで広くはない。

 そして大陸のほぼ中央、二つの大国を分けるようにザクハ大山がそびえ立つのだ。その頂は見えぬほど高く、未だ登頂したという記録はない。

 アルカダイン帝国とラフィル王国は数年おきに戦争を繰り広げ、領土の取り合いと併せてザクハ大山への入山権を奪い合っていた。ザクハ大山は石炭や鉄などの資源の宝庫だからである。

 そのため、冒険者は戦争があるたびに勝った国に移動することになるのだ。


 最後に、国土は広くないが大きな影響力を持つクシャナ大陸のクシャナ協議会。

 クシャナ大陸にはクシャナ山があり、魔力鉄はそこからしか産出しないため輸出による大きな財力をもつ国である。さらには全世界の冒険者の後ろ盾であり、ザクハ大山を通らない場合の海路での国家間運輸の全てを取り仕切る。冒険者という戦力を持つことと、クシャナ大陸に攻め込んだ隙に背後を突かれる危険から、二大国はクシャナ協議会と、ひいては冒険者と波風立てぬ関係を続けている。

 戦争を繰り返すアルカダイン帝国とラフィル王国、そのどちらもとパイプを持ちつつ、中立を貫くクシャナ協議会。世界の三つ巴ともいえる様相は、すでに数百年という単位で継続している。


 レグルスは宿を出ると、冒険者ギルドへ向かう。

 活気溢れる城下町は多くの人が賑わい、商店からは主人の客引きが響く。其処此処の料理屋からは鼻腔をくすぐる良い匂いが漂い、露天も数多い。

 レグルスは香ばしい香りにも熱心な客引きにも脇目も振らず、ギルドの門をくぐった。

 一瞬、無数の視線が刺さり、すぐに霧散する。

「Sランクだ。依頼を確認したい」

 受付に素っ気なく伝え、コツコツとカウンターを指で弾いた。

「っ、はい。現在Sランクの依頼はございません。Aランク以下でしたらご案内できますが」

 受付の女性は、レグルスの容姿を確認すると弾けるように答えた。

 レグルス。元竜の双翼メンバーにしてSランクの冒険者。

 漆黒のマントを翻し、同じく黒を基調とした鎧に身を包む、双翼が右改め『漆黒』と呼ばれる男。

「なぁ、あいつ誰よ。Sランクってことは、ちったぁ名の知れた冒険者だろ」

 雰囲気を読んでか小声で、一人の男が傍らの、恐らく仲間に尋ねる。

「知らねぇのか……まぁ、お前はここで長くねぇからな。あいつは……」


 2年前にゴールドドラゴン討伐の依頼を受け、その後消息不明となった竜の双翼、その片割れレグルス。

 彼は1年ほど前にこの街に現れた。


 一人で。


 元竜の双翼だけあって、達成する依頼はどれも高難度。しかも報酬金の大きなものばかり。しかし、端から見て彼は金を使っているように見えなかった。

 取り憑かれたようにひたすら依頼を達成する姿は、畏怖の念を抱かせた。


「おう、双翼の右ーいや、今は漆黒だな。噂は聞いてるぜ」

 一人の男が、レグルスの肩に肘を乗せるように隣に立った。

(命知らずな……)

 そんな、馬鹿を見るような空気が、そう広くないギルド内に広がる。

「……」

 レグルスは馴れ馴れしく声をかけてきた男を睨みつけ、視線を戻す。

「俺はガイノってんだ。小さいパーティだが、リーダーをしてる。あんたに悪くない話を持ってきたつもりだ」

「……Aランク依頼からで良い。一番報酬のデカいのだ」

 レグルスは無視を決め込み、受付に伝える。

「そう邪険にするなよ。報酬は5000Gだぜ」

 再度、レグルスは男に目をやった。敵意を少し薄め、興味を足したような視線。

「……話せ」

「そうそう。まずは聞けって。依頼はオーク集落の討伐なんだがな、何人もの冒険者が失敗してる。遂にAランクパーティが帰ってこなかったことをうけて、Sランク依頼になったって話しだ」

「そうか。それで?」

 よく聞く話だ。レグルスは素っ気なく対応しながらも耳を傾ける。

 5000Gというのは願ってもない話だ。それだけあれば足りる。

 依頼の内容にしても、オーク集落の討伐が大体Bランクがあることを思えば、危険度に比してのランク調整といったところだろう。二段階の上方調整はそうあることではないが、全くないことでもない。

「俺たちはその依頼を受けてるんだが、このランク調整は詰まるところオークキングの発生を危惧したもんだ。そこで、戦力の増強を図りたいって訳さ」

「俺の取り分で5000Gか?」

 レグルスが初めてガイノと名乗った男に向き直る。ガイノはレグルスの言葉に頷いた。

「おうよ。依頼としては10000Gだから半々の形だ。人数比ではなく、綺麗に折半で良い」


 しばしの沈黙。

 レグルスが思案に時間をかける中、ギルド内の荒くれ全員も息を飲んだ。

 あの、漆黒である。一人での活動しかしてこなかったが、思えば誰も誘いはしなかった。

 返答は……

 本来関係ないはずの、おおよそ視界にレグルスを収める全員が、文字通り固唾を飲む。

 対してレグルスは周囲になど目もくれず、考えていた。

 5000Gの依頼は願ってもないものである。そもそもソロで受注できる依頼では、どれだけ高難度でも報酬は多寡が知れる。

 頭の片隅に、今は亡き相棒が掠める。あいつ以外と組むことに対する拒絶と、迅速に目的を達成することの意義。

 揺れた思いは、実際には数瞬の間をもって一方に振れた。

「……その申し出、受けても良い」

 レグルスが、スッと右手を伸ばす。

「そうだな、他をあた……っっ本当か!? いや、ありがたい! 早速メンバーに紹介しよう」

 半ば以上に諦めていたガイノが慌てて右手を握り返し、固く握手を交わす。固く握られたままブンブンと振られる右手。レグルスの目には早くも少しの後悔が滲んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ