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竜の双翼伝説  作者: 韮塚雫
第一章 過去、そして未来へ
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第一章 一幕(6)

長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。


本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。

奴がいない時間が増えた。


どうやら遠出でもしているのか、丸一日不在にすることもあるようだ。




時間感覚は完全に失われているが、半年程度は経っているものと思われる。


あまりに長く監禁生活を送っているが、従順に監禁されていることで監視の目もだいぶ緩んでいる。


もしくは、何か事情が変わったのか。




屈強な男が扉の前に常駐していたのが、ここ数日不在だ。その分、一般職員のような人間が房の前を歩く姿が確認できる。


独居房と採血等が行われる実験室の往復だけの生活に代わりはないが、人やそれ以外を見かける機会が増えている。


口輪を付けられたゴブリンの姿を見たときには肝を冷やした。


奴はゴールドドラゴンやワイバーンと共に行動していたが、ゴブリンは同様に使役されたモンスターであろう。

モンスターを使役する魔法というのは聞いたことがないが、お得意の魔法薬の類だろうか。



「配置換え、お前はどこだったよ」


「王国に異動だとよ。そっちは」


「俺もだよ。帝國に残るのが貴族組だけって噂は本当らしいな」




雑談しながら廊下を歩くのは、鎧に帯剣という戦闘向けの出で立ちの男二人だ。


模範的被監禁者であった報酬としてか、このような情報元が増えたことは幸いである。


とはいえ、今の情報は聞き逃せない。




(俺の血から作った魔法薬が完成したか?これ以上は敵に塩を贈り過ぎるな)




アルバーは手元で小さな水球をグルグルと動かしながら思案に耽る。


血液を魔法薬に精製するなどという聞いたこともない研究には数年を要すると仮定して、それまでは身の安全が担保されていると考えていたが、どうやら時間的な猶予はなくなったらしい。


目的は不明だが王国まで大規模に移動するというのもキナ臭い。


魔法薬の影響下で魔法を行使することで魔力コントロールの訓練をしていたが、どうやら情報収集、もとい修行生活はそろそろ終わりらしかった。




そうと決まれば、行動を起こすべきだ。


アルバーはまず、薬の投与時に細工として腕に薄い水の膜を形成しておく。


水の膜を張る防御魔法を極限まで薄く形成し、身体に密着させたイメージだ。


これで注射された薬は身体に侵入せず、水の膜に取り込まれることになる。


あとは小瓶に薬の成分を集めておけば、いずれ何かの役に立つだろう。




3日も細工を続ければ、薬も小瓶に一本分溜まって魔法も十全に扱えるまでに回復した。


問題は、大規模に施設を破壊しこの組織にダメージを与えてから逃亡するか、可能な限り秘密裏に脱出するかだが、アルバーは後者を選んだ。




ゴールドドラゴンの所在が不明である以上、藪を突く必要はない。


ましてやこの組織は王国にまで手を伸ばして活動しているようだ。


施設を破壊したところでどれほどのダメージを与えられるか不明な上、少なくとも組織についての有益な情報は紛失されることになるだろう。


個人的な鬱憤を晴らす以上の効果は薄いと判断すべきだ。



そうと決まれば、あとは行動に移すだけである。

準備の整った翌日の早朝、定刻通りの注射の時間。


「恐らく半年以上の付き合いになると思うのだが」


注射器を片手に律儀に消毒等の準備をしていたであろう研究員風の男の背中に声を掛ける。


「結局、君の名前も声も知らぬままだったね」




言い終えるが早いか、白衣に身を包んだ男はドサリと音を立てて崩れ落ちた。




「さて、お帰りはどちらかな」


周囲を見張っていた屈強な男たちが剣を抜き身構えたーー





「これは、魔力路が広がったのか」


なぜ、こういった後ろ暗い集団の研究所は一様に薄暗い密室を好むのだろうか。


例に漏れず薄暗い部屋の片隅には、見張りの男3人が後ろ手に縛られ口輪を付けられている。


その部屋にあるいくつかの資料を回収し終えたアルバーは自身の手のひらをマジマジと見つめながら独りごちた。


どうやら長く魔力の流れを阻害され、その上で無理矢理に魔法を行使するという力技を続けたことにより、体内の魔力路が拡張されたようだ。


アルバーの膨大な魔力量と魔法使いとしての高い実力、いまだ発展途上にある若さがもたらした結果であり、甚だ人にオススメできる方法ではないが。




この建物を歩いた経験は殆どないが、それでも長く囚われていると観察する機会は少なくない。


薄暗く窓のない廊下が円形に繋がる回廊型の施設であり、全ての扉が同じ外見をしている。これは扉の中の部屋を判別しづらくするセキュリティだろうが、その目論見は見事に成功している。


資料がありそうな部屋も、外に繋がる扉も判断がつかないのだ。




「索敵しつつ、虱潰しか。いざとなれば壁に風穴だな」


監禁されていた間に着せられていた簡素なシャツの上に剥ぎ取った白衣を雑に羽織り、静かに部屋を出る。


迅速な無力化のお陰か、従順なる被監禁者の凶行は未だ知れていない様子だが、時間の問題だろう。




いくつかの部屋はロックされており、ロックされていない部屋は職員の休憩室や食堂のようなスペースばかり。


扉はそれなりの耐久らしく、鍵を焼き切る試みは監禁生活ですでに実施済みで失敗に終わっている。無論、魔法の規模を上げれば不可能ではないが、密かに脱出するという目的と乖離するだろう。


想像の何倍も広大な施設に辟易としていると、この脱出劇のスタート地点となった部屋の方向から怒声やドタドタと人の走る音が聞こえだした。




ここらが潮時かと最後にするつもりで扉を押すと、ロックされた固い感触と同時にか細い女のこえが返された。




「そこに誰かいるの?」

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