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竜の双翼伝説  作者: 韮塚雫
第一章 過去、そして未来へ
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第一章 一幕(4)

長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。


本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。

 アルバーはヒヤッとした空気を感じ、目を覚ました。


 徐々に意識が覚醒すると、身動きが取れないことに気付かされる。




(ここは……?)




 どうやら硬い寝台に寝かされているようだ。


 手足がベルトで固定され、眼前には煌々と青白い明かりがスポットライトのように自身を照らすが、室内に明かりとなるものは他に存在しないようである。そのせいで周囲は薄暗く、室内の全貌を把握することはできない。


 数回身動ぎしてみたところで身体を動かすことができず、ベルトを焼き切ろうと無詠唱の魔法式を組み上げるが、魔法式は組み上げられたにも関わらず魔力を込めることができない。




(どういうことだ……魔力が霧散する?)




 魔法がレジストされたときの現象に似ているが、外部から魔法的な干渉を受けた実感がない。




「おや、目が覚めましたか。どうやら薬剤への耐性は一般的な成人男性と大差ないようですね。想定通りのデータです」


 ヨレヨレの白衣に身を包んだ男が、暗闇からにじみ出るかのように現れる。




「あぁ、手厚い歓迎痛み入るよ。私はアルバー、しがない魔法使いだ。こちらへ招いてくださったホストはあなたかな」


 かろうじて自由の効く顔だけを声のする方へ向けたアルバーは、笑みすら浮かべて言い放った。




「これはご丁寧に。私はカール・ノイマン。今現在名乗るほどでもございませんが、しがない科学者をしてございます」


 ノイマンと名乗った男は枯れ木のように細い身体を大きく揺らしながらゆっくりと寝台の傍らまで歩み寄ると、柳のように背中をしなだれさせてアルバーの顔を覗き込んだ。


 その双眸は大きく見開かれ、口角は歪なほどに上へと歪んでいる。




 その下卑た笑みに眉を顰めたアルバーが、腕に鋭い違和感を覚えた。


 視線のみをそちらへ送ると、アルバーの想像通り注射器が生えている。




「高名なアルバー殿とのお話は興味深いですが、時間はいくらでもございますのでね。今日のところは今しばらくお休みください」




 強烈な眠気に意識を持っていかれないよう、こめかみに力を込めるも虚しく。


 アルバーは覚醒から数分で意識を手放した。






 あれから何日が経っただろうか。


 薬による強制的な睡眠、ノイマンと名乗った男の気まぐれで忘れられる食事、外の見えない狭い房は完全に日付間隔を消失させていた。


 少なくとも数ヶ月という期間、アルバーはここに監禁されている。




 長い監禁生活で、男のこと、あの日のことについて少なくない情報を手に入れていた。


 男は文字通り科学者であり、魔力を乱れさせ魔法の使用を妨げる薬を開発したという実績でパトロンを得たようである。


 魔法の使用を妨害するためには、魔法使いによる常時監視と魔力による妨害が必要であることは世界の常識だ。


 魔法式の構築段階で異なる属性の魔力を割り込ませることで比較的簡単に魔法の発動は阻害することができ、そのために全ての魔法使いは一定の評価を得ているとも言えるし、強力な魔法使いが正当に評価されていないとも言える。


 魔法使いの犯罪者を安全に収容するために、微弱でも魔法を扱える人間は国に召し抱えられるチャンスを得ることができ、簡単に妨害されるという都合上、魔法使いが戦時下の戦力として評価されるのは後方からの超大規模魔法の使用など限定的な場面に限られる。

 このことから、魔法使いは所詮魔物狩りしか出来ない存在だと軽んじる層も少なくはない。


 しかし、この薬の効果が額面通りのものであるならば、魔法使いの評価はもうワンランク下がることになるだろう。


 少なくとも弱い魔法使いが国に召し抱えられるチャンスは減少し、魔法使いの無力化は全て投薬に頼られることになる。




 ともすれば国家戦略を変貌させる可能性もある薬品が、少なくともアルバーの耳に入るような陽の目を見ていない時点で、明らかに後ろ暗い集団がバックについていると考えて間違いない。


 しかし、常ならばギルドに報告すると同時に管轄が国に移管されるであろうレベルの一大事に対し、そんなことは関係ないと断じることができるレベルの事態が起きていた。




 あの日のゴールドドラゴンの強すぎる魔法耐性は、かの科学者の技術の結晶らしい。


 さらなる完全な魔法耐性、魔法完全無効化という極地に至るため、自分は捕らえられ、検体とされているようである。


 ギルドにまで太いパイプを持ち、偽装された依頼を作成して我々をおびき寄せたのだ。




(ありがたいのは、聞いてもいないことをベラベラと話しだす歪んだ自己顕示欲だけだな)




 アルバーは手元の手帳に今日新たに仕入れた情報を手早く書きつけると、異次元に収納する。


 ここ数日、魔法が使用できるようになっていることは未だバレてはいないはずだった。


 アルバーの魔法使いとしての能力を高く評価してか、あの男は薬の効果時間については神経質に管理していた。


 研究に没頭すれば食事が運ばれないことはあったが、一日一回の注射については欠かされたことがない。


 それでも魔法が扱えるようになったのは、アルバーの膨大な魔力による完全な力技によるものだった。




 外部から異なる属性の魔力を割り込ませる通常の妨害と異なり、魔力が強制的に散らされる薬による妨害に慣れなかったが、散らされてしまうことも想定して大量の魔力を垂れ流して魔法を使うことで簡単な魔法であれば発動が出来るようになっていた。




 使用できる魔法はごく一部、それも規模の小さなものだけであり、魔力を大量に使用することで息切れも早い。


 安全に逃亡するためにはあまりにも心許ない状況に、アルバーは当分の監禁生活を覚悟していた。

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