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竜の双翼伝説  作者: 韮塚雫
第一章 過去、そして未来へ
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第一章 一幕(3)

長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。


本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。

「くそっ、アルバー! 引いた方が良いんじゃねぇか!」


「それが出来るなら、とうにしている!」




アルバーは今や目を凝らさねば確認できない距離にいるレグルスに対して声を張って応えた。


ゴールドドラゴンが強い事など分かっていた。


炎の魔法は元より、風の魔法は翼で無効化されると予想し、土魔法の物理的な威力が通用するとも考えてはいなかった。




しかし、この事態は想定外である。


「当たってダメージがないのではなく、直前に霧散するとはな」


詠唱を破棄して発動した水の定型魔法が、鱗の一枚を湿らせることもなく消え失せるのを確認する。


ある意味で見慣れた光景ではあるが、これは異常な事であった。


「グルアァァ!」


ゴールドドラゴンは水弾を無効化しながら、一瞬ひるむような様子すらなく唸り声と共に身をよじる。


大木の幹ほどもあろうかという尻尾が轟音と共にアルバーを襲う。


この間、魔法を放ってからわずかに数秒である。




「地に眠る力強い…くっ」


土の非定型魔法による防壁を張ろうとし、しかし間に合う訳もなく飛んで避ける。風の定型魔法、飛翔の魔法による飛翔である。


「威力の問題だとしても詠唱させてもらえないし、辛うじて効果があるのが土魔法の物理的な威力とは」


四属性を行使するアルバーが最も苦手とする土の魔法で、一度だけダメージを与える事には成功していた。


頭上から巨岩を降らせながら、少しふらつかせた程度の物をダメージと呼ぶならば、ではあるが。




アルバーがゴールドドラゴンと向かい合い、更に数時間が経過していた。


風の無詠唱魔法による回避と、土魔法で作り出す僅かな段差や土壁による妨害、彼の戦闘センスと技のレパートリーでなければ、恐らく数分と持たずに戦闘は終了していたはずである。


もちろん、ゴールドドラゴンの勝利という結末でもって。




「っだりゃあ!」


レグルスは何度目か分からない気合を込めた唸りと共に、何度目か分からない袈裟切りを振り下ろす。


何体目か分からないリザードマンが地に伏したところで、最後の一体であったと気付いた。


「っ、相棒!」


もはやゴールドドラゴンの唸り声が聞こえるだけとなってしまった彼我の距離を、レグルスは駆けだす。


リザードマンと戦い続けて数時間。既に小鳥の声は夜明けを伝えようとしている。


「なんだってんだ、まったく」


それでも、レグルスはどこかで楽観視していた。




レグルスは強い。

およそ敗北らしい敗北を経験したことのない彼が勝てないと思わされる相手、それは師匠とアルバーだけである。


本来()()使()()()()()()()レグルスであるが、アルバーは相性の不利を理解した魔法を巧みに操る、まさに天才なのだ。

距離を取れば天才的な発想力で繰り出される魔法が襲い掛かり、まともに剣も振れなくなってしまう。

流石に全力で戦えばどうにかできるかもしれないが、肉体的には常人のアルバーを相手に全力で身の丈ほどの剣を振り下ろすことは出来ない。


では模擬戦の範疇で体力が尽きるまで小競り合いを続けようとすれば、風魔法が周囲の落ち葉や砂を巻き上げて視界を奪い、足元に小石一つほどの、しかし確実に足を取られる配置と大きさで段差を作り、握る剣の柄が火属性の魔法によって高熱を帯びる。


先に焦れるのは確実にレグルスであった。


勝てたこともなければ、勝てるはずもない。そんな相棒が負けるはずはない。


それが、レグルスの本心だった。




しかしレグルスの目に映ったのは、今までの幻想を打ち砕くものだった。


曰く最強の魔法使い、曰くドラゴン狩り、曰く……竜の双翼、双翼が左


最強と信じた相棒は、ゴールドドラゴンの前足に押さえられ地に伏していた。




「おや、千体は準備したはずですが……」


するはずのない第三者の声に、レグルスが声のした方を確認する。


ゴールドドラゴンより僅かに高い、雲に隠れようかというほどの上空、黒いワイバーンに男が騎乗していた。


男が、心底驚いた表情でレグルスを眺める。


「凄いものですね。千のリザードマンを剣で下すとは。大きな負傷も見当たらない」


嫌らしい目つきが、悪寒と共にレグルスの全身を舐めた。


「残念です。あなたも良い検体になりそうなものですが、いかんせん研究者とは忙しいものなのです」


ひとしきりレグルスを眺めた男は、ひとまず満足して本題である獲物に視線を戻した。


「あなたもいずれ研究したいものです――」


そう言い残すと、アルバーを前足に掴んだゴールドドラゴンと、追従するワイバーンが飛び立つ。




「お前は誰だ」「何が目的だ」「ゴールドドラゴンはお前の手先か」


言うべきことを何も言えず、レグルスはただその様子を眺めることしか出来なかった。


ゴールドドラゴンの射貫くような視線に身が竦み、身動きが取れず、声も発せなかった男は、戦場に立つこともなく敗北した。




夜明けの空を呆然と眺めるレグルスは、こうして相棒を失った。



のちに、ゴールドドラゴン事件として世に広まり、以後一年余りは外出を控える命令までなされた。


瞬く間に伝説を作らんとしたパーティが、一夜にして解散した全貌である。

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