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竜の双翼伝説  作者: 韮塚雫
第一章 過去、そして未来へ
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第一章 一幕(2)

長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。


本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。

「これで何度目だ。大量のリザードマンからの待ち伏せなんて、聞いたこともないってのによ」

 二人は幾度も下山しては、また入山した。アルカダイン連峰で過ごして、すでに一月は立とうとしている。

「ふむ……確かに、こう襲撃が続いては討伐も遅れる。それに、ほとんど必要ないとはいえ物資も随分目減りしている。特に食事がな……」

 今は次の山に入る前に、麓で野営していた。とはいえ、二人という規模ではほとんどキャンプである。

「リザードマンの肉にも飽きたぜ、俺は」

「持参の食料はもう半分もない。文句があるなら食うな」

 今日の夕食はリザードマンの肉を串焼きにしたものである。昨日の夕食もリザードマンの串焼きで、その前もそうだった。

「文句はねぇよ。とはいえ、こうも続くとな」

 レグルスが三本目のリザードマン串を食べきり、手先で串を弄びながらいった。

「……我が背嚢の懐を広げよ」

 詠唱に合わせてアルバーの左側の空間に縦に亀裂が走ったかとおもうと、亀裂は数センチの口を広げて向こう側に暗黒の空間を映し出す。

 アルバーは亀裂に無造作に腕を突っ込むと、赤い果物を取りだした。

 これはアルバーが最近になって完成させた魔法であり、異空間に簡単な食料や日用品を保管している。

 容量も小さく、生き物は収納できず、不便も多いが使い勝手の良い魔法である。

「ほれ」と、相棒に放り投げる。

 レグルスは受け取ったリゴの実を服の端で軽く拭うと、シャリッと小気味よい音を響かせ一口かじった。

「それを食ったら今日は寝るぞ。この山以降は山の規模が一気に落ちる。この山で何かある可能性は高い」

 言いながら、アルバーは自分の食器を水魔法を駆使して洗い、片付けと寝床の準備をする。併せて、レグルスの分の必要な荷物も異空間から取り出しては傍らに並べた。

「んぐっ……あぁ、見張りは先に俺で良い。いつも通り三時間だろ」

 レグルスは出された荷物を使って片づけや準備に手をつける。いつも通りの、野営の流れである。阿吽の呼吸によって、手早く寝床の準備などが完了した。


(さて、ここまでは思いの外時間がかかったが、次の山以降は標高も低く小さい山がいくつかしかない。となれば、これで当たりだと思うが……)

 先に休む権利を得たアルバーは地面に申し訳程度に敷いた布を寝床に空を見つ、明日以降に思いを馳せた。

(そもそも、ゴールドドラゴンはここ300年は発見報告のないドラゴン。300年前の記録はほとんど伝説の域で、いわく最後の知恵ある竜……)

(こんな辺境で、ある日突然沸いて出るものではないと思うんだがな)

 火を見守りながら見張りをするレグルスの背中を確認し、アルバーは意識を手放した。


 竜

 あらゆる歴史書で語られる存在であり、人に知恵を与えた存在とも、魔物を作り出した存在とも言われる。

 竜と呼ばれた存在は人よりも知恵があり、世界の深淵を覗き、決して倒すことは出来ないと言われた。歴史書では古くなるほど頻繁に出現し、新しくなるほど成りを潜める。同時期に、人の英雄が現れ、国が出現し、魔物が現れる。だからこそ、人に知恵を与え魔物を生んだと言われるのである。

 しかしながら現代においては、ドラゴン種の魔物が竜の近縁と言われ、その片鱗を残すばかりである。


 火が小さくなる頃に拾った枯れ木を入れる。レグルスは周囲に気を配りつつも、揺らめく炎を眺めていた。

(まぁ見付ちまえば、相棒の魔法でさくっと倒して終わりだな)

 甘い考えと言えばそれまで、しかしそんな思いで、レグルスも夜を明かした。


 翌朝、朝日が昇り、準備が終わる。いつも通りの朝。剣を握りしめて探索に進む。

 レグルスはそう信じていた。いや、信じるなどというほどの想いもなく、そう考えていた。

 だが、そうはならなかった。

 突然吹き荒れた突風に、レグルスは無理矢理起こされた。

「なんだっ?!」

 傍らの剣を握りしめ、1秒とかけずに意識を覚醒させる。

 体に異常はない。視界の端に杖を構える相棒。サッと周囲を確認するとアルバーは最後に確認した衣服のままであり、自分が出遅れたわけではなさそうだ。意識は正常に覚醒している。問題ない、戦える。

「向こうからお越しくださったんだ。歓迎の準備は良いな」

 返事をしたアルバーが、杖を向けた相手。

 ゴールドドラゴンが、そこにいた。


(おいおい、まじかよ)

 突然のゴールドドラゴンとの邂逅から一時間ほどが経ち、レグルスは内心毒づく。

 視界を埋め尽くさんばかりのリザードマンは数えるのも嫌になる。しかも今までに何度も襲われたリザードマンだけではない。3メートルはあろうかという巨体に人間ほどの棍棒を握るリザードマンファイター。小型の陸型ドラゴンに跨がり、弓を構えるリザードマンレンジャーも少なくない。

 足下に血の海をつくり、すでに何十とリザードマンを狩った。確かに数は減っているはずである。

 しかし今も、リザードマンファイターの一体が振り下ろした棍棒を紙一重で避け、前方からの矢をたたき落としたところだ。整った陣形が崩れる様子は微塵もない。

 いつもなら、こうして敵を押さえ耐えている間にアルバーが大魔法の詠唱を終え、一網打尽にする流れである。

 しかし、この場においてそれは望むべくもなかった。

 少しずつ戦域が離れ、今や100メートルは前方。そこで、アルバーはゴールドドラゴンを相手に苦戦していた。


 朝焼けの中で突然開幕した、ゴールドドラゴン率いるリザードマンの軍団との戦闘。

 苛烈を極める戦いの炎は、終結どころかより苛烈に、凄惨に、燃え上がっていった。

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