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竜の双翼伝説  作者: 韮塚雫
第一章 過去、そして未来へ
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第一章 三幕(4)

長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。

本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。

 

「朝市は正直ちょっとした観光だ。目的の街はもう少し王都に近い」

「そうなんですか?」

 ボアの煮込みを食べ終えた二人は、

「あぁ。とはいえ、ここからは世界中に馬車が出るとも言われるし、そこまで日数はかからない」

 人の波を文字通りかき分けながら、まっすぐ向かったのは朝市の喧騒から取り残された酒屋だった。

「この街での用事は『この店に寄ること』それだけだ」


 古すぎるほどに古く見える建物の扉が音もたてず滑るように開くと、薄暗い店内には一人の男が番台に背を向けて座っていた。



「ようこそナックルズ酒店へ」

 酒店に似つかわしくない、冒険者風の装いの男、ナックルズが番台に背を向けて座っていた。



「一年前半前に死んだと聞かされた時には、何の冗談かと思ったもんだったが……」

 この酒店の店主であるナックルズは巨体と呼ぶべき体躯を小さくまとめるようにして資料の一つに目を落としていたが、一頻り目を通して顔を上げる。

 眉間に寄せられた深い皺を伸ばすように眉根を揉み、せっかく伸ばした皺を一際深くして相好を崩した。

「ドラゴンを飼いならす秘密組織ねぇ。お前さんからの持ち込みじゃなかたら笑い話にしてるところだ」

 店内を無人にして奥の応接スペース、オーク材の大きなテーブルにはアルバーが盗み出してきた資料の一部が広げられている。

 笑い話に――というものの、大きな事件の香りを楽しんでいるのか、友人の無事を喜んでいるのか、はたまた荒唐無稽な話を実際に笑っているのか、会話の内容に相応しくない表情のナックルズ。

「戦力もさるものだが、規模の大きさが異常だ。バックに誰かついてるのは間違いない」

「なるほど、それでお前さんは死んだことにされてるわけだ。モテモテだねぇ」

「モテモテ?」

 テーブルを形式上眺めつつ、話に入れずにいたダルクが質問で割って入る。

「死人が歩いてりゃ噂になる。ましてや新進気鋭のSランク、四属性魔法使い様だ。噂になれば追手を放つことが出来るってわけだな」

「おかげさまで、帝國ではギルドで小銭を稼ぐことも出来なかったが、王国でも噂は健在か……」

 現在、アルバーは死亡したことになっている。

 アルバーの死亡を受けて帝國騎士団が派遣され、その間は外出を控えるように異例の触れまで発行された。2度行われたゴールドドラゴン捜索も発見に至らず、現在という流れである。

 アルバーがここまでの旅程でギルドを利用しなかった理由はここにあり、逃走生活の序盤、荷馬車に同行させてもらった際にこの話を聞けたことは幸運であった。

「帝國ほど知名度も無いのに、王国方面でも有名な魔法使いが消えたらしいって状態で広まってる。言われてみれば不自然な話だ」

 ナックルズは過去の新聞をまとめた資料―というには些か乱雑な、積み上げられた新聞の束―から、いくつかの新聞を抜き取って広げて見せる。

 確かに、中身のない上滑りの内容にも関わらず、アルバーの死亡はそれなりの規模で取り上げられているようだ。

「自然発生した噂話ではなく、わざわざ死亡説を広めたと考えて間違いないだろう。まだ捕まっていた頃から死んだことにされていた辺り、俺を生かして開放するつもりもなかったわけだ」

 手に取った新聞に目を落としたアルバーは顔を歪めた。

 大規模な研究施設、死亡説流布の手管、武力、いずれをとっても強大な相手を夢想する三人を、しばしの沈黙が包み込んだ。

 すっかり冷めたコーヒーに口をつけ、一息に飲み干したナックルズが口を開く。

「相手はそれなりの規模だ。逃げを打つなら隠居するレベルじゃないと意味がないが、そんなつもりはないんだろう?」

「追われている状態で動くのは危険が伴う上、現状では相手の姿かたちも見えてない状態だ。少し潜伏して探りを入れたい」

「……分かった。やってみよう」

「恩に着るよ」

「毎度毎度面倒ごとばかり、その度に〈恩〉を着こんでたんじゃ今頃お前さんはとんだ厚着だろうよ」

 話は終いだとテーブルの上の資料を脇に寄せるナックルズの軽口に、アルバーが表情を崩した。

「違いないな」


 一夜明け、二階の一室で久しぶりに落ち着いた夜を過ごしたアルバーとダルクの二人に簡単な朝食が振舞われる。

「さて、実際問題これは相当大きな山だ。どこまで大物が関わってるのかも分らん以上、調査には時間がかかるだろう。そこでだ――」

 二人を起こす前に朝食を終えていたナックルが、食事を続ける二人に声をかけた。

「レグルスの野郎はどうする? 今じゃそれなりのソロ冒険者様だ。声をかけるのは簡単だぞ」

 これに対して、アルバーは当然のように涼しい顔でこう返した。

「あいつは腕は立つが、こういう場面じゃ目立ちすぎるし邪魔だ。一人でうまくやれてるなら、放っておいてくれ」

 かくしてアルバーは謎の組織の全貌と思惑を調べることになったのである。

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