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竜の双翼伝説  作者: 韮塚雫
第一章 過去、そして未来へ
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第一章 三幕(3)

長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。

本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。

 帝國と王国は数年に一度の戦争を繰り返している。

 各々の国としては国家運営を占う重要な戦争であるが、予定調和的な側面も非常に大きなものとなっている。

 その一つが、戦場。

 二国間の戦争は毎回、ザクハ大山の麓近くの大平原を主戦場とする。

 丁度、国同士の境界となる部分である。


 そのザクハ大平原とザクハ大山を遮るように、大きな街が存在する。

 毎回戦場となる平原に周囲三方を囲まれ、背後にはザクハ大山を見据える、その街は非常に特殊な成り立ちをしている。

 国境に位置するという立地、戦場となる平原に囲まれ農業を行えないという環境。

 政治的、地理的な背景から、この街は大陸にあって唯一クシャナ協議会が運営する街となっている。

 これによりザクハ大山へ入山し資源の収集などを行う際の護衛冒険者の斡旋、両国との流通による魔物素材の公正な取引などメリットも多い。

 更に戦争が泥沼化せぬよう、戦時に調停を務める際には調印が行われるのも、この街。


 クシャナ協議会所属、アレティアと呼ばれる世界最大都市の一つである。


「凄いですね……」

「雲まで届くザクハの異様か?それとも立派に過ぎる外壁か?白亜の協議所か?見渡す限りの人の波か?」

「全部ですよ!全部!」

 ダルクは一晩寝たことで心境に変化があったか、昨日とは打って変わって明るい表情である。

「雲まで届くとは聞いてましたが、山頂が雲に突き刺さって見えなくなってる山なんて見たことありませんし、外壁は立派だし、協議所?も本当に真っ白だし、人が多くて前が見えないなんて聞いたこともありません!」

 二人はアレティアの名物として名高い、朝市の熱気の中を連れ立って歩いていた。


 アレティアの街は大雑把に説明するならば半円形をしているのだが、人に説明する際には円形で表されることが多い。

 円の中心部には終戦の際に調印が行われる白亜の協議所が鎮座し、決して小さくない、むしろ大きなその建物は背後にそびえ円の上半分から更に広がるザクハ大山の雄大さを際立たせている。

 円の上半分にザクハ大山、中心部には協議所があり、下半分は見上げるほどの外壁に守られているというのが、アレティアを初めて歩く田舎者の多くが耳にする観光ガイドの最初の一文である。


 外壁の内側は面積の広さに対して建物が少なく、荷馬車にして5台は並べるかという大通りが一文字に横断している。

 異常なほどに幅の広い大通りは正しくこの街が、人が住まうために作られたのではなく冒険者や商人が一時的に滞在することを目的にデザインされていることを物語っており、その大通りが朝の短い時間のみ馬車の通行を制限され、朝市と化すのである。

 ザクハの魔物から採取される希少な素材、その素材の加工品はもちろんのこと、鉄製品は鍛冶の有名な帝國領アルカダインから、緻密な装飾品は王都ラフィリアから、世界中の人・物・金が、この朝市には集まっている。


「ーーと、そんな訳で、戦争終結時には近衛を引き連れたお偉いさんの馬車が悠々と通れるようになっている大通りが、露天で埋まるのがこの朝市なわけだ」

「はーっ、それでこんなに人が多いんですね」


 アルバーの説明を聞き流しつつ、ダルクは大通りの両側に所狭しと並んだ屋台や露天商の間をフラフラと歩き回っていた。

 アルバーは右往左往する内に朝市の人の波に飲まれかかったダルクの手を引き、文字通り引き連れて歩く。


「あっ!あれは何ですか?」

「ほう、珍しいな。家畜化したボアの肉を煮込んだ料理だが、王国の辺境の郷土料理だったはずだ」

 目標を定めた様子のダルクが、アルバーの手を引いてズンズンと進む。

 小さな子供ならすっぽり入ろうかという大きな鍋が特徴的な屋台の前で足が止まった。

 他の店が串焼きやフルーツ、事前に仕込まれた甘味や飲み物などを並べる中で、大量の煮汁と共に煮込まれた大きな肉の塊は確かに目を引いた。

「真っ黒ですけど、味は濃くないんですかねぇ」

 食い入るように鍋を見つめるダルクの表情は、少し前にアルバーをドキリとさせた少女と同一人物だとはとても思えない。

(よりによって、皿を返す必要のある屋台じゃないか……)

 鍋の隣の器は木製で、食べ終わったら皿を返す必要がある。食べ歩きに最も向かないタイプの屋台である。


 アルバーは朝市を観光したかったわけではない。

 しかし、用もなくこの街で一泊したわけでもなく。

 今も目的地に向かっている最中である。

 昼過ぎには乗合馬車でこの街を出るつもりでもあり、傍目から見た様子以上に気持ちは焦っていた。


 しかし、共に歩くのは12〜3歳で家族から離され、不安な監禁生活を3年以上続けていた少女である。

 どのような思いで捕らえられ、助け出され、今この場にいるのか。

 昨日の悲壮な表情をひた隠しに、努めて気丈に、明るく振る舞う彼女の様子は、アルバーにとって非常に好ましいものだった。

「気になるなら、それだけ食べてから行こうか」

 アルバーの声に、ダルクは

「良いんですかっ!?」

 今日一番の笑顔で応えた。

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