第一章 三幕(2)
長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。
本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。
魔法属性は基本四属に限らず、多種多様に存在する。
魔力の流れや魔力そのものにも一定の特徴があることが知られており、魔法の発動や属性に大きく影響する。
有名なものでは聖職者として働き口が安定しやすい聖属性魔法、戦闘以外では食品の取り扱いで身を立てるものも多い氷属性魔法、珍しい所では影を操る影属性などもあり、希少な魔法属性については研究も盛んだ。
「使役魔法の使い手は魔力そのものが生き物に親近感を抱かせる性質を持つとされているが、確かに声を聞いただけで助けなければと言う使命感を覚えた。悪用されれば強力な魔法属性だな」
「……どうして私を攫った人は、私の魔力属性?を知っていたんでしょう」
「検査はギルドが主催して、一斉に行われる。当然ながらギルドと国は情報を保有するし、有益な魔法属性の保持者が出れば噂にもなる。どこからか情報を仕入れたんだろう」
魔法属性は個人として職業選択などの指針になるが、同時に国としても有能な人間を把握し召し抱える機会を得ることが出来る。
そのため国は画一的な検査の実施をギルドに委託しており、ギルドは年に一度無償で魔法属性の検査を実施している。
「じゃあ、元々私だけが狙われていたのかも知れないですね……」
「……」
俯いてしまったダルクに対し、アルバーもかけるべき言葉を見失う。
二人は現在、乗り合い馬車に揺られていた。
ただでさえ関係性の見えない少々目立つ二人組である以上、派手に動けば人の口に上ることもあるかも知れない。
宿場となっている街に少し滞在しては旅費を稼ぎ、目立った行動はせず、かつ迅速に。
余裕をもった旅程を経て、二人の乗る馬車は帝國と王国の境目となる街を目的地としていた。
施設からの脱出後、アルバーの行動には様々な選択肢があった。
監禁されていた施設があったのは帝國領南東部、帝都からそう遠くない位置である。
不可解なのは、巨大な建造物である研究施設が申し訳程度の隠蔽で当たり前のように森の中に存在していたことだった。
この時点で少なくとも国の上層部の関与を疑う必要があり、誰が味方か分からない帝國内での行動に一定のリスクを織り込まざるを得なくなる。
ましてやアルバーにとって、かの組織に対して個人的な復讐以上の他意はない。
今後一切関わってくることがなく、安寧な生活が続けられるということであれば、こちらから関わり合いになる必要性はないのである。
しかしながらアルバーに他意はなくとも、相手も同様であるとは限らない。
始末されるような事態になっておらず、毎日の採血は続けられていた以上、アルバーの存在が未だ必要である可能性は非常に高い。
居場所が知れると追手が来る可能性があり、敵の大きさが分からない現状では軽率な行動は取りづらい。
更に、今のアルバーの傍らにはダルクがいる。
話を聞く限り、ダルクも組織にとって必要な人間だったようであるし、家族も既に死別していて帰る場所もない。
一度関わった以上は最低限の安全を担保出来ない状況で解散というのも目覚めが悪い。
帝國に残るか王国へ移動するか。
かの組織を追うか、無視するのか。
積極的に足跡を残しレグルスに見つけ出してもらうか、自分からレグルスを探すか。
ダルクを大きな街まで送り届けるか、元の移住予定であった村とやらまで送るか。
その中でアルバーは、怪しまれない程度に素早く、王国へ移動するという選択をした。
確実に信頼でき、かつ身寄りのないダルクの処遇についても頼ることが出来る、現状最も好都合な人物に当てがあるためである。
(話を聞くに馬車が襲われたのはダルクだけを狙ったものだろうが、わざわざ馬車を襲うメリットは……目撃者を残したくなかったか)
「行方不明者として捜索される可能性まで潰したかったのか?」
「えっ、どういうことですか?」
ダルクの乗った馬車が襲われた状況について考えていたアルバーの口から零れた思考の欠片を、たまたまダルクが聞き取ってしまった。
アルバーの目が一瞬泳ぐが、すぐにダルクの目を正面から見据える。
共に旅をした短くない期間では雑談の機会もあり、少女だと思っていた彼女が思いの外聡い女性であることを理解していた。
今後の人生でいつか必ず気付くことになるであろう事実を、今隠し立てする必要性について考える。
「……いや、君が捜索されず目撃者も残さない手段として、馬車を襲った可能性について考えていた。そう考えれば、馬車ごと襲った理由に納得がいく。そもそも皆殺しにしてしまうなら、馬車で関係者が集まっているのはむしろ好都合だ」
アルバーの出した結論は、全て伝えるというものだった。
少なくとも自分ならここで誤魔化されたくはない。
「じゃあ、私のせいで……」
「そういう可能性もあるというだけで、事実は分からない。だが隠蔽されていなかった施設についても、目撃されないようにするのではなく目撃者を消すつもりだったと考えれば、ある程度納得できるのも事実だ。王国行きは正しい選択だったかも知れない」
「……」
再度の無言。
ガタゴトと大袈裟なまでに音を立てる安い馬車に揺られ、結局二人は宿につくまで殆ど言葉を交わすことはなかった。