第一章 二幕(7)
長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。
本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。
一行が森に入って一時間としない内に、都合4度のオークとの戦闘があった。
いずれも歩哨か斥候と見られる少数の、しかし単独ではないオークであったが、難なく撃破出来た。
「しかし、まるで軍隊でも相手にしてる気分だ」
「統率が取れた動きじゃない分、気持ち悪いですね」
オークたちは足並みを揃えて移動し、こちらを発見すれば示し合って突撃してくる。
その様子は正しく軍隊であり。
突撃してからの動きはそれぞれが邪魔をし合うことも構わず棍棒を振りかぶり、突進し、暴れては味方同士で傷つけあっていた。
その様子はまるで子供の癇癪である。
「四体のオークじゃなくて、一体のでかいバカだな、ありゃあ」
マシューは周囲に気を配りながら、悪態をつくように吐き捨てた。
先程から何度となく戦闘を繰り返す相手の、どこかチグハグな様子は、全員の奥歯に何か苦いものを噛み締めたような不快感を残している。
「前方からオーク接近。今度は数が多そうだ」
ガイノが地面に手を当てて接敵を告げる。
森の中という環境と、オークというヘヴィ級で移動時の足音などを隠す知性のない相手に対してはガイノの土属性の魔法が優位に働く。
地面の振動から接敵を感知し、先程から余裕をもって戦闘を開始できていた。
「ここは地形が良い。俺が後ろに回り込んで、ひと当てしよう」
レグルスは身の丈ほどのブロードソードを軽く一回転させて肩に担ぎ、森に消える。
装備の重さを感じさせない移動に三人は舌を巻くが、迫りくるオークに気づかれぬように配置に付いた。
「シッ!」
またたく間にオークの背後を取ったレグルスが、溜めた息を吐き切る呼吸音と共にブロードソードを振り下ろし、一体のオークを両断する。
この時点で事態に気付いたのは、後方に位置したオークの一体のみ。
振り下ろしたブロードソードは地に着く寸前に重さを失ったかのように減速し、音もなく跳ね上がると同時にその一体の首も跳ね飛ばす。
6体で隊列を組んでいたオークはその数を4体に減らし、ようやく事態を把握したオークたちは棍棒を振り回して応戦の意思を見せる。
『ブモォォォ!』
一体のオークが雄叫びと共に棍棒を振り下ろすと、単純な重量の暴力は唸りを挙げて地面を抉る。
土魔法によって地面を大きくバウンドさせたガイノは危なげなく棍棒を回避したが、何かが爆発したかのような轟音と共に砂煙が上がると、それを合図に戦況は大きく動いた。
高速で戦場を駆け回るレグルスも敵味方入り乱れる中で細かく剣を振るい、手近なオークの腕を切り飛ばす。
本来対象を叩き潰す様に使われるブロードソードは、速度という味方を得てあり得ない切れ味を発揮している。
「風の子等よ、わが名のもとに集え。そよ風と共に敵を討て『ショット』!」
オルティスの詠唱によって発生した突風は棍棒を振り下ろしたオークの横腹を殴りつけ、体勢を崩した所にガイノが戦斧を振り下ろす。
首の半ばまでを切りつけられた事で大量に出血するオーク。
トドメをさすべく斧を振りかざしたガイノが横薙ぎの突風によって身体を弾ませると、鎧の端をこするような至近を棍棒が通過する。
直後、大量に出血し地に伏していたオークの顔面がトマトのように潰れ、ガイノの後方で味方のトドメをさすことになったオークが大きな鼻息を鳴らす。
「すまん、助かった!」
混戦の内に最早どこにいるとも知れぬ、風魔法を味方に放つという機転によって命を救ってくれた味方に対してガイノが声を張る。
レグルスに腕を切り取られていたオークはいつの間にやら首から先がなく、一体のオークは味方によって叩き潰された。
残り2体となったオークは不利になっていく戦況を理解しているのかいないのか、気にする様子もなく声を荒げて棍棒を振り回すが、内一体は足を引きずっている。
小賢しく戦場を駆け回り支援魔法をかけ続けているマシューが、いつの間にやら足の剣を切りつけていたらしい。
危なくはあったが、今回の戦闘も大勢は決した。
レグルスが一体のオークに肉薄して両断し、もう一体はガイノの魔法によって泥濘んだ地面に痛めた足を取られた隙に延髄の急所をマシューによって切りつけられ、そのまま抵抗の余地なく泥濘に身体を沈め、大量に血を流し息絶えた。
「一体一体の強さが増している。選りすぐりになってきたか」
「本陣つぅか、群れの本体が近いってことかね」
「それでも、一撃必殺で数を減らして貰えるから戦えてるって感じですかね」
装備の簡単な確認やオークの討伐証明部位である耳の回収などを済ませ、そのまま昼休憩をすることになった一行は来た道をやや戻り、開けた場所で昼食を摂る。
「オーク肉は久しぶりだ」
「足が早くて出回らんからなぁ」
「絶品な分、売値も高い。本当なら、これまでの死体は一財産だな」
レグルスが呟くと、ガイノが文字通り噛みしめるように応え、マシューはどこか遠い目をして首を横に振っていた。
簡素な焼き肉を食べながら、これまでの進行具合と接敵の位置関係から群れ本体の位置を簡単に割り出し、午後からはそちらへ向かうことになった。