第一章 一幕(1)
長期間放置しておりましたが、プロットや基本設定の大部分に手を加えて投稿を再開しようかと考えています。
本文内の重要な部分についても修正が行われていますので、ご了解ください。
竜の双翼と呼ばれる、二人組の冒険者パーティ。
パーティとしてギルドに登録されてから瞬く間にパーティランクを上げ、最高位であるSランクパーティになるまでそう時間はかからなかった。
竜の双翼は前衛一人に後衛一人で構成される。人数は少ないが、構成としてはスタンダードなパーティである。
二人は今、帝国領南部に連なる山脈のひとつを登っていた。
「この山にドラゴン種の魔物なんて出なかったはずだよなぁ」
双翼が右と呼ばれる男が、細身のブロードソードを薙払いながら言った。右から左に剣光が走り、盾を構えたリザードマンを大きく後方に弾く。
双翼が右、レグルス。パーティで前衛を務める剣士。黒の短髪に防具は軽装。武器は今のブロードソード一本である。
「あぁ、少なくとも近年で報告はない。しかし、それを言うならゴールドドラゴンなど数百年来発見報告も無かった魔物だ。生態系に多少変化があったとしても、不思議はない」
レグルスの言葉に応えるのは、双翼が左、アルバー。レグルスのやや後方に追従し、リザードマンが大きく体勢を崩した隙を彼は見逃さない。
「穿て、水弾」短い詠唱によって中空に形作られた水の弾丸は、片膝をついたリザードマンの心臓を正確に撃ち抜いた。
レグルスが前衛として敵を引きつけ、アルバーが魔法で止めをさす。
二人は十分に警戒しながら、しかし普段と全く同じ調子で、探索を進めた。
二人はゴールドドラゴン討伐依頼を受注し、討伐のために歩みを進めている。
アルカダイン帝国において近年発生した強力なドラゴン種の討伐依頼は、そのほとんどを彼らが受注、達成していた。
ドラゴン種は、世界で最も強力な魔物である。
ドラゴン種の中では比較的遭遇率の高いリザードマンであっても、個体としての危険値はC+相当である。集落が発見された場合など、討伐依頼の難易度は時にAランクともなる。これは、人里近くでも頻繁に発見されるゴブリンの個体危険値がD-、集落討伐でもCランク依頼に留まると言えば、差が分かりやすいか。
そんな危険極まるドラゴン種討伐依頼を、自ら好んで受注しようなどというのは物好き。
その中において、竜の双翼はドラゴン種の討伐も得意とし、好んで受注していた。
二人が周囲に気を払いながら山を登っていると、前方を行くレグルスがまず違和感に気付く。
「うおっ、またかよ」
レグルスはわずかな物音や気配に気付き、大きく後方に飛び退いた。
その直後、今までレグルスが立っていた場所めがけ、木々の後ろや岩陰から多数のリザードマンが切りかかる。
その後もぞろぞろと出てきて、その総数は12体。個体でも十分危険なリザードマンが一ダースもいれば、並の冒険者では歯が立たない。剣や盾を扱えるリザードマンだけで12体いれば、集落の存在も怪しまれる数である。
「業火よ、悉くを焼き払え」
危険を察知し、相棒が下がった直後、アルバーが詠唱を行う。発生した業火の魔法は前方で肢体を揺らす12体の内、ほぼ中央の4体を襲い、断末魔もなく灰にした。
「そっちは任せるぞ」
アルバーは残り8体となったリザードマンの右半分4体を視界から外し、左側4体を正面に据えた。
「りょーかいっ、と」
レグルスは応えながら、仲間の死に狼狽えるリザードマンの1体の懐に深く踏み込み、袈裟切りにする。斜めに体がズレ、その上半身が地につく頃には残りの3体はこちらを睨み雄叫びを上げていた。
「十の土柱よ、死の陣を成せ」「雷鳴轟き、我が敵を打ち据えろ」アルバーの続けざまの詠唱。先の魔法はリザードマン2体の足下より鋭く尖った土の槍を10本形成し、足の踏み場もない正しく死の陣を作った。標的とされたうち1体は体中を打ち抜かれ、もう1体も手足が抉れ死に体である。雷の魔法は手元より文字通り雷速で放たれ、1体のリザードマンを打ち据えた。回避も防御も能わず、黒い煙を上げながら倒れる。
対して、レグルスを睨むリザードマンは一瞬の攻勢を見せる。1体が飛びかかりながら剣を振り上げ、もう1体は体を深く沈めて切り上げる。さらに後ろに1体が残り、油断なく剣を構えている。
「しゃらくせぇ!」
レグルスは飛びかかる1体の首を倍は早い剣で落とし、そのまま体を沈めることで切り上げる剣を回避。振り抜いた格好のリザードマンの心臓を貫くと、その勢いを殺さず、リザードマンに刺さった剣を更に押し、後方に控えた一体に体当たりをかました。視界を覆う仲間の背中と、背中から突き出た剣先に対応できず、最後の1体が体当たりをもろに喰らい倒れたところで、すかさず引き抜いたブロードソードを首もとに突き立てる。
瞬時の攻防。レグルスは無傷でリザードマン4体を下した。
アルバー側で少し離れた位置にいた最後のリザードマンが、仲間の全滅に何を思ったか、最後の突貫とでも言うかのようにアルバーに切りかかるべく剣を構える。しかし、次の瞬間にはアルバーの手元から放たれた得意の水弾で額を打ち抜かれ、前方に倒れた。
アルバーは地水火風の四つの属性魔法を扱うことが出来る。しかも、極めて高威力かつ自在に。
それは、この世界において異例である。
人は生まれながらに使用できる魔法の適正が決まっている。そして、それは通常一種類に限られるのである。適正外の魔法でも日常生活に用いる程度ならば使えるモノもあるが、戦闘に使用できるほどの魔法は適正のある属性に限られるのだ。
さらに、魔法は大きく分けて二種類存在する。
定形魔法と不定形魔法である。
定形魔法とは、弱いものでは教科書にも載っている魔法であり、決められた詠唱と魔力コントロールによって、常にほぼ一定の効果を示す魔法だ。
不定形魔法とは、自ら考え、詠唱することによって発生させる魔法である。効果や使用する魔力量も自ら決める。
アルバーは、全ての属性において不定形魔法を使いこなす。
それによる高い殲滅力が、竜の双翼にドラゴン種のような強力な魔物の討伐を可能としているのである。
「これで何度目だ。大量のリザードマンからの待ち伏せなんて、聞いたこともないってのによ」