駄菓子屋にて
人混みを避けながら、駅舎を抜けると雨が降っていた。いつから降り始めていたのか検討もつかないが、足元の側溝には雨水が流れこんでいる。
意味もなく、頭を一度左右に振ってから、タクシーを呼ぶために手を挙げる。
話は変わるが、ネットで評判の良い自殺道具を、専門に売っている店がある。ぼくは、そこに行くために、丁度目の前に停まったタクシーに乗り込もうと言うのだ。
窓から眺めた駅舎は、いつもの様に賑わっていた。
目的地周辺に着いたので、降りた。実のところここまで来るのに、2分もかかっていない。あたりを見回してみると、真っ直ぐに続く道路と、道沿いの海が見えるだけだった。雨で精彩さを、欠いた海を眺めながら道沿いに進む。
暫くすると、一軒だけ古ぼけた家が、みえてきた。見た目だけで言って仕舞えば、駄菓子屋。もしかしたらということも、あるからと思い中に入ってみる事にした。
中に入ると、目に入ってきたのは背の高い大学生くらいの女の人だった。少し、重心をずらして立っている。ポニーテールに吊り目と少し威圧的。
「あのー、すいません。ここって......」
「多分あってるよ」
「あ、ありがとうございます」
ひとまず、ここであっている様なのでポニテさん(仮)との、話を続ける。
「その、それで、買いたいなーとか思ってたり......あ、あはははははは」
暫く学校は、不登校だったので上手く話せない。もっと、根本的な理由かもしれないけど。
恐る恐る、ポニテさん(仮)の顔を覗き込むとやっぱり頰が引きつっていた。
「君、大丈夫?」
自分の頭を、人差し指で二回叩いてからポニテさん(仮)が言う。余計なお世話だ。
「とにかくっ! ......売って下さい」
「ごめんね。そう言うのは、姉ちゃんにいって」
そう言われて、ここに来てから初めてポニテさん(仮)から視線をはずす。
子供の、身長に合わせて設置された陳列棚。その上にでたらめに、置かれた駄菓子。そして、たいして広くもない店の左端の学習机(お会計用だろうか?)で、居眠りしているおかっぱの女の子。見た目は、ぼくと同じ高校一年くらい。あれ、なんか変。まぁいいか。
一度ポニテさん(仮)に視線を、送ってから姉(?)に歩み寄る。
「あの、すいません。 そのー」
「んんー?」
姉(?)が、顔をあげる。目が合う。垂れ目ですね。
「......誰ですかぁ?」
ゆったりと、如何にも眠そうに話す姉(?)
「お客さん、です。 えぇ、ハイ」
いつの間に、ここまで来たのかポニテさん(仮)が「姉ちゃん起きて」とやる気なさげに言う。
「なにを、いってるのですかぁー? わたしは、おきてますよぉー」
「じゃ、商談進めてよ」
そう、言い残してさっさと店の奥にはいっていってしまった。
「あのー......」
「はい。 お客さんですよね? わたしは、ここの店主兼学生のあきつと言います。なにを、お買いになりますか?」
急にしゃべ出したな、この人。
「その、自殺に使う道具を......」一瞬、あきつさんの目つきが変わった気がした。
「いえ、そのですね。 すみません。今は、このいくら頑張っても首が締まらないおもしろ首絞め縄しかなくてですね」
「ほんとですか?」
「はい」
「間違いなく?」
「えぇ」
「なにがなんでも?」
「はい。 なにがなんでもわたしは嘘をつき続けますよ!..................あ、なんでもないです」
嘘かよ。もっと頑張れよ。
「あるんですね。 売って下さい」
「え、えーとですね。 その......そう! 審査です! その人が、死ぬのにふさわしい人か、審査するんです!」
「嘘くせぇ」
「ひどっ!? 全然信じてませんね?」
「うん」
「て言うか、なんでこんな店がネットで評判良いの?」
「あ、それ業者さんです。楽に死ねたよ☆とか最高の死に心地とか、そう言うコメントばっかりだったから誰も騙されないと思ってました」
そんな、馬鹿な。
「あぁーもう、いいです。 今日は帰ります。 こんな店二度と来ませんよ!」
「あ、それならおもしろ首絞め縄買ってって下さい。 あれ、ほんとに、おもしろいですよ!」
「わかったよ。 買う。買うから! だから、もう帰らせてくれ」
「1800円になりまっす♪」
たけぇよ。
でも、取り敢えず買って帰るか。 何故かそんな気持ちになった。正直、調子狂った。死ぬのは、もう少し後で良い。
駄菓子屋から出ると、もう雨はあがっていた様だ。海は、雲の隙間から差し込む光を、反射してどこか優しく輝いていた。
初めてなので、変な所もたくさんあるとは思いますがどうぞ空空 空をよろしくお願いします。